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赤十字幻灯講演(8) 赤十字七原則 と 

太平洋戦争を体験した方の中には
「赤十字」は戦争に協力する組織であると
誤解している方がいました。

赤十字はもともと
「人間の生命は尊重されなければならない」
だから「苦しんでいる者は、敵味方の別なく救おう」
という、ふつふつと湧き上がる
ボランティア精神から誕生しました。

その後、戦後の1965年に
ウィーンで開催された第20回赤十字国際会議で
「赤十字基本原則」が決議され、宣言されました。

1. 人道  Humanity
2. 公平  Impartiality
3. 中立  Neutrality
4. 独立  Independence
5. 奉仕  Voluntary Service
6. 単一  Unity
7. 世界性 Universality

この7原則です。

「赤十字の長い活動の中から生まれ、形作られた」
とされている背景には
さまざまな困難が立ちはだかってきた
ということなのでしょう。

日本赤十字社
赤十字について > 赤十字の7原則


さて、明治のわが国では、
どのように紹介されてきたのでしょう。

『赤十字幻灯講演』では
「ネイチンゲール」や
デュナンの「ソルフェリーノの思い出」のことなどが
紹介されています。

今日でも
ナイチンゲールについて
その名前だけでも知っている人が多いのは
明治の当時からの現在までの連続した取り組みの成果なのでしょうか。
戦後になってからなのでしょうか。

『戦前』といっても
何もかもまとめて評価できないなと
あらためて感じています。


そして現在、
あらためて『赤十字の7原則』について
すべての小中学生が学ぶ機会があれば
いいものだと思います。

いわゆる『道徳教育』を
強く推進しようとする方々は
どのように考えているのか
気にならないわけではありません。

いずれにしても、
『赤十字の7原則』は
わが国でも、義務教育で全員が学び、
共感する機会があることを望みます。

明治時代
加納久宜鹿児島県知事は、
就学率の向上に強いリーダーシップで
積極的に推進しました。

それだけに、地方視察の度に、
自ら進んで『赤十字幻灯講演』に取り組んだことを知ったときは、
そうだったのかと
感激しました。

きっと、同じ心だったのではないだろうか。

8歳のときに安政の大地震で、生き埋めになり、
自分は助け出され、両親を失った、
その体験が無関係ではないと
感じました。

『日本赤十字幻燈説明書』(明治29年訂正)より
第二号幻燈 (フロレンスナイチンゲル嬢)
 此嬢、天姓慈悲心厚く、義勇心に富み、少時より看病学を修め、病者の取扱に熟したり。此嬢、奮然志を立て、装を整い、遠く山海を超えクリミヤに赴きて、病者を救助することを企て公言したるに、この義挙を伝聞し、共に生きて其事を助けんという義人続き出で来りて、遂に一団の救護団をなし、遠く彼の地に赴き、彼戦夥多(かた)の患者を救護したるに、患者はこれを神の使いなりとて悦び、其恵訳(?)に浴するもの数を知らず。
此盛事を伝え聞きて起て救護の事業を企てしもの頗る多かりき。此ナイチンゲル嬢は、此戦争に付ての事を終結(?)して英国に帰りたる時は、歓迎うる人凱旋の将軍を歓送(?)するよりも尚お盛んなりしという。
さて、此嬢は此戦役に非常に辛苦艱(かん)難に逢いたる為に、身体を損じ、遂に病気となりm年月を重に、病床に暮らす程になりければ、英国の有志家は凡我邦の二十万円に当たれるほどの醸(?)金をなし、養老金に供したるに、嬢は其の在(?)銭だも受けず、此金にて、一の看病学婦学校を設立せしめて公衆の益に供したり。龍動のシントーマス病院に属する「ナイチンゲル看病婦学校」之なり。
此の如き例は古くよりままあれとも、平時に於て邦邦盟約し戦時に方(あた)り患者并に救護者及び救護材料を、公法上局外中立のものと見倣し、敵味方共に之に敬愛を表するという約束、即ち「ヂユネーブ」条約、新謂赤十字条約というものの濫觴を尋ぬるに、前に述たるクリミヤの戦鎮(しずま)りて四年の後、西洋の千八百五十九年に澳国と佛国の間に紛議を生じ、遂に終を戦に決したり。
此時、瑞国人ヘンリーヂナント氏、戦況視察の為めに戦地を実践したるに、同年六月二十四日ソルフェリーノの戦は、兵数三十万、戦争十五時間に亘り、傷者死者原野に充ち、其惨状実に言語に絶えたるを目撃して、

第三号幻燈 (ヘンリーヂユナント氏)
「ソルフェリーノ紀念」と題せる冊子を著して、世に公にし、戦時平時とも陸海軍は、軍医部の備は充分ありといえども、患者には厚きが上にも厚きを加えたく加え、久月に亘れる大戦なれば、敵味方共に、日々増すものは患者なれば、遂に救護会のお子さざる可からざる事を思い立ち、種々障害を排除して千八百六十三年二月六日、同志僅かに5人にて其社務を商議し創めたるに、慈善の挙たる天の助くる所や厚かりけん。
 同年十月二十六日には、七ヶ国の国使と三ヶ国の国書と、三十六人の有志家と相集まり会同商議するに至り、翌六十四年八月二日には、条約十ヶ条を議決し十一ヶ国の政府之に締盟したり。
 さて此会盟を了りて此会盟に名づけ、又之を標彰(?)するに何の徴章を用いるべきやの論に至りて、種々議論の末、此会盟は瑞国の都ヂユネーヴにて取締(?)びたるもの故にヂユネーブ条約と名づけ、また其標章は何れの国、何れの徴章にも偏らず、瑞国の国旗の裏を用いることに決せり。
 瑞西国の旗は赤地に白十字なり、其裏ゆえに白地赤十字とはなれるなり。因て此条約を一名赤十字条約ともいい、此事業を赤十字事業と称す、此れによりて起これる社を名づけて赤十字社というも、此故なり。

