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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上自衛隊 ソマリア海賊対処に東アフリカ沖派遣を検討 (第二回)

2009-01-11 11:33:00 | 防衛・安全保障

■国家再建までを視野に含めるべき

 ソマリア沖の海賊が問題となっているのは、マラッカ海峡と異なり取り締まる沿岸国の治安寄港が脆弱である、という点である。単に護衛艦で船舶を護衛し、海賊を駆逐するだけでは根本的な解決にはならない、つまり、海上自衛隊だけ派遣するのでは不充分なのではないか、というのが本日の論点。

Fh020003  海上自衛隊の派遣が検討されているソマリア沖以外にも調べてみると、アフリカ沖でも過去に海賊被害が多発していた海域があった、それはソマリアのある東アフリカではなく、西アフリカのナイジェリア近海で、当時は政情不安という状況にあった。この地域における最盛期の1981年にはナイジェリアのラゴス港で一日平均12件の海賊事件が起きていた。

Fh000001  しかし、政情が安定し、治安機構が機能するようになると海賊行為は減少し、逆に90年代以降、紛争地域である、アンゴラ、ソマリア、スーダン周辺が海賊の多発海域となっていった。実は、ソマリアは、90年代半ばに国家再建の見通しが立った時期があった。

Fh040030  ソマリアの治安回復に道筋を立てていたのはソマリア法廷会議という機構で、治安機関の再建も行い、海賊に対しても厳しい取締りを実施。これによりソマリア周辺海域の海賊は一掃されている。しかしながら、この再建母体となる政府が、イスラム聖職者により構成されていたことから、隣国との間での係争を呼び、2006年には、アメリカの政治的支援のもとでエチオピア軍が軍事介入した。

Fh010028  アメリカの政治的支援の背景には、このソマリア法廷会議がアルカイダとの関係の可能性をみていたためであり、政治的に後ろ盾を受けたエチオピア軍はソマリア法廷会議を圧倒、2007年1月には、ソマリアの首都モガディシオを制圧、続いてソマリアの沿岸部全域から一掃した。エチオピア軍は任務を完了し、撤収、これにより再びソマリアは無政府状態となった。暫定統治機構が置かれたものの、治安を回復させるまでの能力はなく、結果、海賊を取り締まる機構も自動的に消滅したため、再び、法治の及ばない海域がソマリア沖に出現、海賊を取り締まるべく護衛艦の派遣が検討されているのが今日の状況である。

Fh000021  結論を述べれば、海賊対策には国家機構の再構築が必要である。エチオピアが、国連カンボジア活動や国連モザンビーク活動のように国家再建まで、行っていれば、また状況は異なったのだろうが、そこまでの余力はなく、法が存在しない真空地帯、アガンベンの表現を借りれば“例外状態”が出現しているわけである。根本から海賊を取り締まるにはどうするか、陸上の海賊拠点を撃破する、という踏み込んだ案もアメリカやフランスでは提示されているようだが、治安を回復させても、外国軍が撤収すれば、状況は基に戻る。

Fh010023  従って、ソマリアの国家機能の再建、もしくは西アフリカ共同体(ECOWAS)の海軍力を増強させ、一種の国際平和維持活動として展開することが最終的な問題の解決に至るものと考える。例えば、日本は現在、護衛艦の派遣などを重点的に検討しているようだが、将来的にはソマリアの司法警察要員を海上保安学校において養成を支援したり、場合によっては行政機構の再建などにも協力し、問題を根本から解決しなければ、いたちごっことなり、部隊の暫時投入を繰り返し強いられることとなろう。

HARUNA

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コメント (2)
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