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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

あこがれのベイズ統計

2006-09-08 | 研究ノート
・昨日の夕方,北大のTrendyゼミで発表させていただいた.前半は,Home-site advantage仮説とは?と題して,研究の背景.後半は,実際のトドマツ相互移植試験のデータを見せつつ,連続分布する針葉樹でHome-site advantage仮説が成り立つか?といった命題に対する議論.

・遠慮しているのか,いつもの流儀なのか,院生が異様におとなしく,面白くなかったのか・・・と少々焦ってあたふたしてしまう.発表後,K山さんからいくつか重要なご指摘を頂く.まず,標高差と適応度の関係をしっかり見ようとすると現段階のデータからでは無理があるし,種子産地の標高によって,どのようなサイズでいつ繁殖を開始したらいいのかは異なる可能性がある.ということで,厳密な意味でのHome-site advantage仮説にこだわらず,(繁殖については別のストーリとして)造林的な観点でまとめたらどうか,とのこと.

・これは,非常に有益なアドバイスである.自分自身でも,高標高産が小さなサイズから早期に球果生産を始めるのであれば,樹高成長が悪いからといって,必ずしも適応度が低くならなくなってしまうので,変な言い訳をしなくてはいかんと思っていたところ.この部分が仮説を検証できたと主張するには,一番無理があると思っていたところなので,変な言い訳をするよりも余程すっきりする.そのほか,Silvertownの関連文献を紹介していただいたり,河野昭一著の教科書に基本的な考え方が掲載されている,などと基礎的なことを教えていただく.

・K保さんからは,樹高成長の意味がそもそも産地標高によって違う可能性があるので,簡単には解釈できないのではないか,とのご指摘を頂く.たしかに,高標高のものはどんどん樹高成長をすればいいものではなく,低標高産よりも高標高産の方が樹高が低いからといって,不利だとは必ずしも言えないことになるのかもしれない.K山さんのご指摘とも関連するが,全体的な解釈を修正した方がよさそうだ.

・ゼミ終了後,お茶部屋でさらに雑談.エコタイプという用語は1920年代に既に存在している.また,相互移植に関するアイデアも随分昔からあるようで,こういった生態学の基礎的な部分がぽっかり抜けていることに改めて嘆息.

・データの解析方法について,またもK保さんに相談.今回は母樹別平均値を使用しているが,当然,かなりのデータを捨てていることになり,もっといい方法がありそう.反復と母樹の効果をランダム効果として,ベイズ推定するのがいいのではないかということに・・・.やはり,ベイズが颯爽と現れる(きっと登場するんじゃないかと思っていた).特に,母樹の効果をランダム効果してやると,とってもすっきりすることになりそうだ.

・ベイズ推定をするには,WinBUGSというWindouws用ソフトがあり,Clark本にはコードが載せてあると教えてもらう.しかし,こちらはRを使うことさえアップアップしている状態で,さらに新しいソフトを導入するのは,ようやく25mプールを泳げるようになった水泳初心者が,太平洋の遠泳にでかけるようなイメージなんですが・・・.ベイズとMCMCという言葉には,I田さんが熱心に勧めてくださって以来ずっと憧れがある.「いつ太平洋に飛び込むか・・・」といった雰囲気になりつつある.

・ホテルにてしばらくデータ解析の準備などを行い,9時過ぎに研究室へ出勤(?).K保さんに,データ解析の手ほどきをお願いする.まずは,既に作成していただいているトドマツ種子散布モデルの結果の見せ方について.倒木上の実生の平均値の推定式を前回の改定時にきちんと書いておかなかったせいで,一から説明していただくことに・・・.結局,モデルの意味をよく理解できていなかったことが判明し,余計なところでご面倒をかけてしまう.今更ではあるが,パラメータと式の対応が理解でき,結果の見せ方もほぼ固まりそうだ.対象となる倒木数が多くなるとどうなるか,モデルの適用が楽しみである.

・後半,トドマツ標高別の相互移植試験地のデータ解析についてさらにご相談.ベイズ推定はさておき,まずはRの中でlmerなる関数を使ってランダム効果を考慮するプログラムを作成(といっても,こちらはほとんど見ていただけですが・・・).lmerを使用するには,Library(Matrix)が必要とのことだがどうにも見当たらない,と思ったら,なんとRのバージョンが古いせいだったというオチ.と,またもやここで,新しいバージョンをダウンロードしていただいたり,と何から何までお世話になってしまうことに.

