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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中東地域でのパワーバランス変化と米軍再編失敗の我が国防衛への影響

2015-10-07 22:50:09 | 国際・政治
■安全保障環境激変の兆し
 現在中東地域に生じている国際関係の変化は、倍によっては我が国防衛環境に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 我が国は専守防衛を国是としつつ、自由と自己実現を実現する価値観を共有する諸国間の平和への取組へ積極的に関与する姿勢へ転換を模索しているところですが、それ以上に中東地域における変化が顕著となってきました、変化とはロシアの中東地域への影響力拡大とアメリカの脱中東とも取れ得る一連の施策です。

 ロシアはシリア政府と協同しシリア内戦への本格的介入を開始し、併せてシリア内戦へのイラン軍本格介入に際しロシア軍とイラン軍の協同も視野に調整が進められています。1979年にソ連軍がアフガニスタンに侵攻し、ソ連軍の影響力が直接中東地域へ波及するのではないかとの危惧は、形が異なるものの具現化したかたち。

 併せてサウジアラビアとロシアとの石油市場に関する会議が両国のエネルギー当局者間で実施され、サウジアラビアとアメリカがシェールガスシェールオイル革命を契機としてのエネルギー国際市場での協同から競合への変化により温度差が生じた中、ロシアとサウジアラビアは従来からの温度差を是正する方向へ動きました。

 アメリカの中東における位置づけの相対的変化は、2000年代から兆しが見えつつありました、最大のものはブッシュ政権下の米軍再編で、主たる姿勢は米軍の世界規模での前方展開を改め米本土へ部隊を集約すると共に機動力の抜本的向上への装備近代化を行い、展開も世界の少数の戦略拠点へ転換させ必要に応じ緊急展開するという基本思想のもとすすめられたのですが。

 この米軍再編は、必要とする装備開発がイラク戦争とアフガニスタン介入戦費により中途半端なものに終わり、沿海域戦闘艦計画やDD21将来駆逐艦構想、FCS将来旅団構想とストライカー暫定旅団構想は軒並み中止か大幅縮小、遅れてはいますが統合打撃戦闘機計画JSFのみF-35として維持されている状況です、しかし、米軍基地の再編、即ち前方展開部隊の大幅な本土再配置のみ、進んだところ。

 更に、クリントン政権時代とブッシュ政権時代に中東地域へはイラク戦争前のサウジアラビアとクウェート駐留、イラク戦争後はイラク占領部隊として10万規模の部隊が駐屯し、9.11同時多発テロ後のアフガニスタン介入でも最盛期10万以上の規模の部隊が駐屯していたのですが、撤兵のみを公約として政権に就いたオバマ大統領により兵力の大半が引き、ISILの台頭、タリバンの復帰、アルカイダ再活性化などの危機が再発します。

 ここに追い打ちをかけたのは2011年以降顕在化したアラブの春に伴う中東北アフリカ地域の不安定化、ボコハラムとジャンジャウィードによる中部アフリカ地域の不安定化が進み、こうした危機に際し、米軍は従来ならば地域へ前方配備する部隊が人道介入を行い、米軍再編後の運用思想によれば当初は戦略拠点へ機動力の高い緊急展開部隊が展開し、紛争拡大を阻止する構想でした。

 しかし、一旦軍事力の投射を撤兵を念頭に大統領に就任したオバマ政権下では消極的となり、後に残ったのは米軍再編という本土集約により地域での米軍プレゼンスが大幅に低下したのみという厳しい状況です。そこに、生じた空隙に対応する形で中東地域へロシアが関与を開始し、中央アフリカ地域へは中国がプレゼンスを伸ばしています。

 冷戦期、アメリカは南アフリカの金とサウジアラビアの石油を世界に供給する基盤を構築する事で世界安定化に影響力を行使してきましたが、これを転換しつつある状況ですが、これらは世界秩序の一端ではなく根幹を担った影響力を放棄している訳であり、当然影響力の低下は形を変え、我が国の環太平洋地域への波及の可能性も無視できません。

 もちろん、国際金融や基軸通貨供給に先物取引市場と知財管理の面でアメリカは今なお我が国と中国やEU全体と比較しても桁違いの規模を有する唯一の超大国です、更に軍事力と軍事技術の面でも圧倒しており、この優位性は容易には転換しないでしょう、しかしそれも軍事力の投射と力の行使の時機を誤らなければ、と。

 北東アジア地域での米軍は、在日米軍をほとんど唯一の例外として1990年代初頭に在比米軍の全面撤退が行われ、それ以前の米中国交正常化の際に台湾からの撤退とヴェトナム戦争敗戦と共に東南アジア地域からの常駐部隊の撤退が進められたほか、在韓米軍は戦時作戦権韓国返還が迫り在韓米陸軍の大幅縮小も行われ、全体として大幅に縮小しました。

 軍事力を安易に投射しないという姿勢は、抑止力全般を大幅に低下させるものとなりますし、駐留規模が縮小すればその影響は更に大きくなります。また、中東での影響力低下は、中東のエネルギーに依存する我が国の交渉への価値基準が変容し得る可能性を残しますし、米軍の抑止力が北東アジア地域で低下する場合は、我が国と価値観を共有する国か我が国自身が、その空隙を補完する方策を模索しなければならなくなるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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1 コメント

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Unknown (流線形)
2015-10-08 01:14:53
論旨は明快ですね。
ただ、それをインパクトがある形での実行は難しいでしょう(騒がれるので)。
しかしながら、ジブチへの陸自・施設隊の派遣といった施策は染み入るように効果を生むと思います。
じっくり腰据えて、目に見えるような形での浸透を図り、今後の布石へ向けた基礎を固める段階でしょうね。
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