第四号幻燈 (瑞西国旗に赤十字旗の交叉)
 然るに世の多くの人の中には、赤十字の徴章の十文字形を見て是を宗教の標しなりと、誤り認めて忌み嫌うものもあるよしなれども、此白地赤十字の標章は、前にも延べたる如くにして、決して宗門等の関係に出たるものにあらず。又、之を行う為に集る団体即ち赤十字社なるものは宗者、党派、人種等には毫(すこし)も差別なきものにして、現に神道各派の教職、又本願寺教主を始め各宗の高僧も我赤十字社に加入せられて社の為に尽くされつつあるを見ても此疑は解かるべし。平常は宗者又は党派等の相違するより、互いに相親まざる間にても、此赤十字事業に付けては、共に一堂の内に会して互に手をとり、心を語りて事を詢(はか)り業をなすものにして、此赤十字の標章は、遂に戦時局外中立の徴章となれり。赤十字社にて、戦時に之を用うるは陸軍の公許を経て使用するものにして、常に貴重して、其乱用をきんずるなり。若しも之を乱用するものは之を瀆(けが)すのみならず、社名に傷くる至る。深く注意すべし、
 偖(さ)て戦時のことは聴衆中に実験したる人もおおかるべきも未だ実験せざる人もあるべきに付、其概略を説くべし。
 夫れ両軍相戦うや砲声雷の如く点に震い、銃丸雨の如く飛び迸(はし)り、山崩れ野裂くるかと思うばかりなるも、甲討たれ、乙斃(たお)れ、勝敗己に決し勝ちたるものは進みて、敵の陣地を占め、敗れたるものは退きて、要所に扼(やく、おさえる)するに至りては、其戦いたる衢(みち、よつすじ)は、日已(すで)に没し、四面寂寥(せきりよう)、樹折れ、草爛(ただ)れ、虫の声だに得聞かず、茫々たる昿原、唯孤月の天の懸るあるのみ。
 此時、若し戦の為に傷を叢中(そうちゅう、くさむら)林間に取り遺されたるものありて、声を放ちて救を求むるも、喉渇して声出でず。手を挙げて招くも、深夜人の認むるものなし。
 其生命は一瞬の間に迫る、此暗に当たりて遥かに衛生隊が赤十字角燈を揚げて傷者を擦り求めるを認めたる時は、傷者の心は如何ぞや。

第五幻燈 (戦野の傷兵)
 而して、其燈火は東に行き、西に向い、樹に隠れ、草を分け、まだ傷者を探り出さざる間、傷者が燈火を遠く望みて、其近づくを待つ時の心と、救護者が傷者は何処にあるかと尋ね巡る心とは、共に又如何ぞや。
 赤十字角燈は、草叢樹林の内を尋ねて、遂に此傷者を探り出し、抱き起こす。此時に当たりてや傷者の喜びは言う迄もなく、又我々救護者が此一傷者を探り出して抱き起こし、赤十字の角燈にて、死に垂々(なんなん)たる顔を見たる時の心は如何ぞや。
第六号幻燈 (救護者傷兵を拾う)
 此場合に於ては、傷者も救護者も敵も見方もある可からず。いつも、此時の心を以て、患者を厚く敬愛するを以て、本社事業の主旨となすなり。
 夫れ、我国の制度によれば、貴賎の別なく、男子生れて二十年に達し、身体健全にして罪科なき立派の壮者は、必ず一度は軍人とならざるべからず。
 さて、軍人はいざ戦争という時は、最愛なる両親妻子に別れ辛苦困難な異郷に行き、苦痛なる傷を受け、貴重限りなき命をまでしても惜まずして、戦争すると言う重任を負うよりして、我聖明なる、天皇陛下深く此に感じ思召廻らせ給い、我臣民をして、万一不幸戦争に遭逢するも、彼の赤十字盟約によりて、敵の敬愛を受けしめたしとの、深仁なる叡慮よりして遂に、明治十九年六月五日特命全権公使侯爵蜂須賀茂韶氏を瑞国ベルンへ侠せしめて、我日本帝国を此赤十字同盟に加わらしめ、我々臣民をして其恵沢を蒙(こおむ)らしめすの今日とはなし玉えり。此赤十字同盟に加盟することに付て、申述人に文明国にては、此同盟に入らざれば自ら其国の品位卑(ひく)きを表するの感ある故に、加盟を請う那国日々に増加す。随って、近年は用意に加盟を許さず、此に加盟するにや、大約四個の資格を調査證明する事とはなれり。
 其一は、其国の宗教。其二は、其国医学の程度。其三は、其国の王室と政府とが戦時傷兵に遇する歴史。其四は、其国の民族が戦時傷兵に対する実例、是なり。
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