・それにしても,K保さんのRの動かし方は,まるで魔法を見ているようである.圧倒されながらも,作図方法,ヘルプの使い方付近がこれからの課題だと思い始める.今回の関数lmer自体はちょいとクセがあるようだが(K保さんのWebに便利帳あり),構造的にはglmとよく似ているので何とか自分でも動かせそうだ.ちなみに,個体と母樹と反復をランダム効果として,標高差や種子産地を独立変数,樹高を目的変数としたモデルでは,母樹の効果があるようだが,個体と反復の効果は無視できるくらい小さかった(個体については外してもよかろうとのアドバイスを後で頂く).ランダム効果を考慮できるモデルは応用性が高そうなので,忘れないうちに色んなデータで試してみよう.

論文掲載への厳しい道のり

2006-09-07 | 研究ノート
・日林誌に投稿していた焼松峠論文が戻ってきた.この論文は,1911年の山火事後に再生したウダイカンバ主体の広葉樹二次林の一部を皆伐し,その後に地がき処理してウダイカンバを初めとする木本種実生の発生状況を4年間調べたというものである.地がきを行う際,平坦地と斜面部をあえて設定し,それぞれの地形に定着した各木本種の実生数などについて記載している.

・「これから論文を書く若者のために」でも述べられていたと思うが,メールを開ける前から「よくない知らせ」であることがなぜか分かってしまう(別に私は超能力者ではない・・・).不吉な予感は見事に当り,審査結果の添付ファイルがやたらと多い.ふむふむ,2名の審査者のうち,1名は「わずかな修正で掲載可」,1名は「掲載不可」となり,第3者に審査してもらったところ「大幅修正で掲載可」となったらしい.かくもバラバラの査定となるのも珍しい.編集者は比較的好意的でぜひ修正稿を出すように推薦してくれているが,大幅な修正がなされない限り,「掲載不可」になるかもしれぬ,とのこと.

・最近,日林誌には自分がファーストでは投稿しておらず,セカンドではいくつか投稿したが,いずれも「わずかな修正で掲載可」であったために,まさか掲載不可の査定がなされるとは思いもかけなかった.さすがに,少々へこむ.地がき後にウダイカンバが更新するのは既にたくさんの報告があり,「新規性がない」と判断されたらしい.しかし,報告とはいっても,報告書か支部大会論文集ばかりで,いわゆる「学術誌」における報告はきちんとないのに,新規性がないとはいかに・・・.「常識」をきちんと量的に示すというのは,林学では大事だと思っているのだが,ここは見解の相違だろうか・・・.

・しばらく憤慨しつつ,攻撃的な心持ちのまま審査結果を読み進める.しかし,よくよく審査結果を読んでいると,なかなかよい指摘もしていただいている(むしろ,とてもしっかり読んでいただいている).さらに,こちらにも相当の落ち度があることが判明する.まず,ウダイカンバの資源保続に焦点を当てるのか,植生学的な観点で植生回復に焦点を当てるのか,論文の目的が確かに分かりにくい.また,考察は確かに指摘されている通り,推察の域を出ていないものが多く,言われてみれば”オーバーディスカッション”である.

・ここまで来て,原著論文としての新規性を無理やり追い求めるよりも,「ウダイカンバの資源保続における地がき処理の有効性」とでも題して,実証的な事例報告として短報で投稿した方がいいと思えてきた.たしかに,調査地も1つしかないし,環境条件の測定などもできていない.しかし,資源保続における有効性を事例報告的に示す必要性,緊急性は高いはずで(ウダイカンバの林業的価値を考えれば・・・),それについては問題ないだろう.

・それにしても,論文を掲載させるのは,例えどんな論文でも大変な作業であることに改めて気がつかされる.論文掲載までの闘いは,まだまだ続きそうである.

Hufford and Mazer 2003 (後半) 読解

2006-09-06 | 研究ノート
・6時起床.いきなり論文読み.Hufford and Mazer 2003の続きである.地域適応の検出と移植リスクの評価,として,いくつかの手法の紹介と解説がなされている.以下,項目ごとに要約してみると,

3.地域適応の検出と移植リスクの評価
1)産地試験
 種内の形態変異や生活史特性の違いの変異のうち,Restorationで問題となるのは遺伝的な変異である.環境変異と遺伝変異を分割するには,異なる種子産地のものを同じ場所に植栽する,古典的な産地試験(Common garden)が有効である.ただし,産地試験の場合,遺伝的分化の原因が遺伝的浮動によるのか,自然選択によるのかを区別できない.

