螺鈿はね小さく焚く幸涅槃寺
ラジオを組み立てたことはないが分解したことはある。
トランジスタ・ラジオではなく、木製のキャビネットに収まったラジオ。
三つ並んだダイアルは、左から(切/入)をカチっといわせて音量調節をするもの、
短波/中波の切り替え、放送局を選ぶチューナー。
裏ぶたを開けて見ると、直径12センチくらいの口径のスピーカー。
がらんどうの内部には真空管が数本並ぶ。
左端のつまみを(入)にすると、
しばらくしてぼんやりとしたオレンジ色の光が点る。
ザーザーという雑音に、淡々と話す男のうねった声がかさなる。
ベージュ色の大きな輪と小さな輪を結んで白い紐がかけてある。
右端のつまみを回すとゆっくり大きな輪が動き、
それにつれて表面に描いてある3段組みの数列の上を赤い傍線が移動する。
900から1200くらいの数字のところで、ラジオの声はいくつか大きさを増した。
電波がどうとか、電気がこうとか、小学校低学年には無縁だ。
ぼうっとした明かりとゆっくり動く輪っか。
男の声と、にぎやかな音。
誰もいない木箱に、魔法をみつけた。
こっそり裏ぶたをもとに戻す。
閉める寸前、オレンジの明かりが大きくなった。
あわててふたをして、ねじを回した。
魔法を封じ込めたのだ。
ハムカツ噛む歯