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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ステッドファスト フォーミダブル級フリゲイト(FORMIDABLE CLASS)

2008-09-04 19:26:02 | 在日米軍

■F-70 Steadfast

 先日横須賀を親善訪問したシンガポール海軍のフォーミダル級ステルスフリゲイト、ステッドファストについて、本日は紹介したい。満載排水量では、“たかなみ”型の半分程度、“はつゆき”型よりも小型ではあるが、興味深い点が多いのが、今回のステッドファストである。

Formidable_class_img_2440  シンガポールは、国土が淡路島と同等ながら、マラッカ海峡に面する地政学上の要衝に億土を有し、人口449万人、GDP1320億ドルという、東南アジアにおいては屈指の工業国として知られる。国防予算は64億ドルと、かなり高く(例えば北朝鮮の国防予算が23億ドル)空軍は、F-16や空中給油機、早期警戒機などを運用している。

F70_steadfast_img_2517  陸軍も最近、第三世代戦車であるレオパルド2を中古にて取得する予定で、これらは東南アジアではかなりの戦力を有していることになる。今回特集するステッドファストが所属する海軍も、無視出来ない規模の部隊を有する。その陣容は、潜水艦×4、フリゲイト×4、コルベット×6、ミサイル艇×6、哨戒艇×23、ドック型揚陸艦×4、揚陸艇×34、掃海艇×4、潜水艦救難艦×2、艦載ヘリ×6、陸上固定翼機×9で、海上自衛隊の最盛期の地方隊編成よりも強力である。

Formidable_class_img_2757  横須賀を親善訪問したステッドファストは、フォーミダブル級フリゲイトの三番艦で、2008年2月に就役した最新鋭のフリゲイトである。フォーミダブル級はシンガポールが初めて導入した大型水上戦闘艦。フランスのラファイエット級をベースとした新型艦で、高いステルス性を有する設計が特色だ。フォーミダブル級の満載排水量は3200㌧であるが、ステルスフリゲイトとして名高いラファイエット級の系統にある艦型であり、レーダー反射面積は掃海艇程度といわれる。

F70_steadfast_img_2434  フォーミダブル級の要目を列挙すると、全長114㍍、幅16㍍、喫水5.0㍍。ディーゼル推進方式を採用しており(これはガスタービンエンジンよりも瞬発性に劣るが音響ステルス性が高いともいわれる)、四基二軸により出力は48276馬力、速力は27ノット。航続距離は、巡航速度を維持した場合4000浬。武装は、76㍉単装砲×1、アスター15短SAM×32(垂直発射機に搭載)、ハープーン対艦ミサイル×8、20㍉単装機関砲×2、324㍉短魚雷発射管×2。S-70Bヘリコプター1機を搭載し、乗員は76名である。

Formidable_class_img_7787  シンガポール政府は、デルタ計画として3000㌧級のフリゲイトを極秘裏に推進、2002年11月に『110㍍型多目的ステルスフリゲイト』として、その計画を公表した。設計はフランスのDCNとの間で2000年3月に契約され、一番艦のフォーミダブルが2002年11月24日にDCN社のロリアン造船所で起工式を迎えた。フォーミダブルは、旧式化したミサイル艇の一部を代替する目的で建造されたが、3000㌧以上の大型水上戦闘艦としては、東南アジア地域においても屈指の洋上作戦能力を発揮できることを特筆しておきたい。

Formidable_class_img_2760  艦橋直上に配置されているドームは、ヘラクレス多機能レーダーを内臓している。ヘラクレスは一面回転式パッシヴフェイズドアレイ方式でFバンドEバンドレーダー。その用途は長距離目標探知から、近距離のミサイル誘導までを行える文字通り多機能レーダーであり、フランスのタレス社が開発した最新鋭レーダーである。

F70_steadfast_img_2761  このヘラクレスが管制する対空ミサイル、アスター15は32発を搭載、射程30km、A34シルヴェールVLSより運用され、高G旋回にも耐えることから対艦ミサイル迎撃に大きな威力を発揮する。なお、VLSは8セルづつ四箇所に分散配置されている。写真には、76㍉単装砲と艦橋の間にミサイルを垂直に内臓したVLSがみえる。

Formidable_class_img_8082  2000年代の艦載ミサイルとしてユーロサム社により開発されたアスター15(艦載装備に関する資料ではアスター15が射程15km、アスター30が射程30kmとしているのだが、フォーミダブル級に関する資料では、アスター15を射程30kmと解説するものが多い)は、ユーロサム社というフランスとイタリアの合弁企業による共同開発で、発射後は慣性誘導により飛行、そのご目標に関する指令を受け、アクティヴレーダーホーミング方式により目標に命中する。弾頭はHE10kgとされており、目標が急激な回避行動を実施した場合を想定し、微調整を行うサイドスラスターを装備している。

Formidable_class_img_3053  対潜用として、長距離索敵が可能なEDO社製アクティヴ低周波ソーナー980ALOFTSと可変深度ソーナーを搭載しているが、対潜攻撃用の装備はアスロックのような対潜装備は有せず、短魚雷のみである。短魚雷はA244Sを搭載する。考えてみれば、ガスタービンに比して水中放音性の静粛性に優れたディーゼルを採用した背景には対潜ステルスなどもあるのかもしれない(また、排気部分がディーゼルの方がガスタービンよりも小さく済むので、上部構造物の小型化にも寄与しよう)。

F70_steadfast_img_3043  対水上レーダーは航法レーダーを兼ねるテルマ製スキャンター2001で、これによりオットーブレダ社製76㍉単装砲の管制を行う。これら、各種装備を統括運用するのは、DSTA(シンガポール防衛科学技術局)が中心となりシンガポールテクノロジーズエレクトロニクス社とともに開発した新戦闘システムである。

Formidable_class_img_3083  一番艦のフォーミダブルは、フランスで建造され2007年5月に就役、二番艦以降は、シンガポールテクノロジーズマリーン社によりシンガポール国内の造船所にて建造され、二番艦イントレピッド、三番艦ステッドファスト、四番艦テネイシャスが揃って2008年2月に就役。五番艦ストルワート、六番艦シュープリームも2009年には就役する予定で、これによりシンガポール海軍は、マラッカ海峡の地域安定化に大きな実行力を有することとなろう。

F70_steadfast_img_3087  原型となったフランス海軍のラファイエット級は5隻であるが、康定級として台湾海軍が6隻、アルリヤド級としてサウジアラビアが3隻、そしてフォーミダブル級として建造中のものも含め6隻が導入される。艦としては、海上自衛隊の汎用護衛艦と比べれば小型であり、対潜装備や格納庫などの面では劣るものの、大型化し続ける護衛艦に一つの方向性を示すのではないか、と考えたりする。他方で、マストの艦容に占める位置は、シュフラン級やアコニト以来のフランス型というべきシルエットであるが、シルエットの重心というか、マストの位置はもう少し前の方がデザイン的には秀逸なのでは、と、護衛艦や米艦を見慣れた小生などは、思ったりもする。

HARUNA

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