医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

社会保障政府

2005年12月23日 | 社会保障
 2005年の3月に、「社会保障政府」というテーマで、研究会を開いた際の、報告メモです。2冊の参考文献の、関連部分の抜書き的なものです。

 社会保障政府

 研究会報告メモにある、ドイツやフランスの老齢年金金庫・疾病金庫などをモデルにして、日本の共済組合・健康保険制度も作られてきました。
 
フランスの職域、地方、中央の各級疾病金庫は、すべて、代表者は選挙で選ばれ、その代表者の労使比率は2:1(変遷はあるが)、負担割合比率は1:3となっていることなどが特徴です。日本の共済組合・健保組合の場合も、組合会議員という代表者の選挙や、労使の負担比率など、同様の制度化がなされてきました。

 健康保険組合とは、国の事業を代行する公法人で、法によってさまざまな権能が与えられており、その事業は保険給付と保健事業に大別されます。保険給付には、健康保険法に基づく法定給付と、組合が任意に行なえる付加給付があり、保健事業では、被保険者や被扶養者の健康増進、疾病予防等を目的に、健康保険組合それぞれの実情に応じ特色ある事業を行なっています。
 
そうした組合運営や事業計画は、事業主代表と被保険者代表の「組合会議員」による組合会おいて、協議・決定されます。なお、それら保険給付や保健事業に要する財源は、事業主と被保険者からの保険料収入で賄われています。

 
                  
2005.03.19社会保障制度研究会報告メモ

                       フランスの社会保障

                         社会保障研究所編 東京大学出版会
                                (1989年2月10日刊)
       
1945年初頭 『フランスの社会保障計画』=ラロック報告
                   (イギリスのべヴァリッジ報告と軌を一にするもの)

 1.当時のフランスの状況は、19世紀後半からの人口(減少)問題から、家族給付は全国民的な制度となっていたが、医療・年金などの社会保険、労災補償などは、労働者保険の性格が強く、炭鉱、鉄道、公務については、「特別制度」が作られていた。
 2.ラロック報告は、適用対象を全国民に(一般化)と、諸制度を統一(統一化)をめざすものであった。理想主義的な計画であったことから、その後の展開の中で、挫折することになるが、フランスの社会保障の定着と拡張の起点をなした、画期的なものといえる。
 3.「計画」の中枢をなした「一般制度」に見られる管理運営への被保険者=労働者参加は、初級金庫・地方金庫・全国金庫を通じて、労使代表の参加比率はほぼ2:1である。また、当事者拠出の原則=国庫負担割合の低さと、拠出における使用者負担の割合の高さ(現在で、労使負担割合はほぼ1:3)などは、フランスの社会保障の特色を形成することとなった。
 4.社会保障機関が、制度的に自立性を保障されて展開したことに関連し、制度的・財政的な問題が生じた。老齢年金金庫・疾病金庫・家族給付金庫などが、管理運営権限をもって運営され、それぞれの金庫の独立性から、疾病金庫の財政難が惹起し、家族給付金庫からの財政調整が問題化した。
 5.管理制度については、労働者代表の比率と選任方法が、問題とされつづけてきた。当初労働組合による任命制であった選任方式は1947年に選挙制に変更され、1967年の制度改革で、国による労使同数の任命制へと変更された。さらに、1982年には選挙制に復帰し、同数制が廃棄されて今日にいたっている。社会保障の管理運営機関のあり方が、するどい政治的争点となりつづけたことが、フランスの社会保障制度の特色をなしているといえる。
 6.「失業保険」や「補足年金」など労使の全国協約によってつくられ、事実上公的な制度としての機能を営むようになっている。これらの特徴はフランス社会における社会団体の独自性の強さと、社会保障の歴史における共済組合の伝統的な強さと理解されている。

  福祉政府への提言で示されているように、「歴史的には、社会保障基金は、生産点における労働組合や友愛組合の共済活動という自発的協力に、法的強制力を付与して誕生した政府に他ならない」と定義されています。
 その3つの政府である、中央・地方・職域の社会保障基金政府が、社会保障構造改革により、社会保険庁の解体・健康保険組合の統廃合・都道府県単位での再編などが進められるなかで、その機能を喪失させられようとしているのではないでしょうか。

               2005.03.19社会保障制度研究会報告メモ 
     
     「福祉政府」への提言
       
社会保障の新体系を構想する 
                              神野直彦 金子勝 編      
                              (1999年12月22日刊)
★ 現行の社会保障制度改革の目的は、少子・高齢化がすすんでも、社会保障負担が増大しないようにするという、財政対策だけに絞られている。したがって、実際に実施されてきた社会保障改革は、社会保障それ自体の目的達成には目もくれず、手段としての財政の危機を回避することに絞られ、社会保障負担の増加を回避することが追求されてきた。
★ 目的と手段を転倒させ、手段のために目的を犠牲にするという議論から脱却するために、社会保障あるいは社会福祉の存在理由とは何かという本質的なところに立ち返る必要がある。その上にたって、三つの政府を提起する。
★ 生活の「場」における社会的共同性を基礎とした「政府」として地方政府を位置付ける。さらに、生産の「場」における社会的共同性を基礎にした「政府」として社会補償基金を位置付ける。歴史的には、社会保障基金は、生産点に置ける労働組合や友愛組合の共済活動という自発的協力に、法的強制力を付与して誕生した政府に他ならない。実際、フランスやドイツでは社会保障基金も、選挙で代表者が選ばれている。
★ 生産の「場」における「協力の政府」として社会保障基金を、生活の「場」における「協力の政府」として地方政府を位置付けると、社会保障基金は賃金代替の現金給付を、地方政府は相互扶助代替の現物(サービス)給付を担うこととなる。その上で、それぞれの政府のミニマムを保証する「政府」として「中央政府」を位置付ける。
★ 生産点における協力の政府としての社会保障基金による現金給付と、生活点における協力の政府としての地方政府のサービス給付は、有機的に関連づけられて社会システムで営まれる人間の生活を保障しなければならない。たとえば高齢者の生活は、社会保障基金という政府の支給する現金(年金)給付だけで保障されるわけではない。地方政府の提供するサービス給付とセットで保障される必要がある。
★ 地方政府には財政力格差が存在する。その給付格差が地域社会に固有なニーズの相違を反映する限りには問題はない。しかし、財政力の弱い地方政府の給付が、地域社会の構成員のニーズを充たしえなくなれば、社会統合も不可能となる。そのため中央政府には、財政力の弱い地方政府でも、現物給付の必要行政水準を、確保できるというミニマムを、保証する中央責任が生ずることとなる。

 3月19日の研究会のテーマは、「社会保障政府」であり、それに関連する部分についての報告メモであり、2冊のテキストの要約などではないので、念のため。  
                                  
2005・4・20

                            


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