池上彰の教養のススメ 東京工業大学リベラルアーツセンター篇 | |
池上 彰 | |
日経BP社 |
今月の言葉を知ったのは、池上彰著『池上彰の教養のすすめ』(日経BP社)です。次のように記述しています。
慶應義塾大学の中興の祖といわれ、今上天皇にご進講した小泉信三は、かつて学問についてこんな言葉を残しています。
「すぐに役に立つものは、すぐに役に立たなくなる」
池上氏のお気に入りの名言らしく、講演などでもたびだひ登場している言葉のようです。出典は小泉信三『読書論』岩波新書にあって「すぐ役に立つ人間はすぐ役に立たなくなる人間だ」あるいは、「すぐ役に立つ本はすぐ役に立たなくなる本であるといえる。」という記述があるから、池上彰版とは少々異なるけれど、池上氏は相違を当然ご存じのはず。寺の掲示版に「すぐ役に立つ人間はすぐ役に立たなくなる人間だ」と書くのも唐突でショッキングだから、池上版を採用したという次第です。
よく知られた名言で、あちこちで引用されているようです。
同じようなことを白隠(はくいん)禅師(1685~1768)はこういいます。
「動中ノ工夫ハ、一寸修シ得レバ一寸ノ得力(とくりき)ニシテ、一生ノ受用(じゅよう)ヲ助ク。靜中ノ工夫、縦(た)トイ一丈ヲ修シ得タリトモ、纔(わず)カノ塵事(じんじ)ニ觸ルヽ則(とき)ンバ、忽チ總ニ打失(たしつ)シテ半寸(はんすん)ノ功ヲモナサズ」芳澤勝弘訳注『白隠禅師法語集・於仁安佐美(おにあざみ)』(禅文化研究所)
今風にいえば、日常の中で会得した智慧は一生もののスキルになるけれど、マニュアルで学んだだけの知識は、そのうちに約に立たなくなる。なぞと超訳したらわかっていただけるでしょうか。
寺の住職の仕事なんてまさに、すぐには役に立たないことばかりですね。でも、いつかお役に立てるだろうと、日々を「正々堂々」と過ごすしかないようです。この「正々堂々」だって平成29年6月1日だから、「ふーん」と思うけれど、あと一ヶ月たったら、「何だっけ」と思われてしまう言葉です。