ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

それでもボクはやってない

2007年10月08日 | 映画レビュー
 ここ描かれている逮捕・起訴・裁判の手続きの流れ、弁護士との接見や拘置所での面会等々、わたしには知らないことはほとんどなかった。だからこの映画を見て新鮮な感動を覚えたり、裁判の勉強になったといった啓蒙的な効果は(わたしにとっては)まったくない。にもかかわらず、2時間を超える作品をまったく厭きることなく画面に釘付けになってしまった。それほど脚本が巧みで演出にたるみがなく、演技に舌を巻いてしまったのだ。

 観客の感情を明らかに被告人に同化させるような物語なのだが、その手腕がすぐれている。もちろんわたしもすっかり犯人に仕立て上げられた金子徹平くんと一心同体となって切歯扼腕し権力に怒りまくっていたし、裁判官の「非道」にも怒りを向けていた。冤罪とはこのようにでっち上げられるのだという好例となる事件だが、実際にはもっと悪質な捏造がいくらでも行われているのが現状だ。

 警察での取調べや裁判について知らない人にはかなりいい勉強材料になるし、何より「痴漢冤罪」という身近な問題だけに多くの人の関心を呼ぶだろう。現に劇場は満席だったし、わたしの両隣は高齢男性の一人客で、彼らがものすごくこの映画に入れ込んで見ていることがひしひしと伝わってきてとても興味深かった。なにしろ、冤罪事件を描く暗いだけの社会派作品ではなく、随所にユーモアがあるので、思わず笑ってしまう場面もいくつもある。そういうところで両隣のおじちゃんたちはいちいち素直に反応するのでとても面白い。

 冤罪への怒りはわたしも共有するが、気になるのは痴漢被害者への同情や共感といったものが希薄であること。憎むべきは痴漢をした男なのだが、犯人への怒りよりも、「偽証」しがちな被害者感情や証人の証言のいい加減さへの怒りに焦点がずれていくことが危惧される。こういうことはきっとフェミニストが誰か批判するだろうな…。

 とにかく、役者たちの演技力には拍手喝采です。瀬戸朝香以外は全員うまい。特に主役の加瀬亮、びっくりしたわ! あんなにいい役者だとは知らなかった。

 とにかく、この映画はいい映画だと思うが、ただ一つの結論に観客の感情や理性を導いていこうとする意図がある点については心して見るべきではなかろうか。

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日本、2007年、上映時間 143分
監督・脚本: 周防正行、製作: 亀山千広、音楽: 周防義和
出演: 加瀬亮、瀬戸朝香、山本耕史、もたいまさこ、田中哲司、光石研、鈴木蘭々、清水美砂、竹中直人、小日向文世、高橋長英、役所広司

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2 コメント

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痴漢冤罪と三浦事件 (福田浩司テレビ番組賞味大臣)
2008-03-03 22:30:50
先週テレビで見ました。そんな大げさな話でなく冤罪はそれ自体が腹立たしいです。痴漢だけ疑わしきは罰せずの例外ですね。この裁判と反対のケースの典型が三浦事件なのかもしれません
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和歌山カレー事件 (ピピ)
2008-03-04 21:43:07
はじめまして

 冤罪といえば、和歌山カレー事件も冤罪だと言われています。物的証拠が一切ない、唯一の証拠と言われたヒ素がなぜか何度も捜査した挙げ句に突然発見された、住民の証言が最初は一致してなかったのに警察に証人達が集められた後は不思議なほど意見が一致した、女子高生の目撃証言には実際と合わない部分がある、動機がない…云々。
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