・午前中に論文紹介ゼミ.Hardesty et al. (2006) Genetic evidence of frequent long-distance recruitment in a vertebrate-dispersed tree. Ecology Letters 9: 516-527をSさんに紹介してもらう.ゼミとは言っても2人しかいないので,分からなかったところはうんうん唸りながら2人で読み進める.そんなわけで,やっとこさ,考察を終わると2人ともへろへろに.
・さて,この論文である.最近気になっているこの雑誌では珍しくジーンフロー直球勝負だ.イントロでは,種子の長距離散布の重要性と追跡の歴史,動物散布の特徴,遺伝マーカーの有用性などが書いてあり,カツラ論文でもそのまま使えそうなフレーズがたくさんある.うーむ,イントロはえらい!
・調査地は,著名なバロ・コロラド島BCIの50haプロット.動物散布型の高木,Simarouba amaraの種子と花粉の散布について,マイクロサテライトマーカーを使って実生782個体の親子判定を行った,というもの.特に,長距離散布(といっても100m以上を彼らはそう定義している)がどれだけあるか,といった点に焦点を当てている.Table1に使ったマーカーの情報が載っているが,First parentでは0.772,Second parentでも0.936という低い排除確率である(Second parentについては,著者らはこれでも高いと言っているようだけど).
・まず,母親の解析を単純排除で行い,複数候補が残った場合(これがほとんどだけど・・・)は,最も距離の近い個体を母親としている.「おいおい,何をいたしておるんだ?」と当方ならずとも突っ込みたくなるところだ.しかし,これが彼らの巧みなところで,最も近い個体を親にしているので長距離散布の頻度を推定する上で,過大評価することがない(コンサバティブな手法だ)という解釈に持っていっている.いったん,こうして無理やり解析した上で,実はこの方法ではまずいと自己否定しつつ,だからこそ,種子は想像以上に飛んでおり,長距離散布が頻繁に起こっているのだというロジック.狐につままれたような展開だが,マーカーの精度の割にうまい具合にまとめているとも見える.
・父性解析は母樹が1つに絞り込まれた100個体を対象に行われた(実は,サンプル数がはっきりしないが・・・).ここで,父親と実生の距離を解析し,平均373mと遠距離であることを示している.さらに,半兄弟もしくは全兄弟の血縁関係にある実生個体間の距離を推定し,平均で100m以上離れていることを示している.しかし,結局33の実生しか父親を確定できておらず,たったこれだけのデータで結構なことを言っている.「決まらなかった実生たちの立場はどうなるんだ!?」と言いたいところで,大いに不満.これは,某Molecular Ecology誌ならばあっさりリジェクトになってしまうところでしょう.
・本論文の考察はかなり長い.まず,本研究で長距離散布の頻度が高かったことから,本種においてもJanzen-Connell仮説が支持されることや,現在の実生個体群の分布が種子の長距離散布と密度依存,距離依存的な死亡要因が複雑に組みさった結果であるなどと,Jordanoグループの種子散布研究の結果との比較をしながら行っている.また後半では,Jones et al. 2005 Am Nat,Aldrich and Hamrick 1998 Science, Sezen et al. 2005 Scienceなど著名なお馴染み論文の結果を抜粋した表を提示して,比較考察が行われている.全体的に,それほどたいしたことを述べていないのだが,結論をうまく引き出しており,言い回しなどは(おそらく)格調高いのであろう.
・しかし,全体的には,2006年にもなってこのレベルでEcology Lettersに掲載されたとは驚きである.全体的にMolecularの研究は少ない雑誌なので,方法論的なまずさに気がつかなかったのかもしれない.これなら当方の論文でも通るんではないかという気に一瞬なりますが,やはりそこは玉砕するんでしょうな.
