78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎佐藤亜美菜

2012-09-28 07:45:25 | もはやチラシの裏レベル
やっと『カピバラ』書き終えた……いかがでしたでしょうか?




本当に書きたいのは最近起きた「大人の事情でうんたん」ってやつなんです(云々じゃね?)。

タイトル未定ですがこれも近日公開(たぶん)。

それを書けばネタは尽きるだろうな……本当に燃え尽きた事件だから。


おそらく今までに無いくらい当方が暴走しています。
「絶望」がここまで人を動かすのかと。




マグロ、ご期待下さい。



◎カピバラルート攻略物語(最終話)

2012-09-28 07:32:18 | ある少女の物語
 壮絶な戦いを繰り広げた6月30日。実は朝10時に出勤した時点で説教を喰らっていた。
「最近、事務所に何時間もこもって何をやっているの?」
 アラフォー女性店長である。ここ数日の僕の異変に数名のスタッフが気付き、店長に報告していたのだ。
「事務所で調べ物するより今のあなたは現場で動きなさいよ」
 防犯ビデオでUとカピバラの動きを研究していた行為そのものを全否定された。映像を見ないと煙草の攻略法は見出せなかった。意味があると思っていたのに、もう二度と出来ない。しかも、駄目出しはそれだけではなかった。
「パンの配置をメモしていたって聞いたけど、無駄な努力だよね。配置は毎週変わるんだから、品出ししながら大体の法則だけ覚えればいいでしょ?」
 数日後にマネージャーからも説教。何も解っていない。僕の為ではなくカピバラがパンを品出しする際の補助ツールとして配置表を作ったのだ。しかも毎週変わるなんて関係ない。単に6月30日を含む週の配置を知りたかっただけなのだ。
「データを取るのも一つの方法ではあるけど、僕はアラフォー店長のその場その場の勘で動く所を見習って欲しいと思うの」
 極めつけはオーナーからの説教。男は論理的、女は感情的に動くと良く言われるが、単にその違いではないか。
 どいつもこいつも何も知らないで言いたい放題。全てはTを怒らせない為に、Tからの信用を取り戻す為にやってきた事なのだ。6月30日が僕にとってどれだけ命をかけた日だったか、一体何人が解っているのだろうか。努力は必ず報われるとは良く言ったものだ。報われるどころか、今の僕は努力そのものを否定されている。

 とはいえ、もう動き方は大方理解できたので、データを取る必要も無くなった。もう何も怖くない。
翌週の土曜、7月7日も午後勤は僕とカピバラ、夕勤にTが来るシフトだった。6月30日と同じように、ほとんどの作業を僕が行った。
「とにかく動きなさい。動けばスタッフはあなたを信用してくれるから」
 店長の説教で発せられた言葉を信じ、僕は慣れないカピバラの分も必死に動いた。結果、センター便の大量の冷やし麺の品出しを少し残してしまった以外は完璧だった。6月30日は時期的に冷やし麺が少なかった事も奇跡だったのだ。
 更に翌週、その翌週と繰り返していくうちに、僕は動き方が解ってきた。あれほど攻略は不可能だと思っていたカピバラとの午後勤。起きる可能性があるから奇跡って言うのだと改めて確信した。



 しかし、あの戦いの日から1ヶ月以上が過ぎ、事件は起きた。
「カピバラに揚げ物しかやらせていないんだって? それじゃ何も覚えないでしょ?」
 土曜の午後勤が軌道に乗ってきた8月中旬。マネージャーからまさかの説教を喰らった。
「それは土曜だけです。日曜は時間的に余裕あるから色々教えています」
「そんなの関係ねえよ。全部カピバラにやらせて動けるようにならないと、彼女が他のスタッフと組んだ時にそのスタッフに迷惑がかかるんだよ」
 下っ端の僕は何をやっても否定される運命なのだ。Tを怒らせないように努力すれば今度はマネージャーが怒る。そもそも動けと言ったのは店長であり、いつかのマネージャー自身も「動きなさい」と確かに言っていた。それがここに来て「全部人にやらせろ」か。こうなったのも全ては僕の気持ちを滅茶苦茶に掻き回したT、彼が発端ではないか。Tだけの為に無償の早出と残業を繰り返してデータを取り、それでも説教を喰らい、あらゆるものを犠牲にしてきたのだ。やってやろうじゃないの。今度はマネージャーの言うとおり、カピバラをちゃんと動かした上で勝利を掴もうじゃないの。Tをギャフンと言わせてやる。

