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豪州海軍次期潜水艦選定、三菱重工中心の多国間国際分業体制での建造軸に調整か

2015-07-26 22:31:23 | 国際・政治
■そうりゅう型潜水艦輸出
 ロイター通信などによれば豪州次期潜水艦選定は三菱重工を中心とした多国間国際分業の方向で調整中とのこと。

 豪州海軍が現在のコリンズ級潜水艦の後継として検討する将来潜水艦、コリンズ級はスウェーデン企業の協力を受け建造されましたが、幾つかの事由により大きな欠陥を有する潜水艦として豪州海軍の課題となっています。一つはスウェーデン製潜水艦が元来沿岸作戦を軸に開発されたもので豪州海軍が求める広大な豪州大陸周辺海域を哨戒するには未経験の大型潜水艦建造が求められその技術面で途上部分があった点、もう一つは豪州国内に潜水艦建造の実績が薄くその工程などの面で技術未熟が完成した潜水艦性能を大きく制限したこと、というものがありました。

 これを受け、豪州海軍次期潜水艦選定は、豪州海軍が想定する広域哨戒能力を有する海上自衛隊の潜水艦に早くから着目しており、実際に野田内閣時代より本格的に日本への潜水艦供与を求める交渉を行ってきました。当初は、豪州海軍が環太平洋合同演習などで性能に注目していたという海上自衛隊そうりゅう型潜水艦の輸出は武器輸出三原則の観点から難しいとされてきましたが、野田内閣と政権復帰を果たした安倍内閣のもとで防衛技術移転三原則として再検討が為され、これにより海上自衛隊の潜水艦が第三国へ輸出される可能性が現実味を帯びてきたわけです。

 豪州海軍次期潜水艦選定は、実に総額500億ドル規模の契約となる見通しであった為、フランス企業やドイツ企業などが名乗りを上げており、しかしフランス海軍には原子力潜水艦の建造経験がある為広域哨戒任務に対応する通常動力潜水艦という建造ノウハウが大きいとは言えず、ドイツ製潜水艦に至っては2000t級潜水艦をそのまま4000t豪州の予算により拡大再設計するとの方針が定められていた為、日本製潜水艦が調達される見通しが立っていましたが、豪州国内の防衛産業維持への要望などが大きく、この点で幾度か頓挫してきましたのは既報の通り。

 今回報じられた内容は、イギリス企業でコリンズ級潜水艦の整備支援等を行うBAB.Lバブコックインターナショナルグループと、イギリス防衛産業最大手で世界最大規模の防衛産業であるBAEシステムズが、三菱重厚の潜水艦を豪州使用とし、併せて豪州国内の潜水艦建造能力整備と防衛産業維持に協力するとの指針です。実際、豪州では数千名規模の雇用を抱える海上防衛産業維持は大きな課題であり、現在の豪州アボット政権は潜水艦性能単体ではなく防衛産業維持と特に雇用維持を大きな選定要素とみなさざるを得ないとの見解を示しており、単純に性能と費用だけでは決定し得ません。

 この決定は、多国間共同事業とすることでリスク分散をおこない得る点、更に将来的に輸出に注力せざるを得ない防衛力再編が行われ失われる国内需要の基盤維持へ向けた輸出ノウハウや海外仕様装備の開発に関するBAEなどの進んだ体制を学びえるという利点はあるのですが、併せて技術流出防止の能力が充分であるのかという不安、更に多国間共同開発が結果的に試用と運用への理解の多元化を生むことで知識集約と共有が円滑に行えず錯誤と齟齬により開発長期化と開発費増大を呼ぶ可能性がリスクとしてあります。このため利点だけではなく未知数の分野が多いわけなのですが、長く結論がでない豪州海軍次期潜水艦選定が一歩前進した、とは言う事ができるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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8 コメント

