持続可能な国づくりを考える会

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ポイント⑤ 「ワークフェア国家と市場経済」

2010年02月18日 | 理念とビジョン
⑤ ワークフェア国家と市場経済

ワークフェア国家は、競争原理の市場経済システムを取り入れますが、協力原理で営まれる社会全体を市場の暴走が脅かすときには、民主的な合意に基づくコントロールが行なわれます。




●古い「統制経済」の馬が引く社会主義の馬車は疲弊してもう走れません。
 一方「市場経済」の2頭立ての馬は互いに競争して驀進します。
 その暴走しかねない勢いを、民主主義的コントロールがしっかり手綱をとらえて、
 新しい福祉国家の馬車は快走を続けます。
(毎回冒頭に掲載しているのは、ご紹介の個所をわかりやすく親しみやすいようにした図です。)



当会ビジョン(試案)を要約的にご紹介していますが、毎回の冒頭の表題部はビジョン本文の各見出しで、文がその個所の内容の要約となっています。
そのため回ごとに対応する本文内容のボリュームはずいぶん違っているのですが、いずれも重要と思われるため、可能な限りひととおりご紹介していきたいと思います。

「ここ100年の実験によって統制経済の非効率性、市場経済の効率性はもはや疑う余地はないと思われますから、ワークフェア国家も経済システムについては市場経済を否定することはありません。
しかし、市場が暴走して社会を脅かす場合には、民主主義的な合意に基づいた市場のコントロールを行なうのです。」(14頁)

ここでのポイントは、ワークフェア国家は先述のように新自由主義的な資本主義体制でないのはもちろんのこと、また一方で「協力原理」のもと「市場経済をコントロールする」とはいっても、かつて資本主義の対抗勢力であったマルクス主義的な「共産主義」とはほぼまったく違うということです。

かつて勢力のあった「共産主義」ないし「社会主義」とは、非常に大雑把な理解ですが、人間に普遍的な協力原理から出たユートピア運動だったのだと思われます。
しかし上に引用したとおりその経済体制の非効率さの点でも、さらに抑圧的な政治体制に終始したという点でも、いわば「歴史のテスト」に失敗したのは明らかだと言わざるをえません。

しかし、一方で産業社会の競争を純化しひたすら経済効率と利益を追求しようとした市場原理主義的な資本主義が、(市場自体がそれに基盤にして初めて成り立っているところの)肝心の「社会総体」という協力原理のシステムをズタズタにしてしまうということを、今まさに私たちは見ているのだと思われます。

「新古典派経済学は、人間の経済がトータルシステムとしての社会総体によって支えられているという点を見失っています。経済は経済だけで成り立つのではなくて、社会総体が成り立つことによって経済も成り立つというのが社会の本質であるにもかかわらず、経済だけで捉えられるかのように考えている、そこに新古典派経済学の学問としての根本的な欠陥があるのです。」
引用:「『人間回復の経済学』などで言いたかったこと」神野直彦氏、『持続可能な国家のビジョン』(08年、当会発行)所収

今や、本文で述べられている「100年の実験」の結論はすでに両方出尽くしたということではないでしょうか。
つまり競争原理か協力原理の「どちらかのみ」で排他的に社会総体を覆いつくそうとする試みが失敗だったという結論は、もうすでに出ていると思われます。
そして残念ながら、伝統的集団主義のもとで両者を妥協させ一時成功を収めた日本型の経済慣行というシステムも、すでに競争主義の側に大きく倒壊してしまったように見えます。

ここでふたたびワークフェア国家の図をご覧ください。





これもまた大まかな理解ではありますが、しかしワークフェア国家がいずれかの原理のみが支配的な経済体制でも、または単なる折衷主義でもなく、協力原理という「社会の本質」にもとづきつつその中に市場経済を組み込み循環構造にした、「トータルシステムとしての社会総体」であることが、一見してお分かりいただけるのではないかと思います。

(あくまで図式的なたとえですが、これはあたかも嫌気性だった原核生物が、好気性という反対の性質をもつ細菌をその内部に共生的に取り込んで、効率よくエネルギーを作り出す小器官・ミトコンドリアとして「利用」し、そうして細胞はより進化した全体システムにステップアップすることで酸素が増えた地球環境に巧みに適応してきた、というのに似ているように見えます。
 進化とは生物的なものでも社会的なものであっても、「含んで超え」てシステムがより適応的で複雑・高次になるものだという、ある種の共通性を予感させます。)

なおビジョンでは「社会主義」という言葉に対して日本の私たちが一般に抱きがちな思想的アレルギーを考慮してあえて触れられてはいませんが、当会ではとくにスウェーデンが緑の福祉国家=ワークフェア国家を相当程度実現していることには、長く政権政党の座にあった社会民主党がそういう国家ビジョンを描いて目的的・政策的に(=バックキャスト的に)実行してきたという、政治主導の力が重要だったと理解しています。

そのことと、またいわゆる旧ソ連に代表される「共産主義」とスウェーデン型「社会民主主義」が根本的に異なることについて、先にご紹介した岡野守也氏のブログに非常に明快に述べられていると思われるのでぜひご参照ください。
「持続可能な社会に向かう思想と政治」(2008年11月26日)

さらに具体的にはまさにその政党の綱領、『スウェーデン社会民主党綱領』(日本語訳は(社)生活経済政策研究所発行)を直接お読みいただくのがよいと思われます。



さて、ここまでで、今後ますますの激動が必至と思われる21世紀の世界で、持続可能な国づくりを目指すとすれば一体どのような社会システムが適当であるかについて、私たちが把握しているもっとも有望で可能性のある道、「ワークフェア国家」の節のご紹介が終わりました。

今後はさらに、地球環境全体が持続不可能となってしまうというたいへんな危機に対応するためにこそ私たちはワークフェア国家を目指す必要がある、ポジティブに言い換えれば「環境と福祉と経済は本来両立できる!」という内容に入っていきます。

(つづく)