松岩寺伝道掲示板から 今月のことば(blog版)

ホームページ(shoganji.or.jp)では書ききれない「今月のことば」の背景です。一ヶ月にひとつの言葉を紹介します

人々の嘆きみちみちるみちのくを心してゆけ桜前線   長谷川櫂『震災歌集』より

2023-03-01 | インポート

人々の嘆きみちみちるみちのくを心してゆけ桜前線   長谷川櫂『震災歌集』より

       千田完治写真

伝統的な仏教教団の仏事に年忌法要があります。1年忌、3回忌、7回忌、13回忌、といった具合に、節目に亡き方を偲ぶ法要です。数日前に檀家さんから、13回忌の依頼をうけました。お命日は平成23年3月12日。その数字をみた瞬間、12年前がよみがえります。東北からは離れた地で、なんの被害もうけなかったけれど、福島原発のテレビ映像や、ガソリンスタンドに並ぶ車、計画停電などなど。
 毎年3月11日はめぐってきて、震災特集の報道は流れるけれど、実感にはならない。けれども、檀家さんの命日をみて、あの頃がまざまざと帰ってくる。まさしく、坊主根性ともうしますか。年忌法要の大きな意味は節目をつくって故人をおもいだすこと。今年はあの日から干支が一巡する節目なんですね。干支なんて、お正月くらいしか気にかけないけれど、十二支、12年というリズムは、東洋人の体内に通奏低音として流れているのではないだろうか(通奏低音という言い方、使ってみたかったんだなぁー)。
 というわけで、震災13回忌だから(12年なのに13回忌になるのは2年目に三回忌をするから。なぜ、そうなるかは、改めて)、俳人の長谷川櫂さんの『震災歌集』(中央公論新社)からの短歌を今月のことばとしました。この本の「はじめに」で、著者がつぎのようにあの時を書いています。

この『震災歌集』は二〇11年三月十一日午後、東日本一帯を襲った巨大な地震と津波、つづいて起こった東京電力の福島第一原子力発電所の事故からはじまった混乱と不安の十二日間の記録である。そのとき、私は有楽町駅の山手線ホームにいた。高架のプラットホームは暴れ馬の背中のように震動し、周囲のビルは暴風に揉まれる椰子の木のように軋んだ。その夜からである。荒々しいリズムで短歌が次々に湧きあがってきたのは。私は俳人だが、なぜ俳句ではなく短歌だったのか、理由はまだよくわからない。「やむにやまれぬ思い」というしかない。

「この春だけは、桜よ!咲いてくれるな」という気分はいくつかの詩歌にあると思うのですが、今はそれは追わない。震災の短歌というと俵万智にもあります。シングルマザーの俵さんは、その日東京都内にいた。「両親と息子にいる仙台に帰ることができたのは、四日後だった」。歌集『オレがマリオ』(文藝春秋)から二首を引用します。

 空腹を訴える子と手をつなぐ百円あれどおにぎりあらず

 ゆきづりの人に貰いしゆでたまご子よ忘れるなそのゆでたまご

「忘れるな」と、命じているのは、「たまご」なんです。ぼんやり、「感謝の心を憶えていろ」といわれても、忘れてしまう。そこに物があると拠り所として忘れない。この歌を今月のことばにしたかったのですが、歌だけではわかりにくい。歌の前に少々の説明が必要になるし、この二首はペアで離すことができないような気がします。字数の限られた、道ばたの伝道掲示板という制約から、『震災歌集』からの引用となりました。

 


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