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西東京市・北海道富良野の森林を舞台にした遺伝,育種,生態などに関する研究ノートの一部を紹介します

Hufford and Mazer 2003 (後半) 読解

2006-09-06 | 研究ノート
・6時起床.いきなり論文読み.Hufford and Mazer 2003の続きである.地域適応の検出と移植リスクの評価,として,いくつかの手法の紹介と解説がなされている.以下,項目ごとに要約してみると,

3.地域適応の検出と移植リスクの評価
1)産地試験
 種内の形態変異や生活史特性の違いの変異のうち,Restorationで問題となるのは遺伝的な変異である.環境変異と遺伝変異を分割するには,異なる種子産地のものを同じ場所に植栽する,古典的な産地試験(Common garden)が有効である.ただし,産地試験の場合,遺伝的分化の原因が遺伝的浮動によるのか,自然選択によるのかを区別できない.

2)相互移植試験
 自然選択に対する地域適応が起こっているかどうかを判断するには,相互移植が必要である.地域適応が働いている場合,各エコタイプは自生地で最も選択に対して有利(Home-site advantage)となることが多い.実際,これまで調べられた13種のうち,11種でこの現象が認められている.しかし,個体群がエコタイプというよりはエピタイプ(epitype)を示す場合,移植リスクは地域適応がなくても起こりうる.

・と,ここで読んでつまずく.エピタイプとはなんだ?その次の文章を読むと,親の遺伝子組成は同じでも,交雑によって遺伝子群の組換えが起こるとフィットネスが下がるなどとある.これも遺伝子間相互作用に関する用語か・・・.などと腑に落ちないながらに先に進む.

3)雑種世代と親世代の相対的パフォーマンス
 雑種が親世代よりも高いパフォーマンスを示せば雑種強勢,低いパフォーマンスを示せば遠交弱勢である.雑種強勢はF1世代で分かるが,遠交弱勢のメカニズム(DilutionとHybrid breakdown)を理解するにはF2まで調べる必要がある.

・ここでBox2には,1)雑種強勢のみ,2)Dilutionのみ,3)Hybrid breakdownのみ,4)雑種強勢とHybrid breakdownの組合せ,など様々なケースにおける,親世代,F1世代,F2世代の適応度の変化が図示されている.なるほど複雑である.樹木ではなかなか発想に至らないが,F2世代まで進めることの重要性を改めて感じる.

4)分子マーカーの利用
 分子マーカーは相互移植試験のような大変な労力と時間をかけなくても,エコタイプを検出できる可能性がある.しかし,多くの場合,自然選択に対してほぼ中立なので,分子マーカーで検出される遺伝変異と適応形質の変異は必ずしも一致しない.しかし,分子マーカーを利用することで,1)強い創始者効果,2)Genetic swamping,3)集団間の遺伝的分化度,などの評価が可能である.今後,マーカーとフィールド研究の統合が課題である.

・この意見には大賛成である.同じことをMacKay et al. 2005 Rest. Ecolも述べている.FSTとQSTの関係整理などは,これから重要になるだろう.

4.種子供給範囲の設定
 種子供給範囲は,林業対象の針葉樹における強い地域適応の結果に関連して,最初に設定された(つまり,適切な種子産地を用いなかったときの造林の失敗例から学んだという意味か・・・).当初,なるべく保全対象地(植栽地)に地理的に近いところから種子を採種するべきとされたが,最近では,「距離」は必ずしもよい指標とはならないことが指摘されている.また,種子供給範囲の設定に際しては,対象種の繁殖様式(自殖性か他殖性か)によって,地域適応やエコタイプの生じやすさが大きくことなるので,そうした基礎的な知見が大事である.

・ここで,アタマはいきなり育種に戻される.林業樹種では,きちんと検証されているわけではないが,Home-site advantage仮説が成り立つという前提のもとに,種苗配布区域が法律によって規定されていると考えた方がよいのだろう.むしろ最近では,Restoration ecologyが流行ってきたという背景で,林業樹種以外でも種子供給範囲が検討されていると考えた方が自然なのかもしれない.


5.結論
 植生再生における自生種の移植は,実験的な段階で発展途上の学問.創始者効果や近交弱勢の影響はかなり明確になっているが,遠交弱勢の発現程度とその長期的影響についてはまだまだ不明な点が多い.再生手法の開発では,(目的とする)絶滅危惧種あるいは希少種の再生という観点だけでなく,これからの環境変動の中で個体群が自ら繁殖維持できるかといったことにも留意するべきである.

・と,ようやくこれにて一応終了.今更なんだが,Restoration ecologyとは正確にどういう意味なのかをちゃんと理解せんといかんと思い始める.Wikipediaによると,「ダメージを受けた生態系を意図的な人為活動によって回復せしめんとする学問」とあり,保全生物学との相違点などが書かれている.ふむふむと読み進み,ようやく概要をほぼ理解する.こういう人くさい,応用的な学問分野はやはり好きだ・・・と改めて認識.