・気になっていた品種の起源探しの論文,Arroyo-Garcia et al. (2006) Multiple origins of cultivated grapevine (Vitis vinifera L. ssp. sativa ) based on chloroplast DNA polymorphisms. Mol Ecol (Online)に目を通す.この論文では30を超える共著者が列挙されており,所属もかなり横断的である(さすがは,EU).ブドウの栽培種sativaは,野生種sylvestrisから栽培化されたとのことだが,元来,野生種では雌雄異株だったのだが,両性のものを栽培種として選抜したようだ.栽培の歴史は古く,論文には起源前4000年とか3000年という言葉が出てくる.ブドウは,木本の栽培品種の中で最も遺伝研究が進んでいる種の一つだと思われる.論文数も開発されたマーカー数も非常に多い.
・さて,この論文の主題は,ユーラシア大陸のブドウ品種の起源探しを葉緑体SSRで行うというものだ.もともと,大陸のブドウは,非常に限定された地域から広がったという単一起源説が一般的だったのだが,近東と地中海沿岸西部の品種では形態的に分化していることから,最近では複数起源説が提唱されているらしい.今回は,これを分子マーカーで検証しようというもの.
・材料として,ヨーロッパから近東までの8地域(イベリア半島,中央ヨーロッパ,イタリア半島,北アフリカ,バルカン半島,東ヨーロッパ,近東,中東)から野生種688サンプル,栽培種513サンプルの合計1201サンプル(!)を供試している.サンプル数の多さにも目を奪われるが,ここで注目すべきは,栽培種は移動がありうるので地域を限定するのが難しいというわけで,古くから栽培地域が1地域に限定できるもの品種のみに絞り,さらに核SSRで栽培品種のダブりをチェックしている,といった工夫がなされていることだ.葉緑体はタバコやシロイヌナズナで公表された葉緑体マイクロサテライト54遺伝子座からスクリーニングし,9の遺伝子座で解析している.
・葉緑体ハプロタイプは8つに分類され,Fig.1にはハプロタイプネットワークなどが描かれている.しかし,中心的に解析されているのは,地域ごとのハプロタイプ頻度である(Fig.2).まず,原産種を地域ごとにみると,ハプロタイプAはイベリア半島や中央ヨーロッパでは優占するが中東や近東にはなく,逆にハプロタイプC,D,Gはイベリア半島や中央ヨーロッパには非常に少ない.また,E, F,Hは近東のみに存在している.このようにヨーロッパ西部と近東,中東では明確な分離が認められ,また,近東,中東の多様性が高かった.また,原産種と栽培種を比較すると,栽培種は原産種よりも遺伝的多様性が高く,集団間の分化度が高い(原産種0.169 vs 栽培種0.353).
・これらの結果から,単一起源説ではなく,複数起源説が妥当であると考察され,系統樹解析の結果(Fig.3)からもブドウは,大陸東部とヨーロッパ西部で独立して栽培化されたことが示された.興味深いことに,複数起源説はオリーブ(Besnard et al. (2001)Theor Appl Genet)でも似たような結果が示されており,木本種の栽培化ではこのような複数起源は一般的な現象であるらしい(Armelagos & Harper 2005 Evolutionary Anthropology).
・というわけで,方法も結果も至極シンプルな論文であった.しかし,お馴染みのブドウの話だけに,「原産地がどこ」という記載だけでも楽しめるのはちょっと羨ましい.さらに,仮説がしっかりしているので,面白さを後押ししている感じがする.母性遺伝する葉緑体DNAの場合,(移動距離の大きな花粉では伝わらず)種子散布か挿し木(すなわち,種苗)でしか移動しないために,歴史的な移動を検証するには適しているといえそうだ.ちなみに,核SSRで遺伝解析をしたところ,栽培品種の方が遺伝的多様性が高かったが,野生種の集団間分化は低く,クリアな結果は見られなかったようだ(Ardhya et al. 2003 Genet Res).とにかく,歴史的な移動と原産地の関係については,執筆中の論文でも引用できるところがありそうだ.そして,Armelragos & Harper (2005)の総説はとても便利そうなので,早速チェックしてみるつもりである(しっかし,雑誌はマイナーだな・・・).
・さて,この論文の主題は,ユーラシア大陸のブドウ品種の起源探しを葉緑体SSRで行うというものだ.もともと,大陸のブドウは,非常に限定された地域から広がったという単一起源説が一般的だったのだが,近東と地中海沿岸西部の品種では形態的に分化していることから,最近では複数起源説が提唱されているらしい.今回は,これを分子マーカーで検証しようというもの.
・材料として,ヨーロッパから近東までの8地域(イベリア半島,中央ヨーロッパ,イタリア半島,北アフリカ,バルカン半島,東ヨーロッパ,近東,中東)から野生種688サンプル,栽培種513サンプルの合計1201サンプル(!)を供試している.サンプル数の多さにも目を奪われるが,ここで注目すべきは,栽培種は移動がありうるので地域を限定するのが難しいというわけで,古くから栽培地域が1地域に限定できるもの品種のみに絞り,さらに核SSRで栽培品種のダブりをチェックしている,といった工夫がなされていることだ.葉緑体はタバコやシロイヌナズナで公表された葉緑体マイクロサテライト54遺伝子座からスクリーニングし,9の遺伝子座で解析している.
・葉緑体ハプロタイプは8つに分類され,Fig.1にはハプロタイプネットワークなどが描かれている.しかし,中心的に解析されているのは,地域ごとのハプロタイプ頻度である(Fig.2).まず,原産種を地域ごとにみると,ハプロタイプAはイベリア半島や中央ヨーロッパでは優占するが中東や近東にはなく,逆にハプロタイプC,D,Gはイベリア半島や中央ヨーロッパには非常に少ない.また,E, F,Hは近東のみに存在している.このようにヨーロッパ西部と近東,中東では明確な分離が認められ,また,近東,中東の多様性が高かった.また,原産種と栽培種を比較すると,栽培種は原産種よりも遺伝的多様性が高く,集団間の分化度が高い(原産種0.169 vs 栽培種0.353).
・これらの結果から,単一起源説ではなく,複数起源説が妥当であると考察され,系統樹解析の結果(Fig.3)からもブドウは,大陸東部とヨーロッパ西部で独立して栽培化されたことが示された.興味深いことに,複数起源説はオリーブ(Besnard et al. (2001)Theor Appl Genet)でも似たような結果が示されており,木本種の栽培化ではこのような複数起源は一般的な現象であるらしい(Armelagos & Harper 2005 Evolutionary Anthropology).
・というわけで,方法も結果も至極シンプルな論文であった.しかし,お馴染みのブドウの話だけに,「原産地がどこ」という記載だけでも楽しめるのはちょっと羨ましい.さらに,仮説がしっかりしているので,面白さを後押ししている感じがする.母性遺伝する葉緑体DNAの場合,(移動距離の大きな花粉では伝わらず)種子散布か挿し木(すなわち,種苗)でしか移動しないために,歴史的な移動を検証するには適しているといえそうだ.ちなみに,核SSRで遺伝解析をしたところ,栽培品種の方が遺伝的多様性が高かったが,野生種の集団間分化は低く,クリアな結果は見られなかったようだ(Ardhya et al. 2003 Genet Res).とにかく,歴史的な移動と原産地の関係については,執筆中の論文でも引用できるところがありそうだ.そして,Armelragos & Harper (2005)の総説はとても便利そうなので,早速チェックしてみるつもりである(しっかし,雑誌はマイナーだな・・・).