78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎無断欠勤少女物語(第2話)

2012-06-15 03:37:28 | ある少女の物語
「もしもし、すみません、◎◎です」
 翌日の昼、ようやく少女から電話が来た。
「昨日はすみませんでした。昼頃から風邪を引いて電話も出来ませんでした。あの……大丈夫でした?」
 こうして無断欠勤の原因が判明した。電話くらいは出来るだろと突っ込みたいが、下手に強く言って辞められても困る。テーマはコミュニケーション。ESを下げないように上手く会話をせねばならない。
「店長が予定よりも早く来てくれたので何とか大丈夫でした。逆に少女さんは体調大丈夫ですか?」
「あ、もう大丈夫です」
「それは良かったです。ぶっちゃけ心配していたんで」
「すみません……」
「それで次の出勤は日曜ですけど来れそうですか?」
「ハイ、大丈夫です」
 少女は確かにそう言った。まさかこれが後に起こる悲劇の序章になろうとは、この時は知る由も無かった。



 6月3日、日曜日。この日僕は9時から18時までの9時間勤務のシフトになっていた。
 まずは9時にセンター2便が来て検品と品出し。センター便とはおにぎり、サンドイッチ、弁当などの食品や飲料が一日3回、波のように大量に押し寄せてくる納品である。その後おでんを作り、昼のピーク時に向けて揚げ物も徐々に揚げていく。10時半に今度は山パンの納品。これを全て売り場に出し終わると僕は精算作業に入る。もう一人のスタッフは11時廃棄の対象を売り場から撤去し、油まみれのフライヤーを洗浄する。お客様の殺到する12時以降はレジ2台をフル稼働させ、それでも13時までにレジ点検を終わらせなければならない。13時以降は夕方に向けて揚げ物を更に増やしたり、煙草の補充をしたり、おでんの汁の継ぎ足しをしたり。本来なら14時半に夕刊、15時に煙草の納品があるが、この日は日曜なので無し。前日の夕刊の売れ残りの返品作業のみを行う。16時までにレジ点検を済ませ、16時廃棄の対象を撤去する。その後センター3便が到着し検品と品出し。なんとここまでを僕とアルバイトの計2人だけで回しているのだ。アルバイトは13時を境に交代しているが、社員の僕は当然ぶっ通し。疲労はピークに達していた。その時、
「おはよ~」
 ついに店長が来てくれた。この日の夕勤は店長と少女の2人。当然店長は少女の無断欠勤の件を知っている。
「ちょっと今日は彼女に問い詰めるわ」
 事前連絡なしの欠勤は許される事ではない。全ての責任者である店長は少女に説教する義務がある。
「イヤ、あまり厳しくしないで下さいね」
 それでも僕は少女のフォローに回った。もしここで「まだ高校生ですから」等と付け加えていたら「そんなの関係ねえ」と突っ込まれていたはずだ。だが僕は無関係にはしたくない。高校生のメンタルが並の大人ほど強くは無いことくらい、自分の高校時代を思い出せば容易に想像がつく。まずはこの日来てくれる事に感謝すべきであり、事前連絡の必要性は一言、二言で伝える程度で良いと思う。それでも店長が少女への説教を強行するのであれば、その後僕が彼女にフォローを入れるまでの事。そのつもりでいた。17時5分までは。
「あれ? ちょっと待って、来なくない?」
「イヤ、少女さんはこれくらい遅れる事、何度もありましたよ」
 またしても少女が現れない。今度は店長が少女の携帯に電話をかける。そして3分後、店長の口から衝撃の事実が告げられた。
「少女さんは風邪が長引いて今日も来れないって。しかも僕さんに電話でそう伝えたって言っているけど?」
 嘘だッ。少女は嘘をついている。電話の相手が僕ではなく店長だから誤魔化せるとでも思ったのだろうか。いずれにせよ僕は裏切られた。今までの心配とフォローは何だったのか。そして、店長一人で夕勤の時間帯を回せるはずも無く、僕は21時までの無償残業が確定した。最後の一時間は立っている事すら辛かった。


(つづく)


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