2)相互移植試験
 自然選択に対する地域適応が起こっているかどうかを判断するには,相互移植が必要である.地域適応が働いている場合,各エコタイプは自生地で最も選択に対して有利(Home-site advantage)となることが多い.実際,これまで調べられた13種のうち,11種でこの現象が認められている.しかし,個体群がエコタイプというよりはエピタイプ(epitype)を示す場合,移植リスクは地域適応がなくても起こりうる.

・と,ここで読んでつまずく.エピタイプとはなんだ?その次の文章を読むと,親の遺伝子組成は同じでも,交雑によって遺伝子群の組換えが起こるとフィットネスが下がるなどとある.これも遺伝子間相互作用に関する用語か・・・.などと腑に落ちないながらに先に進む.

3)雑種世代と親世代の相対的パフォーマンス
 雑種が親世代よりも高いパフォーマンスを示せば雑種強勢,低いパフォーマンスを示せば遠交弱勢である.雑種強勢はF1世代で分かるが,遠交弱勢のメカニズム(DilutionとHybrid breakdown)を理解するにはF2まで調べる必要がある.

・ここでBox2には,1)雑種強勢のみ,2)Dilutionのみ,3)Hybrid breakdownのみ,4)雑種強勢とHybrid breakdownの組合せ,など様々なケースにおける,親世代,F1世代,F2世代の適応度の変化が図示されている.なるほど複雑である.樹木ではなかなか発想に至らないが,F2世代まで進めることの重要性を改めて感じる.

4)分子マーカーの利用
 分子マーカーは相互移植試験のような大変な労力と時間をかけなくても,エコタイプを検出できる可能性がある.しかし,多くの場合,自然選択に対してほぼ中立なので,分子マーカーで検出される遺伝変異と適応形質の変異は必ずしも一致しない.しかし,分子マーカーを利用することで,1)強い創始者効果,2)Genetic swamping,3)集団間の遺伝的分化度,などの評価が可能である.今後,マーカーとフィールド研究の統合が課題である.

・この意見には大賛成である.同じことをMacKay et al. 2005 Rest. Ecolも述べている.FSTとQSTの関係整理などは,これから重要になるだろう.

4.種子供給範囲の設定
 種子供給範囲は,林業対象の針葉樹における強い地域適応の結果に関連して,最初に設定された(つまり,適切な種子産地を用いなかったときの造林の失敗例から学んだという意味か・・・).当初,なるべく保全対象地(植栽地)に地理的に近いところから種子を採種するべきとされたが,最近では,「距離」は必ずしもよい指標とはならないことが指摘されている.また,種子供給範囲の設定に際しては,対象種の繁殖様式(自殖性か他殖性か)によって,地域適応やエコタイプの生じやすさが大きくことなるので,そうした基礎的な知見が大事である.

・ここで,アタマはいきなり育種に戻される.林業樹種では,きちんと検証されているわけではないが,Home-site advantage仮説が成り立つという前提のもとに,種苗配布区域が法律によって規定されていると考えた方がよいのだろう.むしろ最近では,Restoration ecologyが流行ってきたという背景で,林業樹種以外でも種子供給範囲が検討されていると考えた方が自然なのかもしれない.


5.結論
 植生再生における自生種の移植は,実験的な段階で発展途上の学問.創始者効果や近交弱勢の影響はかなり明確になっているが,遠交弱勢の発現程度とその長期的影響についてはまだまだ不明な点が多い.再生手法の開発では,(目的とする)絶滅危惧種あるいは希少種の再生という観点だけでなく,これからの環境変動の中で個体群が自ら繁殖維持できるかといったことにも留意するべきである.

・と,ようやくこれにて一応終了.今更なんだが,Restoration ecologyとは正確にどういう意味なのかをちゃんと理解せんといかんと思い始める.Wikipediaによると,「ダメージを受けた生態系を意図的な人為活動によって回復せしめんとする学問」とあり,保全生物学との相違点などが書かれている.ふむふむと読み進み,ようやく概要をほぼ理解する.こういう人くさい,応用的な学問分野はやはり好きだ・・・と改めて認識.


