78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎小説物語(第2話)

2014-02-22 02:58:21 | ある少女の物語
 想いを寄せる転校生をゆずのライブに誘った中学生男子の物語。学園ものとはいえ、作品としては邪道の部類に入る。だが勝算は一つだけあった。ストレートはジャニーズの某若手ユニットの大ファンで、なんとカウントダウンライブを生で観に行ったことがあるという。ゆずには詳しくないだろうが、本編の随所に差し込んだ“ライブあるあるネタ”は通じるのではないか。
 あとはこれを推敲するだけ。仕上げるルートは2通り考えられた。ストーリーに感動させることを目的とするガチガチの真面目路線か、散りばめた小ネタを楽しむギャグ路線かである。

>「僕さん面白いですね」
>そして、分かり合えなくても、笑い合うことなら出来る。

 僕は直感で後者に決めた。ストレートなら求めているものは笑いなのではないか。作品の随所に小ネタを追加した。自己満足で書いていた学生時代や、不特定多数の人に向けて書いていたブログの小説とは違う。今はストレートというたった一人の読者を喜ばせることだけを考えて書いている。これは28年の人生で初めてのことだ。

「小説、持ってきました」
 12月22日、A4用紙4枚半、延べ4569文字の作品をストレートに手渡した。そんなに長くは無いが、限られた時間の中でそれなりのものには仕上がったと思う。
「わーすごい、ありがとうございます。すぐ読みますね」
 すぐ読みますね。ストレートは確かにそう言った。間違いなく確かに……。



――6日後、ストレートはまだ読んでいなかった――



「……もう死ぬから読まなくて良いです」
「エー何でですか? 死なないで下さいよ」

 その後、2週間、3週間経っても感想を聞けることは無かった。
 本当に読んでいないのか。途中までは読んだがリタイアしたのではないか。改正版の『タオル』を冷静に、ゆずに詳しくない女子高生の気持ちになって冒頭から読み直してみた。そして気付いた。ゆずに興味が無ければモチベーションが下がり、最後まで読んで貰えない可能性があると。
 ブログを開設して早6年。これまでに投稿した393件の記事は、全て最後まで読んでくれることを前提に書いてきた。だが現実は、トータルIP・16万9439人の方々の一部、イヤもしかするとほとんどが、少し読んだだけで去って行っているのではないか。

 僕は所詮、小説もまともに書けない人間だ。全てが自己満足の範疇で行われてきたこと。ストレートのお陰でやっと気付くことが出来た。そして僕は再び女性不信に陥る。ストレートの「面白い」は、その笑顔は全て嘘だったのか。イヤ、今さら悲観することは無い。KSMの時と一緒ではないか。

――でも本当に、このままで良いの?――

 もう一つのプロジェクトは既に動き出していた。

(第一部・完)



※これまでにこのブログを読んでいただいた16万9439人の皆様、あらゆる方法でご意見・ご感想をいただいた皆様、その全てにこの場を借りて感謝の意を表します。本当にありがとうございました。稚拙な文章ではありますが今後もよろしくお願いいたします。

◎小説物語(第1話)

2014-02-22 02:54:01 | ある少女の物語
――いつも強く願う 「心がのぞければいい」と――

 2011年に惜しまれつつも解散した女性コーラスデュオのRYTHEMの5枚目のシングル『万華鏡キラキラ』の歌い出しの一節である。この曲が世に出た10年前、多くの日本人が歌詞に共感し、人の心をのぞけないもどかしさに改めて気付かされた。僕もその一人であり、学生時代から趣味として小説を書いていたのは、コミュニケーションを極力避けてそれに逃げていたとも受け取れる。人見知りが治らないまま早28年、僕のやってきたことは果たして正しかったのか。
 これは、一人の少女によってその答えが導き出され、それに悩み苦しんだ64日間の物語である。


<第一部:6years>


 全ては2013年12月17日、小説共有サイトに僕の記念すべき1作目『ただの女子高生』が投稿されたことから始まった。実はこれを徹夜で書き上げ、翌日は普通に日勤の勤務がありヘトヘト状態だった。
「今日どうしたんですか?」
 話しかけてくる一人の少女。ストレートである。

>人間が分かり合えるかもしれないという希望はとっくに捨てている。分かり合えるわけが無い。だが、そうだとしても人間と人間は言葉のキャッチボールをしなければならないのが現実なのだ。
>ストレートとは正しく向き合わねばならない。

 そう、僕は逃げずに向き合うと決めたのだ。どんな精神状態であってもしっかりと会話を交わさなければならない。
「昨日寝てないんですよ」
「エー、何していたんですか?」
 しかし、ここで僕は最大の失言をすることになる。
「小説を書いていたんですよ」
 そのレスポンスは正解であり不正解だった。事態はとんでもない方向へと向かう。
「どんな話ですか?」
「まあ一言で言えば学園ものです」
「見せて下さい。すごい気になります」
 徹夜で書いた『ただの女子高生』で用いられた滝口と沢井の会話の9割は、僕とストレートの交わした会話を原案としているのだ。しかも沢井はストレートと同じ高校3年生。そんな小説を見せられるわけがない。
「イヤ、大したものじゃないですよ」
 僕は必死に拒否に持って行こうとしたが、
「それでも良いから読んでみたいです。私文章力が無いから参考にしたくて」
 完全に押し切られる形で僕はOKしてしまった。

 本当に大変なことになった。次にストレートがシフトインする5日後の22日までに“小説”を持ってこなければならない。彼女は僕が徹夜で書いていた小説を読みたいだけで、普通ならそのファイルをそのまま印刷すれば終了するが、今回は前述の理由によりそうはいかない。なら会話の部分だけ修正すれば良いのではないか。それも考えたが、あいにく仕事も年末のハードモードに突入しており5日という短期間では不可能だった。
 そこで、過去に作成した他の作品群より選ぶことにした。ブログに掲載した過去作を読み漁る。そして悲しい事実に気付く。

――自身を持って人に見せられる作品が一つも無い――

 僕は学生時代から一体何をやってきたのか。ただの自己満足だったのか。だが悲しみに浸る時間は無かった。過去作から一つを選び、ストレートに見せられるレベルに達するまで推敲しなければならない。その素材はどれにすべきか。『もうひとつの虹』は論外、『桜の舞う頃に・・・』は学園ものではないし、カピバラ絡みの実話は気持ち悪いだけ、書きかけの『COLORS(仮)』を5日で仕上げるのは不可能、ならば残るは一つしかない。


――『タオル』――

(つづく)