北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海底の戦艦武蔵 世界七つの海を制覇した艨艟、大和型戦艦とその時代

2015-03-04 23:10:30 | 海上自衛隊 催事
◆戦艦武蔵とその時代
 ポールアレン氏が発表した70年目の戦艦武蔵発見、本日は戦艦武蔵とその時代について少し記してみましょう。

 大和型戦艦が開戦時に5隻あれば、日本は戦争に勝てたのではないか、こうした話は御年輩の方等に居酒屋で、初対面の方を含め当方が多少その分野の知識を有していると知られれば数回は振られる話題です。多くの方は戦艦だけの戦力の時代ではないので結局は負ける、と多少知識のある方を含め模範解答を出されますが、当方はそうした優等生的回答には少々外れた回答を示します、大和型戦艦は第一次大戦後の世界大戦再発阻止を期した1922年のワシントン海軍軍縮条約が失効した1936年から日本が最初に設計した戦艦です。

 大和型戦艦は1937年計画で2隻の建造が計画され、1941年に大和、1942年に武蔵、が就役しました。この点に留意し、開戦の時点で大和型戦艦5隻を建造できる能力があれば、造船能力でアメリカへ対抗でき得る物量戦を展開できた可能性がある訳です。イギリスは、ワシントン海軍軍縮条約失効後に、1936年計画と1937年計画でキングジョージ五世級戦艦、キングジョージ五世、プリンスオブウェールズ、デュークオブヨーク、アンソン、ハウ、の5隻を建造しました。

 アメリカは1937年計画でノースカロライナ級戦艦2隻のノースカロライナ、ワシントンを建造し、1938年計画でサウスダコタ級戦艦サウスダオタ、インディアナ、マサチューセッツ、アラバマ、の4隻を建造しています、これに対抗できる造船力が無ければ対応できないのです。

 即ち、太平洋戦争開戦の時点で大和型戦艦5隻を建造するには、1937年計画で一挙に5隻の大和型戦艦を建造できる造船能力と経済力が必要になり、それだけの建造能力と予算があるならば、1941年の海軍第5次充実計画所謂マル5計画で計画された雲龍型航空母艦なども実際には1944年中ごろから天城と葛城のみ完成しただけでしたが、笠置、阿蘇、生駒、鞍馬等の未成艦の完成はもちろん、25隻程度は1944年までに完成させることができたでしょう。

 ソロモン群島での駆逐艦の急激な消耗に対しても、松型駆逐艦や鵜来型海防艦を百隻単位で量産でき、対応できたでしょう。更に逆にそこまでの生産力と経済力があれば、太平洋戦争そのものが生起しなかった可能性も捨てきれないかもしれません。もちろん、それを支える経済力があれば、戦車や戦闘機などの量産もさらに効率的にできたやもしれない、と、今日的には後知恵にて言えるところ。

 しかし、大和型戦艦は46センチ砲を搭載する巨大戦艦でしたが、最も惜しまれるのは、活用されなかったことです、建造にはかなりの困難を要しました、これが活用されなかったのは残念でなりません。技術面では別の機会に記そうと思いますが、照準能力等の面で電探技術と測距装置を組み合わせる射撃指揮装置開発等の遅れや冶金技術の限界による大口径機関砲量産技術の遅れ、機関砲を始め防空火器の動力化断念などが全体としてのシステムとしての戦艦としての能力に限界を示していました、しかし、46センチ砲搭載は大きいものでした。

 二隻の大和型戦艦ですが、もっと活躍の場はあった、限られた燃料や資源を元としてもこう考える事があります。大和型戦艦は、駆逐艦16隻分の燃料を要するので運用に限界が、とは戦艦大和の存在を日本に広く知らしめた1953年の新東宝、映画戦艦大和の劇中で高島忠夫演じる高田少尉が語った台詞ですが、大和型戦艦が活用されるべき舞台はむしろ大戦以前にあった当方は考えます、それは日本が建造する新型戦艦は46センチ砲を搭載する最新鋭艦であり、ノースカロライナ級戦艦とキングジョージ五世級戦艦を一方的に圧倒する火力を有する、と公表することでした。無論、建造さえ自国の大蔵省にも秘匿した海軍省にはこれを求める事は無理な相談ですが。

 新型戦艦は46センチ砲を搭載する、ということが明示されたならば、ノースカロライナ級戦艦40.6センチ砲、キングジョージ五世級戦艦35.6センチ砲、イギリスはこのほかに条約型戦艦であるネルソン級のネルソンとロドネーが40.6センチ砲を搭載し、条約以前のロイアルサブリン級6隻とクイーンエリザベス級戦艦5隻にリナウン級巡洋戦艦2隻と巡洋戦艦フッドなど38.1センチ砲を採用していますので35.5センチ砲はロンドン条約に基づくものなのですが、どれも大和型戦艦の46センチ砲に対して見劣りするものでした。

 軍隊の最大の役割は抑止力による戦争の回避です、巨大戦艦の46センチ砲、その存在を公としていたならば、ドレットノートショックのように新型戦艦の登場により従来戦艦が一斉に陳腐化し、それまでの建造艦の価値を著しく下げる事が出来たでしょう。その衝撃を元に、戦闘ではなく抑止力として掲げ、日本がアメリカなどとの外交交渉の場に臨んだならば、或いは戦争を回避し、我が国は必要な権益を維持しつつ共存共栄の選択肢が有り得たかもしれません。戦後の日米関係がステイクホルダーとして双方の利益を両立しえた実情を見ますと、禁じ手の後知恵にて、そんなことを思いました次第です。

北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 戦艦武蔵、フィリピンシブヤ... | トップ | 35000発の不発弾処理完... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2015-03-05 23:13:50
「大和型戦艦が開戦時に5隻あれば」じゃなくて「大和型戦艦が開戦時に5隻持てる国力があれば」ですね
こういう「たら・れば」は酒の席のネタとしては盛り上がるかもしれません
そして翌日シラフに戻って後悔(笑
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

海上自衛隊 催事」カテゴリの最新記事