北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

EFV海兵遠征戦闘車開発中止 次世代米軍装備開発頓挫を俯瞰する

2011-01-12 22:36:22 | 先端軍事テクノロジー
◆Expeditionary Fighting Vehicle
 海兵遠征戦闘車として開発中のEFV開発中止に、水陸両用の装甲車だけれどもウォータージェットで推進するEFV,開発中止になったそうです。
Img_533 この話題、扱ってほしいとのお話もあったんですが、EFVの写真も撮った事ないし、専門誌に任せましょうよ、と思いつつ、まあ、終わった装備を扱うのも少ないでしょうし、当たり障りない事を富士学校祭準備写真でお茶を濁しつつ記事を作成してみました。富士学校祭準備の写真にはどこにもEFVは出てきませんが、そこら辺は事情を察して、EFVの写真なんかは海兵隊のHPなんかを見ていただければ、と。公的機関の写真はパブリックドメインなので掲載しても法的に問題はないという声もありますが、まあ、北大路機関の方針という事でご理解ください。駐屯地祭前に雑談している声が流れてきた、というような感じで聞き流していただければ幸いです。

Img_1982 海兵隊は現在AAV-7水陸両用装甲車を上陸作戦における第一波として使っているんですが、基本が水に浮く装甲車にスクリューを取り付けたものなので遅い、これではゆっくり会場を移動している間に陸上からの攻撃で上陸時に破壊されてしまうってんで、70年代からこの種の装甲車の後継を構想していました。とにかく水上を素早く動かなくては、という事だったんで、高速艇に足回りをつけたり、ホバークラフトに変形できる装甲車を開発しようとしたりで、右往左往。ホバークラフトに変形できる装甲車は変形出来なくしてエアクッション揚陸艇LCACとして落ち着いたみたいなんだけれども肝心の装甲車は遅いまま。

Img_5174 これじゃイカンと頑張ってみて、とにかく水の抵抗が大きい履帯部分と駆動系を車内に格納できる王にしよう、水の抵抗を減らすんだそうやって、飛行機もやっている!、と開発が始まったのがEFV,いや当時はAAAVといわれていた。AAV-7よりもAが一つ増えたのはアドバンスのA,あの頃は先進、って一言つけば予算が通った時代だったんだ。抵抗部分を格納した上で、今度はウォータージェットを取り付けてみた。何と言っても馬力は戦車が頑張って1500馬力のこの時代に2703馬力のエンジンを搭載。唯一の計算外はこのエンジンが重すぎて車体の中央、本来兵隊さんを納める部分が全部エンジンに採られてしまって、兵隊さんは車体の両端隙間に押し込まれた事かな、居住性最悪だけれども上陸を高速で達成するためにはいたしかたない、と我慢するよう言われた。

Img_5206 水上速力は46.3km/h!。実験の際には追い付ける車両なんてないから海軍から特殊作戦用の高速艇を借りてきて追随したほどの高速でした。 実際には24ノット程度なんで、船舶としては揚陸艦が14~22ノット、護衛艦や駆逐艦が30ノット、ミサイル艇で40~50ノットということで、そこまで早い訳ではないのだけれども、これまでの水陸両用車両と比較すれば装甲車としてはかなり早く、61式戦車の陸上での最高速度が45km/hだったことをかんがえると、これは信じられない、というほかない程の速度でした。

Img_5506 武装も重視されていて、これまでのAAV-7は機関銃と擲弾発射器しか搭載していなかった、照準なんてもうかなり安ものを搭載して狙いをつけていたんだけれども、海兵隊には現在最新鋭のM-1A1スマン少し古いけど、新世代戦車が入っているんで、この戦車と協同するために火器システムも新型を、と求められた、M1戦車と同レベルの照準装置&暗視装置に合わせて30mm機関砲を搭載してみたんだ、しかも現用車両なんで各車両に戦術インターネット搭載、他の部隊との連携も可能だ。まあ、EFVの大群が敵の戦車大隊と正面から衝突、なんてことはあり得ないけれども主力戦車が出てきてもかなり対抗できるというレベルで、砲塔だけ海軍の揚陸艦に搭載して小型船舶接近攻撃対処に使っているほどの装備です。

Img_5536 問題は、・・・、海兵隊が最後に上陸作戦をやったのは1992年のソマリアPKOの時だけ。覚悟を決めて上陸したら武装勢力がどっかに逃げちゃって上陸地点にはマスコミしかいなかったというアレの時だけ。湾岸戦争は危険が大きすぎるという事で陽動作戦しかやらなかった、それ以外は上陸というより揚陸(上陸=敵がいるところ、揚陸=味方がいるところ)だけ。ヴェトナムのダナン上陸もどちらかというと揚陸の要素が大きかったので、インチョン上陸当たりを思い出すというところかな。そもそも演習以外でほとんどやらない上陸作戦用に専用の装甲車を導入するのは、という一言、そして更に作戦の中でも上陸は一瞬で内陸に攻めてゆく新車両に2703馬力のエンジンはちと贅沢では、という一言。それもそのはず、十陸したら2703馬力のエンジンは大半を機能停止させて最大851馬力に落として使う事になってた、そうしないと駆動系が焼きつくらしいので、ね。

