害虫屋の雑記帳(ブログ人の保存版)

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身近(?)なオオムカデ属の学名

2013-06-29 23:59:20 | 自然観察

■ムカデをじっくり見る人は少ない。靴でしっかり踏みつぶしておいてから、「え?何ムカデって?」ってコチラを振り返るような人が一般的だ。
大阪市内では、トビズムカデよりもノコバゼムカデのほうが優勢になっていると思うけれど、一般の関心を呼ぶほどのことでもなさそうに思う。
私もムカデには、あまり注意を払ったことがなかった。ずっと昔に南の島の森で、いろんなデカイのと出会ったことがある。特に夜に木登りしているときなどには、よく見かけたが、互いの平和のためにソッと避けていたものだ。
 このところ業務上の理由から、オオムカデ属を少しばかり調べ直してみているのだけれど、とても奥が深くてヤバイ魅力を感じた。今まで採集してこなかったことが悔やまれる。

手元のペストコントロール図説第2集(1987)には、日本産オオムカデの基亜種を含めた4亜種のリストがあった。
1.オオムカデ Scolopendra subspinipes subspinipes Leach
2.トビズムカデS. subspinipes mutilans L. Koch
3.アオズムカデS. subspinipes japonica L. Koch
4.アカズムカデS. subspinipes multidens Newport

本州では2、3、4が同所的に採集されるようだ。

日本語の文献では、これらの亜種の中で一番取り扱いが異なっていたのがアカズムカデだ。「新日本動物図鑑<中>(1965)」では、アカズは大きさや体色の違いで区別され、本州や四国に分布するが稀となっている。
「日本産野生生物目録 無脊椎動物編1(1993)」にはアカズが載っていない。イッスンムカデ属なんか10種も載っているリストなのに・・・。
最近の扱いは独立種(Chao & Chan, 2003)で、S. multidens とされる。
台湾のトビズはアカズとソックリなのがいるので、色彩では明確に区別できないけれど、頭部に大きな点刻があって、雄交尾器の第一生殖板に一対の付属器がなければアカズになるとのこと。

アオズムカデもいつの間にか独立種 S. japonica になっていた。
本州で同所的に3亜種がいるっていう妙な状況は、分類学者が粛々と解消していたわけだ。知らんかった。というわけで手元の資料のリストは、以下のように書き直しておくことにする。
1.オオムカデ Scolopendra subspinipes subspinipes Leach, 1815
2.トビズムカデS. subspinipes mutilans L. Koch, 1878
3.アオズムカデS. japonica L. Koch, 1878
4.アカズムカデS. multidens Newport, 1844

Scolopendra_s_mutilans

S_s_mutilans_tarsus

S_japonica_tarsus

Scolopendra_s_mutilans_male_genital

害虫駆除的に関わるコトがあるとは思えないが、日本のオオムカデ属は他にもまだいる。
5.S. dehaani Brandt, 1840 (アオズと一緒に独立種に昇格。東南アジアに広く分布。日本では沖縄本島で記録されている。超デカイらしい。和名わからん。)   
6.タイワンオオムカデ S. morsitans Linnaeus, 1758

*アカズムカデの参考文献
CHAO, J.-L. & CHAN, H.-W. 2003, The scolopendromorph centipedes (Chilopoda) of Taiwan. African Invertebrates, 4: 1-11.

*アオズムカデの参考文献
Kronmuller, C. 2012. Review of the subspecies of Scolopendra subspinipes Leach,1815 with the new description of the South Chinese member of the genus Scolopendra Linnaeus, 1758 named Scolopendra hainanum spec. nov. (Myriapoda, Chilopoda, Scolopendridae). Spixiana 35 (1): 19-27.