持続可能な国づくりを考える会

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ポイント③ 「ウェルフェア国家からワークフェア国家へ」

2010年02月11日 | 理念とビジョン
③ウェルフェア国家からワークフェア国家へ

知識社会での社会サービスは、人々の高度な仕事(ワーク)を可能にし、「知識資本への投資」という積極的な役割を持ちます。
実際にそうした「ワークフェア国家」が経済的に豊かになっています。





従来、福祉とは社会的弱者の救済事業、ネガティブに表現すると「社会の敗者の面倒をみるやむを得ない出費」として営まれてきた、というか今でも一般にはそのようにとらえられていると思いますが、いかがでしょうか。
つまり先にご紹介した「経済と福祉はトレード・オフ」という発想です。

しかし本ビジョンでは、これからはそうではないとしています。
それが今回ご紹介するポイント「ウェルフェア国家からワークフェア国家へ」です。

従来型・弱者救済型の福祉を営む国家のあり方が「ウェルフェア(福祉)国家」であるわけですが、それでは「ワークフェア国家」とは何なのでしょうか?
たぶん今でも一般にほとんど聞かれない言葉だと思います。

(じつは「ワークフェア国家」という言葉については、要となる重要な概念であるため、本ビジョンを検討した当会特別委員会でもどのような日本語訳とするか議論になったのですが、結論が出ませんでした。いちばん近いと思われたのがビジョン本文にも横文字と併記されている「人材と高度な仕事創出型福祉国家」ですが、日本語としてこなれていないうえに、従来型の福祉=ウェルフェアを含んで進化したというニュアンスが伝わらないため、基本的にはあえて横文字のままとしています。)

ここで前提となるのが、前のポイントにあった現在進行中の「知識社会」化です。
知識社会において産業発展の決め手となる「知識資本の蓄積」には、教育やそのベースとなる医療・福祉、環境保全・回復を含めた社会サービスが必要で、それらは巨額のお金と中長期的な時間がかかるため、共同事業として財政が担わざるをえません。

このことは逆にいえば、社会サービスへの財政の投入は次のように公的な「投資」という積極的な意味を持つことになります。

「高度な社会サービス・福祉を行ない、多数の高度な創造的知識を有する国民をもつ国は、豊かな内需および高い国際競争力の二つを兼ね備えた持続可能な豊かな社会になっており、これからもなり続けるでしょう。
それは福祉が国民の家計を支え、また福祉自体が福祉産業を生み出して雇用と内需を安定させ、高度な知識産業の生み出す商品が国内外に新しい豊かな市場を生み出すからです。」
(以降、カッコ書き引用は特に断らない限り「ビジョン」本文からのものです。)

このように「高度な知識社会を形成する仕事(ワーク)を可能にし新たに雇用を生み出すためにも福祉を提供し」、「協力原理を基本としながら、経済の活性化につながるかぎりは競争原理も取り入れる」のが「ワークフェア国家」です。

当会ビジョンが持続可能な社会システムとして最有力だと考えているワークフェア国家という概念は、このように原則は非常にシンプルです。

そしてこれが単なる理論にとどまらず、すでに相当程度実現している北欧諸国という実例があることは、このようなすぐれた社会システムが日本においても実現可能だという希望を抱かせてくれます。


※ なおビジョン本文では割愛していますが、この「ワークフェア国家」の概念は、行き詰ったケインズ的福祉国家政策や新自由主義経済政策を超えるものとして経済学者シュムペーターを原点に発想されてきたものであり、日本では財政学者・神野直彦氏のひじょうにすぐれた啓蒙的な仕事によって紹介されています。詳しくは次の著作および論文をご参照いただくと、理解を深めていただけると思います。

・神野直彦『人間回復の経済学』(岩波新書) 
・神野直彦「『人間回復の経済学』などで言いたかったこと」、『持続可能な国家のビジョン』(当会発行、ご希望の方はこちらまで。「第2回シンポジウム パンフレット 」がそれにあたります)


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さて、次の図は冊子13頁所収の「図2・ワークフェア国家とは」です。



ごく単純化したものではありますが、「ワークフェア国家」とはいったい何なのかについて、一目で把握していただけるのではないかと思います。

まず重要なことは、すべてを含むいちばんの大枠の「社会総体」が協力原理で営まれていることです。
この社会総体とは抽象化された概念ですが、国レベルでは「国家」や「日本」ということになるでしょう。

この協力原理の大枠の中に、環境の保全や回復、医療や福祉、教育、それらを通じて人材を生み出す「社会の共同事業」があります。
また一方で、競争原理で営まれる「市場経済」があります。しかしこれもまた、あくまで協力原理の社会総体の中で初めて成り立っているということが重要です。
そしてそれらの間に立って社会総体をいわば調整・統括している民主的な「政府」があります。

図はこの三者が循環する構造になっていることを示しています。

① 創造的な知識産業が競争することで活性化した市場経済は、政府に税の増収をもたらします。

② しかし市場経済は自らの競争原理を拡張する方向に暴走しがちであり、政府はそれを政策的・民主的にコントロールすることで、社会総体の調和を図ります。

③ 政府は税収からなる財政をもって社会が構成する共同事業各部門に「投資」します。黒字化した財政はより積極的・大規模な投資を可能にするでしょう。

④ 財政にもとづく「社会の共同事業」のうち、環境の保全と回復、医療や福祉サービスは人々の安心と家計の豊かさ、さらに福祉的産業自体を通じて市場経済に内需をもたらします。さらに教育サービスと教育が生み出す高度な人材は、市場で競争する知識産業にとって決定的な要素である知識資本を提供します。

⑤ そのことによって市場経済での競争力を高めた産業は、社会に十分な雇用と、さらに新しいタイプの創造的な仕事を用意します。

⑥ そして①~⑤のいわば「豊かさの好循環」は、協力原理の社会総体をさらに高度な福祉国家=協力社会に高めます。またこのことは、社会総体の一部を構成する競争原理・市場経済をもさらに活性化するでしょう。

あらためて重要だと思うのは、社会総体は協力原理で営まれていて、市場経済の競争原理とはあくまでその範囲内で成り立つものだという洞察です。
このことからも、競争主義=市場原理だけで社会総体を営もうと「改革」することが、却って企業や国家といった人間集団の競争力自体を損なってしまうという、先にご紹介した「誤解」の構造が理解できるように思われます。


(つづく)


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※ 当会の新しいパンフレットができました!(下の画像をクリック・PDF679KB)
裏面はビジョンの各ポイントを絵入りで一枚にしたものです。上の連載の元になっているものであるため、そちらは後日公開いたします。表裏面合わせ、当会の理念とビジョンをダイジェスト的にご理解いただくべく、事務局一同で考えて作りました。
ご意見いただければ幸いです。