 僕はTを当面のライバルに決めた。試合に勝つのではなく、本当の意味で勝ってやる。

「センター便の検品をやって下さい」
 それ以後、僕は自分が動くよりもカピバラに教えるのをメインにした。
「ああ、違います。検品しながら冷やし麺だけ冷やし麺のコーナーに移動するんです。そうすれば品出しする時に楽でしょ」
 僕の作業さえも何度も止まる。人に教えるほど効率の悪い事は無いと思い知らされた。それでもいつかはカピバラが戦力になってくれる事を祈り、カピバラルートの攻略に努めた。
 同じ女子高生でも、Wに嫌われない事だけを考え何でも僕がやっていたあの頃とは真逆。カピバラに嫌われる覚悟を持ってやらせているが、彼女はとりあえず従順になってくれている。
「多少厳しくしても良いですよ」
 いつかの彼女の言葉を今は信じるしかない。怒りもせず、かといってフォローもせず、褒める回数も減った。余計な感情は抱かず、淡々と仕事を教える事だけに徹した。それが社員とアルバイトの本来の関係なのかもしれない。



 しかし、悲劇は最悪の形で起きた。



「Tさん辞めたんですってね」
 8月25日、Tの突然の辞職。最後に出勤した日に早退し、勤務希望用紙に○を付けていた日を全て×に書き換え、以後一度も姿を見せていないのだという。
 おい、逃げるなよ。まだ勝負は終わっていない。散々人の心を掻き回しておいて、簡単に逃げていく。無断欠勤少女、Wに続きお前もか。お前の為にどれだけ身を削ってきたと思っているのだ。



 2ヶ月弱にも及ぶTとの戦いは、無常にも僕の不戦勝で幕を閉じた。

(Fin.)

◎カピバラルート攻略物語(第3話)

2012-09-28 05:12:48 | ある少女の物語
>燃え尽きた・・・
>見事に燃え尽きた。
>ぶっちゃけ今日(土曜)は勝負の日だったんですよ。
>この日のために準備に準備を重ねてきた。
>あらゆる研究やデータ収集をして15時間拘束の日もあった。
>それがね
>いざ終わって振り返ってみると
>何だったんだろうって・・・
>いつもどおりなんだもん。
>誰も褒めてくれないのは当たり前だとしても
>結局いつもどおり駄目出しを喰らって終了。
>イヤ、それどころか、
>当方の努力と苦労の過程すら否定された。
>誰だよ、「努力は報われる」とか言った某6位のアイドルは。
>報われるどころか努力そのものが否定されてるじゃねえか。

>この詳細を書ける日は来るのだろうか。
>先日みたいな物語三部作を作る気力は今のところ無い。
>気力っつーか、そもそも気持ちが冷めた訳で。
>本当に申し訳ないです。
>てか何時まで起きてるつもりだ・・・



 2012年7月1日、午前2時56分9秒、僕はブログを更新した。

 その17時間前から勝負は始まっていた。

「おはようございます」
 6月30日、午前10時。13時までに来れば良いものを、僕は当然のように早出をした。13時から17時までのカピバラと乗り越える4時間が勝負なのであり、その間に精算などやっている場合ではない。ならばカピバラが来る前に精算作業を終えてしまえば良いのだ。IN打刻するや否や精算作業に取り掛かる。しかし、こんな日に限ってトラブルは起きた。詳細は省くが、精算時のトラブルとしては極めて稀有なケースであり、それをやらかしたスタッフがまた1年以上のベテランUであった事実も奇跡に等しかった。あちこちに電話をかけ慌てながらの対応。予定時刻は大幅にオーバーし、パンの配置整理等やりたかった事をいくつか出来ないまま時刻は12時40分になっていた。ここで本来は13時に行うトイレと外の清掃を前倒しで行う。終わる頃カピバラが出勤し、短針は1を差した。



