詞書に、愛していた女の死後、その手紙を写経用紙に流用するつもりで、とある。貴族にとっても、紙は貴重品だったから、流用は珍しくはなかった。
読み:彼の女=かのひと。
【略注】○書きとむる=「(筆で)書き留むる」「(葉の流れを)掻き止むる」の巧みな掛詞。
○水茎の流れて=「水茎」は「(字を書く)筆」と「(川の)水草」。「流れ」は「水の流
れ」「筆先の流れるような滑らかさ」「時の流れ(生死流転。行く川の流れは・・・の
無常観)」に掛ける。この作品は掛詞・縁語・暗喩に満ちている感じ。
○藤原公通(きんみち)=通季(みちすえ)の子。按察使(あぜち。本来は地方行政
監察官)。