映画「シルミド」はいまいちの出来だったが、それでもおもしろく見ることはできた。おもしろい、というより、なにしろ実話だから、ずしんと来るものがある。
映画の感想は既に「シネマ日記」に書いたが、今度はこの事件関連の本が何冊も出ているので、興味を持って読んでみた。いずれも映画の上映に合わせて今年の春に刊行されたものばかり。
まずは生き残った訓練兵の証言、『実尾島:生存者キム・バンイル元小隊長の証言』(ファンサンギュ著;蔡七美,沢田信恵,藤田優里子訳. ソフトバンクパブリッシング)。
これは、訓練兵の生き残りキム・バンイル氏の証言を、住宅管理士というプロのライターではない人が書き綴ったという異色の本。証言者本人が書き下ろせばいいところだが(たいがいゴースト・ライターがついてるけど)、なぜ、プロの物書きではない人が書いたのかが不思議だが、どうやら、この著者ファン・サンギュは、実尾島事件にからめて、自分の父親のことを書きたかったようだ。
本書の初めの部分に、ファン・サンギュの父の従軍日記が掲載されている。著者の父は朝鮮戦争に参戦し、激戦地の38度線高地の奪取戦を戦って生き残った。この734高地の戦いは、先日観た映画「ブラザーフッド」(映画の感想はシネマ日記にあり)の記憶も生々しく蘇る。ただ、兵士の日記としては、戦闘場面の生々しさよりも、戦意高揚のプロパガンダのような言葉ばかり並ぶのは読んでいて気持ちのいいものではない。
その父が、除隊後は軍事教練の教師として勤めていたのだが、南北雪解けの時代には職を解かれて苦労したらしい。
そんなこともあって、著者の立場は鮮明である。本書は徹頭徹尾、反共・反北朝鮮の視点で描かれている。
本書は、実尾島事件の生き残りであり、かつ、どうやら偶然生き残ったというよりは、訓練兵たちに心優しく接したために難を逃れたらしいキム・バンイル氏の人徳を称える内容にもなっていて、<できる限り偏りなく事件の真相を描く>という姿勢には欠けているが、やはり証言には当事者でなければ語れない迫力がある。
映画には描かれていない細かいエピソードもふんだんに登場し、映画以上に凄惨な出来事も描かれていて、酸鼻を極めるようなリンチ・過酷な訓練の様子も目に浮かぶ。
ただし、ニュースソースが明らかになっていなかったり、参考引用文献が少なくて、史料的価値には疑問がある。
次に城内康伸著『シルミド:「実尾島事件」の真実』(宝島社)
本書は東京新聞ソウル支局長だった記者の取材によるドキュメンタリーだ。ファン・サンギュ本に描かれているのと同じエピソードもかなり含まれていて、内容は重複する部分が多い。ただし、同じエピソードでも微妙に書かれていることが違ったりする部分もある。
本書は、日本人が書いているだけに、日本の読者によくわかるように事件の背景解説も丁寧だし、当時の政治情勢についてもコメントがあるので、たいへんわかりやすい。また、文章がうまいので、泣かせる部分もあり、ファン本よりかなりお奨め度は高い。
本書を読めば、なぜ実尾島の訓練兵たちが反乱を起こしたのか、その理由がよくつかめるし、事件全体の流れを裁判過程に至るまできちんと描いてある。
さらに、後日談として映画「シルミド」の制作裏話まで書いてあるのはたいへん興味深い。
また、シルミド部隊だけではなく、いわゆる北派工作員の実態をほかにもいろいろと描いているところも興味をそそられるし、その実態は読めば読むほど心胆寒からしめるものがある。分断国家ゆえの悲劇が読者の胸に迫るドキュメンタリーだ。
映画の感想は既に「シネマ日記」に書いたが、今度はこの事件関連の本が何冊も出ているので、興味を持って読んでみた。いずれも映画の上映に合わせて今年の春に刊行されたものばかり。
まずは生き残った訓練兵の証言、『実尾島:生存者キム・バンイル元小隊長の証言』(ファンサンギュ著;蔡七美,沢田信恵,藤田優里子訳. ソフトバンクパブリッシング)。
これは、訓練兵の生き残りキム・バンイル氏の証言を、住宅管理士というプロのライターではない人が書き綴ったという異色の本。証言者本人が書き下ろせばいいところだが(たいがいゴースト・ライターがついてるけど)、なぜ、プロの物書きではない人が書いたのかが不思議だが、どうやら、この著者ファン・サンギュは、実尾島事件にからめて、自分の父親のことを書きたかったようだ。
本書の初めの部分に、ファン・サンギュの父の従軍日記が掲載されている。著者の父は朝鮮戦争に参戦し、激戦地の38度線高地の奪取戦を戦って生き残った。この734高地の戦いは、先日観た映画「ブラザーフッド」(映画の感想はシネマ日記にあり)の記憶も生々しく蘇る。ただ、兵士の日記としては、戦闘場面の生々しさよりも、戦意高揚のプロパガンダのような言葉ばかり並ぶのは読んでいて気持ちのいいものではない。
その父が、除隊後は軍事教練の教師として勤めていたのだが、南北雪解けの時代には職を解かれて苦労したらしい。
そんなこともあって、著者の立場は鮮明である。本書は徹頭徹尾、反共・反北朝鮮の視点で描かれている。
本書は、実尾島事件の生き残りであり、かつ、どうやら偶然生き残ったというよりは、訓練兵たちに心優しく接したために難を逃れたらしいキム・バンイル氏の人徳を称える内容にもなっていて、<できる限り偏りなく事件の真相を描く>という姿勢には欠けているが、やはり証言には当事者でなければ語れない迫力がある。
映画には描かれていない細かいエピソードもふんだんに登場し、映画以上に凄惨な出来事も描かれていて、酸鼻を極めるようなリンチ・過酷な訓練の様子も目に浮かぶ。
ただし、ニュースソースが明らかになっていなかったり、参考引用文献が少なくて、史料的価値には疑問がある。
次に城内康伸著『シルミド:「実尾島事件」の真実』(宝島社)
本書は東京新聞ソウル支局長だった記者の取材によるドキュメンタリーだ。ファン・サンギュ本に描かれているのと同じエピソードもかなり含まれていて、内容は重複する部分が多い。ただし、同じエピソードでも微妙に書かれていることが違ったりする部分もある。
本書は、日本人が書いているだけに、日本の読者によくわかるように事件の背景解説も丁寧だし、当時の政治情勢についてもコメントがあるので、たいへんわかりやすい。また、文章がうまいので、泣かせる部分もあり、ファン本よりかなりお奨め度は高い。
本書を読めば、なぜ実尾島の訓練兵たちが反乱を起こしたのか、その理由がよくつかめるし、事件全体の流れを裁判過程に至るまできちんと描いてある。
さらに、後日談として映画「シルミド」の制作裏話まで書いてあるのはたいへん興味深い。
また、シルミド部隊だけではなく、いわゆる北派工作員の実態をほかにもいろいろと描いているところも興味をそそられるし、その実態は読めば読むほど心胆寒からしめるものがある。分断国家ゆえの悲劇が読者の胸に迫るドキュメンタリーだ。