・ところで,日本生態学会誌の最新号が届いた.和文誌には当方も共著になっている花粉散布研究における遺伝マーカーの役割に関する総説が掲載されている.この総説は,何度も空中分解しそうになりながら,足掛け3年でまとめあげたものである.ということなので(?),皆さん,この汗と涙の結晶をぜひ読んでください!
・さて,この論文である.最近気になっているこの雑誌では珍しくジーンフロー直球勝負だ.イントロでは,種子の長距離散布の重要性と追跡の歴史,動物散布の特徴,遺伝マーカーの有用性などが書いてあり,カツラ論文でもそのまま使えそうなフレーズがたくさんある.うーむ,イントロはえらい!
・調査地は,著名なバロ・コロラド島BCIの50haプロット.動物散布型の高木,Simarouba amaraの種子と花粉の散布について,マイクロサテライトマーカーを使って実生782個体の親子判定を行った,というもの.特に,長距離散布(といっても100m以上を彼らはそう定義している)がどれだけあるか,といった点に焦点を当てている.Table1に使ったマーカーの情報が載っているが,First parentでは0.772,Second parentでも0.936という低い排除確率である(Second parentについては,著者らはこれでも高いと言っているようだけど).
・まず,母親の解析を単純排除で行い,複数候補が残った場合(これがほとんどだけど・・・)は,最も距離の近い個体を母親としている.「おいおい,何をいたしておるんだ?」と当方ならずとも突っ込みたくなるところだ.しかし,これが彼らの巧みなところで,最も近い個体を親にしているので長距離散布の頻度を推定する上で,過大評価することがない(コンサバティブな手法だ)という解釈に持っていっている.いったん,こうして無理やり解析した上で,実はこの方法ではまずいと自己否定しつつ,だからこそ,種子は想像以上に飛んでおり,長距離散布が頻繁に起こっているのだというロジック.狐につままれたような展開だが,マーカーの精度の割にうまい具合にまとめているとも見える.
・父性解析は母樹が1つに絞り込まれた100個体を対象に行われた(実は,サンプル数がはっきりしないが・・・).ここで,父親と実生の距離を解析し,平均373mと遠距離であることを示している.さらに,半兄弟もしくは全兄弟の血縁関係にある実生個体間の距離を推定し,平均で100m以上離れていることを示している.しかし,結局33の実生しか父親を確定できておらず,たったこれだけのデータで結構なことを言っている.「決まらなかった実生たちの立場はどうなるんだ!?」と言いたいところで,大いに不満.これは,某Molecular Ecology誌ならばあっさりリジェクトになってしまうところでしょう.
・本論文の考察はかなり長い.まず,本研究で長距離散布の頻度が高かったことから,本種においてもJanzen-Connell仮説が支持されることや,現在の実生個体群の分布が種子の長距離散布と密度依存,距離依存的な死亡要因が複雑に組みさった結果であるなどと,Jordanoグループの種子散布研究の結果との比較をしながら行っている.また後半では,Jones et al. 2005 Am Nat,Aldrich and Hamrick 1998 Science, Sezen et al. 2005 Scienceなど著名なお馴染み論文の結果を抜粋した表を提示して,比較考察が行われている.全体的に,それほどたいしたことを述べていないのだが,結論をうまく引き出しており,言い回しなどは(おそらく)格調高いのであろう.
・しかし,全体的には,2006年にもなってこのレベルでEcology Lettersに掲載されたとは驚きである.全体的にMolecularの研究は少ない雑誌なので,方法論的なまずさに気がつかなかったのかもしれない.これなら当方の論文でも通るんではないかという気に一瞬なりますが,やはりそこは玉砕するんでしょうな.
・ところで,日本生態学会誌の最新号が届いた.和文誌には当方も共著になっている花粉散布研究における遺伝マーカーの役割に関する総説が掲載されている.この総説は,何度も空中分解しそうになりながら,足掛け3年でまとめあげたものである.ということなので(?),皆さん,この汗と涙の結晶をぜひ読んでください!