持続可能な国づくりを考える会

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ポイント④ 「ワークフェア国家とは」

2010年02月15日 | 理念とビジョン
④ワークフェア国家とは

21世紀型福祉社会=ワークフェア国家の実例は、とくに社会的な安全網がさらに跳躍の基礎となっているスウェーデンに見ることができます。
(例:失業時の手厚い所得保障と就労支援)





前回にご説明した「ワークフェア国家」については、もちろん深く探求すれば複雑多岐にわたる厖大な学びになることと思います。
しかし繰り返しとなりますが、原則・エッセンスはこのビジョンで把握されている限り非常にシンプルかつ明快であり、現実は(とりわけ日本においては)とても厳しいとしても、少なくとも理論的にはこういうすぐれた持続可能な社会システムを実現することが可能だという希望を、私たちは持つことができます。

しかも理論だけではなく現実の世界にそのような事例がすでに現れているということが、何より心強い点です。
今回ご紹介するポイントはこの「実例」についてのお話です。

といっても冊子本文では、ビジョンという全体像・大枠・概念を提示するその性格上、実例等の具体的記述は割愛して最小限に触れるのみとしているため、この個所は1頁に満たない内容となっていますが、その意味するところはこのように大きいと感じます。

基本はすでに触れました21世紀型の「知識社会」への産業構造の変革があります。
その産業構造の激震・大波にどのように適応し経済社会が持続的に成長するか、その鍵が社会的「安全網」(セーフティネット)をどのように張り替えるかにかかっている、とビジョンでは説明されています。

これまでも書きましたが簡単にまとめると、「21世紀の産業社会では競争力のためにこそ人々の安心と安全が必要だ」ということになると思われます。

(蛇足となりますが、今のところほとんど目に触れることのないこの「知識社会」という言葉は、これまで「第三次産業革命」「情報化社会」等々と表現されてきたことの本質が何だったのかを、より包括的・端的に表している概念だと思われます。
 またいわゆる「IT革命」については、知識社会化の一側面(しかしインフラ構造として決定的に重要な側面)として把握することができることができるのではないでしょうか。
 しかしまた、この「知識社会化」には、それに乗ることが困難な多数の人が出てしまう(=「能力のないものに価値はない」)という冷たい性格が伴わざるをえないでしょう。
 これを最大限緩和し、そのことによってより多くの人、さらには社会それ自体が新しい産業構造に適応することを可能にするという意味でも、協力原理をベースにしたワークフェア国家という社会システムは優れていると思われます。)

その実例、現実における最先端のモデルとして本ビジョンが挙げているのが北欧の国・スウェーデンについてであり、とくに例に取り上げているのが、近年日本できわめて深刻な事態となってきている失業問題です。
詳細は省かれていますが、かの国においては
①失業給付による所得保障
②就労支援である活動保障
の両側面の、非常に充実した失業対策がとられています。

しかしこれはあくまで一例(それも羨むべき一例!)であって、重要なのはスウェーデンでは戦後に始まる「福祉国家」建設、さらには90年代以降の「緑の福祉国家」建設の過程を通じ一貫して、雇用だけでなく年金、医療、子育て、介護、教育などの安全網の全体を、現実の政策をもってかなり劇的にといっていいほど変革・進化させてきたという事実です。

このことについての総論・各論とも、「持続可能な国づくり」という観点からスウェーデンをウォッチしてきた第一人者・小澤徳太郎氏の、文字どおり浩瀚なブログ記事をお読みいただくことをお勧めします。
その最新かつ厖大なデータにもとづく新スウェーデン・モデルの姿には非常に説得力があります。
≫小澤徳太郎氏のブログはこちら

さらに、そのいわゆる「高福祉‐高負担」にもかかわらずの(というよりその結果としての)スウェーデンの元気な経済・高い国際競争力について、そのいわば「秘密」を解説しているレポートが、「スウェーデン型社会という解答」(藤井威氏、『中央公論』2009年1月)です。
筆者の藤井威氏(現・みずほコーポレート銀行顧問、当会会員)は、スウェーデン大使の実務に当たりその目でスウェーデンの政治・行政・企業の実際を見てこられ、かつ財政を司ってきた官僚として高い見識をお持ちであり、その現代福祉国家論は本ビジョンでも多く参照しています。
なお上記論文をテーマに藤井氏が当会学習会で講義をされた際のDVDを頒布しておりますので、お求めいただければ幸いです。
藤井威氏講演「スウェーデン型社会という解答」(持続可能な国づくりの会学習会DVD)

