時計手に死にたい田螺煮ていけと
神戸の湊山町は裏がすぐ山になっていた。
遊び場としては最適だったのが、ちょっとした崖だった。
滝というにはあまりにも小さな滴りが落ちる
高さ10メートル程度の傾斜60度程度の壁面。
何を血迷ったか、そこに生えている椿の花を採りに登った。
花は三分の二くらいのところにあった。
その一輪に目がけともかく上を目指して登った。
花を折った瞬間に,我にかえった。
登るか降りるか、決断を迫られる夕闇と高さだった。
あたりは暗くなり、足下は不安定、力が体から抜け落ちて行くのを感じる。
怖さより現実があった。これは夢に違いないと何度か思った。
なんとかしないと、どうにもならない。
よくは覚えていないが、崖は登り切ったのだと思う。
一目散に坂を駆け下りて家へ帰ったのは覚えている。
それにしても、あの時の椿、どうしたんでしょうね、かあさん。
涅槃ピンハネ