ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

イカとクジラ

2007年10月08日 | 映画レビュー
同じ離婚ものでも、ベルイマン作品のような緊迫感がない。そこがアメリカ映画なんだろうか、どういうわけか軽いのだ。子供の視点で描かれているからかもしれない。

 最近ニューヨーク知識人の本を立て続けに読んでいるからか、ニューヨークの知識人はみんなユダヤ人だという先入観がはりついてしまった。この映画の主人公一家もやっぱりユダヤ人なんだろうか? 脚本・監督のノア・バームバックの体験を素に作られた映画で、男の子二人を持つ家庭の離婚劇だが、監督自身はおにいちゃんのほうなんだろうか、泣き虫の弟か? という興味がついつい先立つ。

 両親が「家族会議を開くから今日は早く帰ってらっしゃい」と息子達に告げた日、いざ全員がそろってパパが口ごもりながら言葉を発した瞬間に、もう雰囲気を察した弟フランクが涙目になっているところが可愛い。兄ウォルトが16歳で弟フランクが12歳。思春期真っ只中の彼らには両親の離婚はこたえる。どちらも作家という両親は、いかにもインテリ夫婦らしく、何かと言うと議論を始め、また自分達の離婚問題や夫婦の葛藤などを子ども達にフランクに話そうとするリベラルな姿勢をもつ。

v父は難解な小説を書くために売れず、自分が売れないことに焦燥を感じているのだが、大衆嫌いなので迎合することはない。妻も小説を書いて自分より売れ始めたものだから面白くない。

 で、この夫婦は「民主的」に子どもを共同監護することになり、一週間をきっちり二等分して(木曜は隔週で)子ども達は両親の家を行き来することになる。こういう生活って子どもにはいい迷惑だと思うのだが、今までどおりの立派な家に住む母親と、みすぼらしいアパート住まいの父の家を行ったり来たりするうちに、離婚の原因が母親の浮気にあると知ったウォルトは母に反発しその反動のように父を慕う。一方、両親の離婚のショックからか、学校で奇行に走るフランクは母親にべったりだ。

 こういう、息子達の反発や親への愛着や精神的傷や、インテリの大衆蔑視やらが率直に描かれていて興味深い。他人事とは思えない場面が続出するのだ。インテリの口からあからさまな大衆侮蔑の言葉を聞くとドキッとしてしまうのは、やはりわたしもやましいものがあるからだろう。

 映像は低予算のために精度の低い(といえばいいのか)カメラを使っていて、それがなんともいえないレトロで素朴な雰囲気を醸し出している。子ども目線の描写が多いが、そうとばかりは言えず、大人の心理もまた役者たちの微妙な表情の変化でうまく描かれている。離婚後も愛憎相半ばする元夫婦の心理とか、思春期の少年の性的好奇心とか、新しい関係を模索する苦悩とか、さすがに実体験を踏まえているからだろう、リアルに描かれている。

 しょせん夫婦は噛み付き合うイカとクジラなのだろうか? ベルイマン作品のような過度の緊張感はないが、テーマに惹かれた。佳作です。(レンタルDVD)


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THE SQUID AND THE WHALE
アメリカ、2005年、上映時間 81分 映倫 PG-12
監督: ノア・バームバック、製作: ウェス・アンダーソンほか
出演: ジェフ・ダニエルズ、ローラ・リニー、ジェシー・アイゼンバーグ、オーウェン・クライン、ウィリアム・ボールドウィン、アンナ・パキン

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