Img_5547 そしてそれだけ高性能を盛り込んだ事で価格はだんだん高くなってきた、2015年配備開始をもくろんで、単価はなんと1700万ドル。実は理由があって、2003年からのイラク戦争で戦費が必要になり、EFVの予算も流用されちゃったんだ、・・・。計画が遅延すればそれだけ研究者の人件費なんかを筆頭にコストは高騰する。そしてイラク戦争で、特に大規模戦闘終了後の武装勢力による路肩爆弾や積層地雷、対戦車ロケット集中射撃を受けた米軍、装甲車には防御力が重要、と結論付けてしまった。イラク戦争以前は、サッと行ってサッと帰る方式の軽量で緊急展開能力に優れた車両こそ次世代米軍車両、とか言われていたんだけれどもこういう車両だと装甲もそんなに分厚くないので破壊されやすい、精一杯工夫してもやっぱり重量のある装甲の方が良いや、という事で次々と計画が変更してゆく、将来戦闘車両FCSなんかも次世代の米軍は全部これで、とか言われていたのに軽量重視で走行そこそこ、という車両だったんで全面見直し、事実上の中止に。またこのEFV,水に浮く分やっぱり軽装甲、車体はアルミ合金。これも響いたのかな、開発中止だそうです。

Img_5574 ええ?でも人民解放軍が沖縄に上陸してきて占領されたら奪還する第二次沖縄戦(まず上陸時に自衛隊が抵抗するので海兵隊の逆上陸は第三次沖縄戦か)でもろ使うじゃないの!、とか思いたくなるのだけれども正直これ以外、まさか将来イランに上陸するとか、海賊を陸上まで追いかけてソマリアへ上陸することもなさそうだし、ということで優先度は低くなった。ヘリボーンでLAV-25装甲車と空輸して海岸周辺を確保、そのあとLCACでM-1戦車を上陸させれば何とかなりそうだし、ということらしい。ううむ、ここまでやったんなら、もう少し廉価版とかを創っておいて計画の一部でも生き残らせる方法はなかったのかな、と思いつつも、仕方ないようにも。
HARUNA
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米軍は代替手段があるので良いのですが、我が国の... (雨辰)
2011-01-13 20:18:01
米軍は代替手段があるので良いのですが、我が国の離島防衛には有効な抑止力になり得ただけに残念です。こうしてみると某国の高速で高打撃力を持った水陸両用戦車が突出した性能であることを改めて思い知らされます。

専守防衛の我が方の対抗手段としては洋上ではヘリからのヘルファイア、上陸されてからは高空からのLJDAMやおおすみ級に運用車両を搭載しての中距離多目的誘導弾などになるのでしょうか。
返信する
なんか吸いませんね 申し訳ないです (海の無い県)
2011-01-13 22:01:42
なんか吸いませんね 申し訳ないです
中国の水陸両用作戦の装備充実のさせっぷりを見ると、自衛隊の現状はどこか心もとない気がします
水陸両用装甲車が必要なのでは?
と思って色々なのを見てると
元陸将の一人が、水陸装甲車ではなくて
高速輸送艦が必要だと書いてるのを見た事があります

実際どうなんでしょうかね?
まずは定員の拡充が先なののでしょうかね実際は
返信する
雨辰 様 おはようございます (はるな)
2011-01-17 07:14:27
雨辰 様 おはようございます

05式水陸両用戦車は速力で20ノット近く出ますので、水上戦(?)で対抗できるのはEFVくらいでした。しかし、陸上の戦車と撃ち合うというのはどの程度可能なのか、水上は遮蔽物が少ないので重MATや御指摘の通り中距離多目的誘導弾あたりが沿岸部に展開していた場合どうやるのか、軍事的には対処できそうなのですが、しかし政治的にこの種の装備で恫喝された場合、民心安定には何か別の装備が必要というようにも見えなくはありません。別に水陸両用では無くても良いので機動戦闘車でもいいのですが。
返信する
海の無い県 様 おはようございます (はるな)
2011-01-17 07:22:49
海の無い県 様 おはようございます

当方も関心がありましたし、書いてみました。

自衛隊の場合は上陸よりも揚陸、特に北海道への増援を意図してきましたからね。しかし、水陸両用装甲車については、上陸後、非常に大きい車体が邪魔になりますし、AAV-7なんかも凄い!・・けど不要、という事になるのではないでしょうか。

特に水陸両用装甲車の多くは、これは欧州製に挙げられるのですがライン川のような河川を想定していまして、EFVが目指したような陸上の火砲射程外の揚陸艦から進出させる航続距離や太平洋や日本海沿岸のような厳しい波浪に転覆しない水陸両用装甲車となると少ないのではないでしょうか。

定員ですが、基盤的防衛力から動的防衛力へと言われているさなか、定員、それよりもヘリコプターの普及率を拡充することが第一でしょう。第12旅団のヘリコプター隊はCH-47JAとUH-60JAが各8機、OH-6Dは4機でしたか、この程度のヘリを戦車中隊を配属出来ない、そして装甲化されていない各普通科連隊に配置くらいできなければ、動的運用なんて無理だと考えます。UH-60JAはロケット弾と機関砲くらい装備したいですね。逆にいえば、水陸両用装甲車よりもヘリボーン部隊が十分であれば、可能な任務の幅は広がります。
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