高標高産はなぜ樹高成長が悪いのか?

2006-09-05 | 研究ノート
・ひさしぶりにヤチダモのSSR解析など,以前の実験で増幅の悪かったプライマーをもう一度PCRする.久々の実験では,実験室の掃除をしてしまったり,プライマーの希釈をしたりとなかなか進まない.それにしても,田無で実験を大失敗して以来,どうも自分が信用できずに疑心暗鬼だ.

・午後から9月7日のゼミのプレゼン準備.そんなときに限って,突然の飛び込み仕事が2つも舞い込んだりする・・・.10月中旬の中国出張の後,とんぼ返りで11月初旬の東京行きとなりそうな気配.東京で会議と言われても,こちらにとっては行くだけで大仕事なのである.

・偶然,トドマツ標高別試験地の設計者である元職員のKさんがふらっと訪れる.これ幸いと,浮かび上がっていた疑問をぶつける.昔の報告書はぶ厚くて,いかに大変な仕事をやっていたかが実感できるのだが,肝心のことが分からなかったりするので,やはり直接質問できるのはありがたい.

・開芽期や開花期などのフェノロジー(植物季節)は,一般に,遺伝率が高い形質である(ポプラのQTL解析などで示されている).しかし報告書では,開芽期は植栽地間では大きな違いがあるものの,種子産地間ではほとんど違いがないとされている(4年生苗時点の調査結果).そうなると,なぜに高標高産が低標高に植栽された場合に樹高成長が悪くなるか説明できず,どうにも納得できなかったのである.

・話を聞くうちに,報告書では分からなかったフェノロジーの謎がようやく解き明かされる.低標高に植栽した場合,低標高産と高標高産の開芽期は(報告書の記載の通り)ほとんど変わらない.しかし,冬芽の形成時期が異なり(高標高産が早い),結果的に高標高産の方が生育期間が短い.また,低標高産は二次成長する個体の割合が多い.これらのことから,高標高産の方が樹高成長が悪いと考えられそうだ.さらに,高標高域では近交弱勢の影響も働いているかもしれない,ということに気がつく(こっちについては,遺伝解析データなどで裏を取る必要があるが・・・).

・そのほか,種子産地による着果性の違い,枝のつき方,葉のかたちや色など,これから調べるべきことはたくさんあるようだ.何か新しい知見を得たというよりも,新しい研究のスタート地点にようやく立ったという感じである.

フィンランドからのゲスト

2006-09-04 | フィールドから
・フィンランドから2名の研究者を迎えて,林内案内.樹木園,直営現場,保存林,ミズナラ優良木,選木実習林,といった内容でエクスカーション.6日もK大の実習案内ということで,いよいよ案内業務が忙しい.案内は当然英語で行ったのだが,My英会話には日々の調子というものがあり,本日はどうにも調子がよろしくない.リスニングの方はというと,彼らの話すスピードは決して速いとは思わないのだが,なぜか頭に入って来ず,まだまだ修行が必要である・・・.

・現在,直営現場は1910年代に発生した山火事後に更新した広葉樹林である.ここでは1名のゲストの専門ということもあって,土場での生産方法や機械について熱心な討議が繰り広げられる.当方はやや蚊帳の外ということもあり,その隙にベテラン職員Sさんからウダイカンバの丸太生産の奥義について教えを乞う.丸太の曲がり,節などをどのようにうまく外して,いい素材を生産するか,その真剣勝負に感銘を受ける.いつも思うことだが,そこには厳然たるストイックな世界がある.

・4時から講義室にてセミナーをしていただく.日本とフィンランドの比較という観点で概要を説明してくれたので非常に分かりやすい.国土面積や森林率は似ているが,林業がGDPに占める割合などはもちろん大きく異なる.林業対象樹種は、ヨーロッパアカマツ,ヨーロッパトウヒ,カンバの3種類と単純である.興味深かったのは,機械化が進んでいるフィンランドではオペレータや運材車のドライバーの労働力の確保が重要で,逆に,そこにはきちんとした需要があるらしい.

・若い研究員は,Un-even forestの施業を研究しているとのこと.フィンランドではかつては択伐が行われたが,良木伐採が一般的であったため,残された森林の価値が下がった.そのため,施業方針は皆伐+植林(とくにヨーロッパトウヒ)か,皆伐+天然更新が中心らしい(その2つのシステムの割合は半々とのことである).

