静かに行く者は 健やかに行く
健やかに行く者は 遠くまで行く
城山三郎著『静かに健やかに遠くまで』より 掲示日H19.10.1
今月の言葉は3月に亡くなられた作家城山三郎氏のエッセイ集『静かに 健やかに 遠くまで』(新潮社文庫刊)に紹介されていることばです。もともとはイタリアの経済学者パレードがモットーとしていた言葉だといいます。
静かに行く者は 健やかに行く Chi va piano,Va sano
健やかに行く者は 遠くまで行く Chi va sano,Va lontano
「原語はローマ字読みで気持ちよく口ずさむことができ、くり返すうち、意味まで伝わってくるような気がしてくるではないか」とは城山氏の評ですが、仏僧の私がこの言葉を読んで思い出すのは次のような経典の一節です。
河底の浅い小川の水は音を立てて流れるが、大河の水は音を立てないで静かに流れる。-中村元著『ブッダのことば/スッタにバータ』岩波文庫刊-
仏教経典のなかでも最古のスッタにバータと一九世紀生まれの経済学者の言葉が同じ響きに聞こえるのはわたしだけでしょうか。
ところで、城山三郎氏の遺作で、今(平成19年秋)、もっとも売れているのは、『落日燃ゆ』のようです。『落日燃ゆ』はA級戦犯として処刑された広田弘毅元首相の物語です。広田は東京裁判で、すべては自分のしたことと語り処刑判決に殉じ、静かに遠くへ行ったのです。広田をはじめとして有名無名の何人もの人が戦の責任を問われて拘留され処刑されのは巣鴨プリズンです。昭和40年代にそのすべてが取り壊されて、現在では一部分が東池袋公園になっています。池袋駅から歩いて10分ほどのところにある公園は、入り口にセコイアの並木が植えられ、一角におにぎり型の記念碑がたっている。記念碑はサンシャインビルを背景にして、表には「永久平和を願って」と刻まれ、裏面には「第二次世界大戦後、東京市ヶ谷において極東国際軍事裁判がかした刑及び他の連合国戦争犯罪法廷が課した一部の刑が、この地で執行された(後略)」とあります。
なんで、戦後生まれの筆者がこんなことに詳しいかというと、わけあって四年ほど前、現地へ行って見て、その雰囲気を味わってきたからです。実際に見て感じてくると、下手な文章でも少し厚さがでてくるものです。
さて、先にご紹介した中村元著『ブッダのことば/スッタにバータ』にはこんな言葉もおさめられています。
みずから知っているのに多くのことを語らないならば、(略)かれは聖者として聖者の行を体得した。
余計な解説とおしゃべりはこのくらいにして、良い言葉は静かに味わうのがよろしいようで!