害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

ブログ人のサービス停止に伴い、gooに過去記事を保管させてもらうことにした。

ノミとネコ

2012-07-22 23:38:59 | 自然観察

夏の害虫では、ネコノミが最もイヤな相手である。暑い年には、何故か多くなるように思うが、今年はどうだろう。
何だか分からないものに体を咬まれて痒い、なんて話を聞いて、われわれ害虫駆除屋はノコノコと現場に赴くのだが、白い靴下を履くことだけは忘れないようにしている。

現場で靴下をみて、もしも黒い点々がくっついていれば、大阪であればソイツらは必ずネコノミだ。

ネコノミ以外の人家で問題化するノミというと、衛生害虫の専門書には、ヒトノミ、ケオプスネズミノミ、イヌノミ、メクラネズミノミ等が載っているが、キョービの大阪でそんなノミが増えているところなんて、見たこともなければ聞いたこともない。
ネコ・イヌ・タイリクイタチでみられるノミは、今やみんなネコノミだ。
実験室だとハツカネズミやドブネズミで増やせるので、屋外でも宿主になることがありそう。

驚くほど増えることがあって、お客さんと一緒に建物から走って逃げ出したことが何回かある。ネコノミの幼虫は砂とかゴミで繭をつくるので殺虫剤が効きにくいのだろう、大発生時には2~3回散布を繰り返してやっと治まるなんてことになりやすい。

ネコノミに咬まれると本当にいつまでも痛がゆい。咬まれた痕も長く残る。アヤシイ感じのキレイな若いお姉さんが何故か大勢いて、個室が多い大きな木造家屋にノミ駆除にいった時、お姉さん方がおみあしの咬み痕を見せようとするのを正視できなかったというのは、若い頃の思い出だ。最近は、自分と年が近い妙齢の主婦の方がみせようとする脚なども、視線を逸らすと失礼なので、お医者さんのごとく事務的に拝見できるようになった。

咬み痕が残るだけでなく、ネコノミは猫ひっかき症の媒介をすることもあるので、紛れもなく衛生害虫である。

伝染病といえば、ペストとケオプスネズミノミの関係が有名だが、今でもペストが治まっていない国では、ネコノミも保菌していることがあり、運搬者として疑わしいので、軽視できない防除対象らしい。ネコも保菌者になることがあって、ネコのくしゃみでペストがうつったなんて話も聞いたことがある。

ノミという昆虫をじっくり見ていると、その機能美にあふれる形態に感心する。ノミの面白さに魂を奪われて、親の身代を食いつぶした偉大な研究者がいたらしいが、気持ちは分かるような気がする。

Photo

ネコノミ(上の写真)以外のノミが増えている現場をみてみたいとおもうが、私は30年近く前にイヌノミをみたことがあるくらい。

北里柴三郎が活躍した100年くらい前の日本だと、とあるチョロッとペストがはやった田舎の港町で、ケオプスネズミノミを含む6種くらいが普通に人家から検出されていたそうだ。
北里博士はペスト退治には、猫にネズミ捕らせるのが良い方法と考えていたけれど、港町にいるテレンコパレンコしたブタ猫がネズミを捕るわけがない。そこで、インドからネズミ捕り上手な猫様を傭兵として取り寄せたらしい。それらの超ネコのその後の消息は分からないけれど、勲しや子孫の噂もないところをみると、きっと地元のブタ猫とならんで、海辺の堤防の上などでブタブタしながら幸せに暮らしたに違いないと思う。

私が子供の頃、蚊帳を入れていた大きな箱の底でネズミの御一家を見つけたことがある。玄関先に箱を移動させて、蚊帳を出したあと箱の底に残ったネズミ達をいじめていた。ネズミは鮮やかなジャンプをみせたが、箱が大き過ぎて外に出られなかった。
すると、大家さんちの猫がそっとやってきて、箱の中に飛び込んでネズミたちを瞬殺した。ネズミを食べている猫の口から、ポリポリという骨が折れているような音が響いて、とても印象的だった思い出がある。あんな手練れの猫は、今の日本には少なくなっているだろうなと思う。

将来、リスなどの森林の齧歯類から感染するパターンのペストが、もしかして日本でも流行ったりした場合、助けてくれる猫は現れるだろうか?