・こちらでは,択伐+天然更新だけではうまく整合しない場合も多いので,群状択伐+植林,群状択伐+天然更新補助作業といった,小面積皆伐を取り入れた方針転向も必要か?と考えているだけに,その方向性はまるで逆である.皆伐+天然更新で問題がないのであれば,なぜに難しそうな択伐に挑戦するのか,やや理解に苦しむのだが.フィンランドでは私有林のオーナーの要望やNGOの皆伐に対する否定的な意見も多いらしい・・・

・とかく,ここ北海道の天然林施業にとって参考になるのか,参考ならないのかはよく分からぬが,一度,フィンランドに行ってみたい気にはなってくる.そういえば,アメリカで知り合ったNikkanenはフィンランドだったか・・・.今度,確かめてみよう.

Hufford and Mazer 2003 TREE (前半) 読解

2006-09-03 | 研究ノート
・早起きは3文の徳,ということで朝飯前の読解作業.本ブログでもたびたび登場のHufford and Mazer 2003の前半部を割合ときっちり読む.この総説は,Restoration生態における移植に際する課題点を様々な角度から整理している.何が問題になっており,どこまで分かっているのかを掴む上で非常にありがたい論文である.さらに,用語解説も充実しているので,バイブル的な感じにも使える.

・イントロでは,ハビタットの減少にともない緑化(移植)が必要とされるケースが多いこと,分布域が広い植物種では同種の中にもはっきりとしたエコタイプが存在しうること,異なるエコタイプを移植したときに様々な影響が現れる可能性があり,適切な種苗配布区域の設定が必要だ,などと背景が整理される.

・本文では,いくつかの項目に分かれている.まず,「移植がもたらす集団遺伝学的影響」として,1)創始者効果,2)Genetic swamping(遺伝的劣化?),3)雑種強勢と遠交弱勢が紹介されている.1)の創始者効果は非常にイメージしやすい.緑化に用いられる種子源は,比較的母樹数が限定されてしまうことは多いのだろう.特に,絶滅危惧種ともなると,元々個体数が少ない上に,繁殖に有効な個体はさらに少ないだろうから,移植集団で遺伝的ボトルネックが起こりうることは容易に想像できる.

・ここでは海草アマモとハワイ島のSilverswordの例が紹介されている.Silversowrdをインターネットで検索していると,その姿の異形さに感動する.これだけ,奇妙奇天烈な植物ならば研究をやっていても楽しかろう・・・.MolEcolの論文をダウンロードしたので,いつか読んでみよう.

・Genetic swampingという用語は初めて見たが,Glossaryを見ると「導入したGenotypeが数的有利,あるいは適応力がより高いために急速にその頻度を高め(分布拡大も含まれる),自生Genotypeに置き換わりかねないこと」を示すらしい.これには,移植集団と自生集団の交雑を伴うケースと伴わないケースがあるらしい.ここでは移植を伴わないケースとして,イネ科草本のヨシが挙げられており,北米に自生した集団はユーラシアからの移植集団に駆逐され,既に入れ替わっていることが葉緑体変異の解析で分かった,などと書いてある.

・次に雑種強勢と遠交弱勢について触れている.この論文の中でも,このように移植集団と自生集団が交雑したときの影響については,メカニズムも含めて詳しく解説してある.遠交弱勢のメカニズムとして,「Dilution」と「Hybrid breakdown」の2つがあることを初めて知る.Dilutionは,地域適応した遺伝子群が交雑によって薄まることで適応度が下がる,ということでなんとなく理解できる.Hybrid breakdownはやや難解だが,要するに遺伝子間の相互作用が交雑によって崩れるために起こるらしい.

・次に,「種内交雑の実証的研究」として,12種に関する13の研究例がTable 1にまとめられている.13の研究例のうち,F1世代の評価を行ったものが8例,F2以降の世代までの評価を行ったものが5例である.F1世代で明瞭な遠交弱勢を示したのは,13のうち4例で,その他はむしろ雑種強勢か両親と同等のパフォーマンスを示した.ただし,F2以降の世代を評価した5例では,F2でHybrid breakdownによる遠交弱勢を示すものが4例も認められている.

