身近で普通にいると思っている種が、実はややこしい分類学的な問題をはらんでいることがある。遠き山々のオサムシ類やらルリクワガタ類などであれば、どれほど種が増えて分類が困難になろうとも、微笑みながら傍観できるが、日々そこらへんの生活圏で出くわす種が、分類困難な複数種で構成されているなんてコトになると勘弁してくださいよマジで、と思う。
ケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae なんて種は、今まで悩むことなく同定してきた。でも実のところ、過去から現在に至るまで難しい分類学的な議論が何度もあった種なのだ。みんなが薬剤試験に使ったりしている種は、ホントは違う学名を使用すべきという論文がでたり、それに対抗して、いやもうみんなが使ってる学名は保護されるべきだしという論文がでたりで、ややこしいコトこの上なしだ。
害虫駆除業者としては、食品上でみつかることがあるし、海外の種かどうかを調べて欲しいという依頼もあるので避けては通れないトコロ。
比較標本を収集するために、大阪市福島区海老江、和泉市信太山の惣ヶ池などのアシの枯れ茎でみつかる個体群のプレパラートを作ってみた。Tyrophagus属のオスは、胴体を横向きにしてカバーグラスで押しつぶすとムニュっと交尾器が飛び出してきて、観察しやすくなる。
すると、オスの交尾器やら上基節剛毛(scx)が、ケナガコナダニとは異なっていた。
どうやら、T. curvipenis Fain & Fauvel, 1993 のようだ。
この種はポルトガル、フランス、オーストラリアの温室などでみつかっている。
日本からランやらユリやらが輸出されることがあるけど、日本が原点てことはないよな、まさか....。ダニって基本的にコスモポリタンな種が多いから、気にしないことにしよう。