また当会運営委員の岡野守也氏(サングラハ教育・心理研究所主幹)のブログ記事では、なぜスウェーデンという国でそのようなことが可能であったのかに関する、氏の近年の学びを一覧することができます。
とくに一般に目につく形ではほとんど語られてこなかった思想面・文化面からの、というよりも内面・外面と個人・集団の四側面をすべて含んだ、新スウェーデン・モデル‐緑の福祉国家論は注目すべきものだと思われます。
また氏のスウェーデン視察旅行記もたいへんおもしろく興味深いものです。
≫岡野守也氏のブログはこちら


(岡野守也氏のブログ記事画像を転載)


ともかく、いま産業構造の激動に即応した新しいタイプの福祉国家モデルが必要とされており、その世界の現状における最先端の実例がスウェーデンだということは間違いないと思われますが、いかがでしょうか。


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ところで「なぜスウェーデンなのか」ということに関して、シンポジウムや学習会を通じこれまで受けた典型的な質問がいくつかあるのですが、とくに必ずといっていいほど受けるのが次の質問です。そのことについては以前このブログでも触れました。
そこで本ブログ上でも、専門の小澤氏のブログでの記述を引用し、お答えしたいと思います。


Q スウェーデンは小さい国だからそういう変革が可能だったのではないか。そのような小国の「特殊例」を日本のような大国にあてはめることは無理があるのではないか。


このことについて小澤氏は(以下日付はブログ記事のもの)次のように述べておられます。

●「私は人口の大小が問題になるのは、「解決すべき問題」に対して解決のための考え方や手法が同じ場合だと思います。考え方と手法が同じであれば、一般論としては人口が少ない方が有利だといえると思います。」(2009-04-02)

●「スウェーデンの話をすると必ず出てくる質問の中に「スウェーデンは人口が850万(現在は900万)だから……」というのがあります。しかし、世界を眺めれば、スウェーデンと同じような人口の国は他にもたくさんあります。(中略)
 しかし、世界共通の環境問題やエネルギー問題に対して、スウェーデンが他の工業先進国とは一味違う先進性のあるアプローチを展開するのは「人口の大小の問題」というよりも「国民の意識」と「民主主義の成熟度」の問題だと思います。」(2007-08-18)

●「900万人と1億2000万人の人口の差、1%と16%の世界経済に占める割合の差は、たしかにスウェーデンが日本に比べれば、人口や経済の規模でまぎれもない小国であることを示しています。しかし、日本がいまだに処理しきれていない不良債権問題が、スウェーデンでは1年で解決したのは、「スピード」「政党間の協力」「透明性」があったからで、これらは明らかに日本にはなかった要因です。
 「同じ種類の問題」を同じ方針や手段で解決しようとするときには、人口が少ない小国のほうが有利なのは当然です。しかし、こと不良債権処理に関しては、スウェーデンには、日本にはなかった発想や方法論や手腕がありました。似たようなことはアスベスト問題でも、原発問題でも、温暖化問題でも、ゴミ問題でも同じです。このようなときに、人口規模が違いすぎるとか、経済規模が異なるという表面的な言い訳は、成り立ちません。」(2007-09-07)

●「実際に両国の「国の政策決定」に携わるのは900万人でも、1億2000万人ではありません。
 日本の…(中略)…現在の(2007年の)衆議院議員の定数は480人で…(中略)
 一方、スウェーデンの国会は、現在、1院制で…(中略)…349人に変更し、現在に到っています。」


以上で明快かと思いますが、さらに付け加えるなら、人口が比較的少ないとはいえ、およそ1千万人(918万人・2007年12月現在)の規模をもつ社会が国家単位で事実として「緑の福祉国家」を実現しようとしている意味は、いわば「社会実験」としてとらえればきわめて大きいのではないでしょうか。

たとえば、排水量1千トン足らずの船であろうが1万3千トンの大船であろうが、一人の船長が指揮して舵を取らなければならないことには変わりません。
さらに船団の先頭の、優秀な船長が指揮する小回りの利く船が、氷山海域なり低気圧なりを避けて舵を切り安全な針路を指示してくれているなら、それに従って――しかもサイズ相応に舵の効きが鈍い大きな船ならなおさら――精いっぱい舵を切らなければならない…そんな状況にいくらか似ているのではないかと思います。

(つづく)


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本ブログでご紹介している「持続可能な国づくりの会・ビジョン」(試案)について、会員・非会員を問わず皆様に頒布しております。ご希望の方は当会事務局あてメール(jimukyoku@jizokukanou.jp)まで。