・こうしてみると,実証されているのはほとんど草本でごく一部の低木を含むくらいである.やはり,樹木は扱いにくいし,繁殖までに時間がかかることが対象とされない原因だろう(そもそも遺伝的分化の程度も低いし・・・).ということで,トドマツ研究の価値を再認識.

・後半では,「地域適応の検出と移植リスクの評価」,「種子供給範囲の設定」,「結論」と続くのだが,ここまでやったところで力尽きる・・・.


3時のおやつ

2006-09-02 | その他あれこれ
・本日晴天.ということで,10時から近所のコートにてテニスを行い,運動不足解消に取り組む.久しぶりということもあるが,とても元テニス部とは思えない”当らなさ”である.昔は取れたはずの球が・・・と少々情けないが,こう天気がいいと「まっいいか」という気もしてくる.

・ル・シュマンにてケーキを購入.ル・シュマンは富良野では唯一といってよい本格的なレストランだ.ランチのパスタセットを最初に食べたときは感動すら覚えたものである.が,不満がないわけではない.まず,久しぶりに行ったときに限って,すごい確率で休みである(完全にビストロモードになっているので,やっていないと相当イタイ).さらに,オープンでも安心できない.元々食事が出てくるのが早い方ではないが,混んでいる料理が出てくるのがとんでもなく遅かったりする.

・しかし,ケーキを頼んでいるときに横目で見るランチはやはりおいしそうで,今度は予約して11時半ごろに来ようかということに・・・.ル・シュマンでケーキが購入できることは案外知られていないが,3時に食したシュークリームは小ぶりだったが,皮が固めで香ばしかった(ちなみに,プリンも美味).

Invited reviewとタネ展

2006-09-01 | Weblog
・共同研究者Rさんから,GGGという雑誌からInvited reviewの依頼を受けたという話を聞く.「すごいですねえ」などと言っているうちに,いつしか「一緒に書かないか?」と,Invited reviewにInviteされるという妙なことになる.「えっ!?」といいつつ,「GGGとはどんな雑誌だ?Reviewとはどんな内容だ?」などと言っている間に話はどんどん盛り上がり,「やるか,やっちゃうか!」という超ポジティブな方向へ急展開.9月末がアブスト締め切りということで,大急ぎで内容を確定させよう・・・ということで一件落着(してないけど・・・).

・茨城県の自然博物館のOさんから,「タネ展」という種子散布に関する展示をするので研究紹介をさせて欲しいという依頼を受ける.以前,講演したヤチダモの種子散布実験とオニグルミ核果の持ち去り実験の話に関心を持っていただいたとのこと.北海道の研究成果が茨城県で公開されるという不思議な状況だが,こちらとしてもありがたいお話なので,プレゼン資料,ヤチダモとオニグルミの種子などをお送りする.

・ヤチダモの種子散布実験は,鉄塔から種子を散布して,飛翔時間と飛翔距離範囲を調べたという,小学生でもできるような超シンプルな実験である.実際には,鉄塔の上から「いくよー,ハイ」などと声をかけて種子を放ち,地上に待ち構えている5名の観察者が「そっちだー,落ちるぞー」,などといいながら落下箇所に直ちに旗を立てるというような,非常に楽しい,牧歌的実験であった.

・この実験でちょっとだけ工夫をしたのは,散布実験に使用する1つ1つの種子をデジタルカメラで予め撮影しておき,共同研究者のIさんが開発したSHAPEという画像解析ソフトを使って種子のかたちを定量的に調べておいた,というところである.この結果,両端が尖った種子は飛翔能力が高いという,種子のかたちの微細な種内変異が飛翔能力に影響することを世界で初めて示した論文となった.

・オニグルミの持ち去り実験は,技術員のMさんとの共同研究である.これまたシンプルな実験で,クルミにペンキや蛍光糸でマーキングしておいて,エゾリスやアカネズミに持っていかせて,その後の貯食場所や捕食場所を特定したものである.改めて,2次散布が普遍的に起こっていること,ササ地ではアカネズミが巣穴にとんでもない量のオニグルミを溜め込んで捕食していること,などが分かってとても面白かった.掘り出された大量のクルミは,なぜか研究室内に保存(?)されていたのだが,なかなか出番がないままに待機させられていた.ということで,待機クルミは全てが茨城送りとなり,(たぶん)活躍の場を得たのであった.