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Unknown (平和国民)
2015-07-27 03:23:25
 日本側のこうした受注に向けた動きは、やっぱり豪州側の意向を受けてのものなのでしょうか。
 船頭多くして(ry はコリンズ級失敗の主要原因のひとつです。発注側に条件を良くしようとしてプライムに丸投げせず、あれこれ条件をつけて口出しして各企業を競わせて参加させた結果、責任が分散して全体を掌握出来ずにgdgdになりました。それに加えて豪州経済のために地元に仕事を落とすことを求めたものの、そもそもASCには潜水艦を建造するだけの技術力がありませんでした。ノウハウもないのに利益最大化ばかりを求めて値引きや競争原理導入やワークシェアばかりを求めると、往々にしてプロジェクトそのものが失敗します。豪州は前回の失敗に全く懲りてないように見えます。
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Unknown (Unknown)
2015-07-27 08:16:49
そうりゅう型は海自の最新鋭潜水艦

やはり技術流出防止の能力が不安
特に多国間共同開発となると尚更
返信する
Unknown (Unknown)
2015-07-27 15:14:24
豪は、昔からある自動車産業を見捨てた。まして、相当前から現地で活動していたトヨタに工場閉鎖を決意させた。ここは、ロシアのような社会主義が残るという。労働組合も、今や社会状況や国家への貢献を意識しない亡霊と化している。政情不安定な地と言える。

トヨタ撤退に見る地場産業がとても貢献できるものと思えない。たかが、潜水艦数隻で経済に貢献など、難しい。今一度、豪首相には再興願うべきでなかろうか。世界最先端の技術を披露するには、早すぎる。防衛庁も、まだ輸出に関し慣れていない。その費用も世界からの問い合わせで膨大だろう。まして、軍用航空機など仕様がまとまらないと言わざるを得ない。まして、数千億円程度で、技術移管などと騒ぐ国家もある。これらの事業は再興する時期だろう。
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Unknown (Unknown)
2015-07-28 13:08:14
はっきり言ってこの件は無かった事にした方がいい
BAEを始めとする欧州企業は日本の潜水艦技術を盗みたいだけでメリットよりデメリットが多過ぎる

そうりゅう型潜水艦よりもP-1哨戒機やP-3Cの中古機、US-2を輸出した方が国益になる
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潜水艦建造に関わる政治システム (はるな)
2015-08-13 19:55:09
平和国民 様 こんばんは

利益分配の対象が複雑化しすぎるので政策決定への要求がどんどんと複雑化し、利益分配の対象が増大する事で潜水艦という装備品を受け取る豪州海軍が多数の利益享受者の一部に過ぎなくなる事で生じた不合理、というところでしょうか

これ、単純にイーストンやルーマンなんかの政治システム論で説明すると分かりやすいような気がします

ASUや関連企業に豪州海軍と経済団体の要求を政治システムを通し政策として出力するというもの、要求と利益分配が複雑化する事で政策が変化するという事象の典型例ですから、誰か修士論文当たりで地域研究の具体例を政治システム論からの解説した論文等、書いてみるといいやもしれませんね

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必ずしも簡単に摸倣できないのですが、ね (はるな)
2015-08-13 19:57:16
2015-07-27 08:16:49 様

潜水艦建造、しかし戦闘システム等は日本製をそのまま導入する訳ではなく豪州海軍仕様のものを開発するようですし、元も必要なのは船体部分と推進装置の防音振動防止措置で、これは簡単に摸倣できないものですから、あまり考え過ぎるのもどうかな、と思います
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社会主義=ロシアでは・・・ (はるな)
2015-08-13 19:59:49
2015-07-27 15:14:24 様 

労働団体の意見が通る事は、必ずしも社会主義国を意味するものではありませんし、そもそも社会主義=ロシアではないというところ、誤解があるようで・・・、そもそも社会主義を標ぼうしたのはソ連でロシアは単なる共和制国家なわけですが

潜水艦建造ですが、しかし全体で十数隻以上、今後の豪手海軍の潜水艦建造を輸入とするか国内で生産するか、という部分を含んでいますので相応に大きな経済と政治的影響はあると考えます
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お互い様という部分も (はるな)
2015-08-13 20:02:03
2015-07-28 13:08:14 様

BAEには確かに何か日本との共同研究により得るものがあれば欲する視点はあるようですが、しかし、これ、日本のF-X選定のBAEと三菱重工の意見交換で日本側にもこの種の視野はあった訳でして、お互い様、という気がしないでもありません

一方、流失させない努力と交流により得る利益の部分を均衡模索することこそ、過度な閉鎖主義に陥るよりも重要か、と
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