 240分の戦いが幕を開けた。まず僕はスケジュール通りに競馬新聞の返品作業を行う。16日はカピバラが行っていたが、1分1秒が運命を分ける今日はこれが必然の選択だった。一方カピバラは僕の指示に従い揚げ物を次々と揚げていく。これも15時頃から行う作業を前倒している。新聞の返品を15分で終えた僕はおでんの作成にとりかかる。これはこの週の月曜から新たに午後勤に加えられた作業。事前に知っていたのでスケジュールに組み込んではあったが、予想以上に時間を要した。予定を大幅に超過し14時半過ぎに終了。
 30分以上も押した状態のまま、いよいよ研究の成果を発揮する時が来た。バックヤードから煙草の在庫を持ってきて売場の棚を埋める作業である。最初の奇跡はここで起きた。午前勤のスタッフUがそれをほとんどやってくれていたのだ。おでんで消費したロスタイムをここで解消できた。
 14時45分にはレジ点検を45分も前倒しして行った。効率を考え、夕刊と煙草が納品される前までにこの作業を終わらせたかったのだ。15時に夕刊が納品され、16日はカピバラが品出しをやっていたが今日は僕が行う。終える頃には煙草も納品。煙草の処理を17時の時点で残すとTはボイコットも辞さないと言っている。それを回避する為に僕はただただ闇雲に、大量のカートンを売場の棚に突っ込んでいく。その間カピバラには揚げ物とレジ応対しか任せていない。それだけでもやってくれれば助かるのだ。
 16時に最後の関門、センター便が納品された。カピバラはレジを見つつパンと惣菜の品出し、僕はそれ以外の品出しを、原点に還り「一秒でも早くやろうとする気持ちで」手を動かす。しかし、無常にもレジに並ぶお客様が次第に増えていく。ここで二度目の奇跡が起きた。
「いらっしゃいませー」
 なんとベテランの女性パートが発注業務の為に出勤し、レジを見てくれたのだ。まるで僕等のピンチを察して助けに来てくれたかのように。

 そして17時。センター便の品出しはギリギリに終了し、煙草を売場の棚に入れる作業も無事済ませた。出勤してきたTは結果的に誰にも何も言わなかった。もちろんボイコットも無し。壮絶な戦いの末、クズ社員と新人女子高生の駄目駄目コンビが奇跡を起こした。それはUやパートさん、そして実は朝におでんの具材の仕込みをしてくれたパートさんも居て、本当にたくさんの人の支えがあったからこそ掴んだ勝利だった。
 しかし、得たものと失ったものは比例していた。

(つづく)

◎カピバラルート攻略物語(第2話)

2012-09-22 05:24:56 | ある少女の物語
 翌日、6月25日は夜勤だった。その明けとなる26日朝6時、勤務が終わるや否や僕は事務所の防犯ビデオと睨み合っていた。僅か4日後に控えたカピバラとの午後勤で、やるべき作業を全て終わらせるのが最終目標であり、その達成の為に慣れているスタッフのやり方を盗むという考え方は決して不自然ではなかった。Tは1年以上在籍するベテランスタッフであり、その彼が僕に「出来ていない」との評価を下すのは、出来ているスタッフが居るからこその相対評価。ならば出来ているスタッフの動きを見てみよう。Tと同じく1年以上のベテランであるUと、新人のカピバラが組んだ唯一の日、6月23日の13時から17時までのアーカイブを呼び出す。相方の条件はフェアであり、相方の使い方も含め僕とUの違いが如実に現れるのはこの日しか無いと踏んだ。32倍速で再生しながら、気になった部分のみを1~2倍速で観察し、余す事無くメモをとる。A4用紙3枚にも及んだそのメモをとる最中に僕は鳥肌が立つ事になる。

「 そ の 発 想 は 無 か っ た わ 」

 それは煙草の品出しだった。説明が少し難しいが、煙草を10箱まとめてラッピングしたものを“カートン”という前提を頭に入れて良く読んで欲しい。カートンの状態を脳内で具現化出来ない方は、ググるかコンビニに行って実際に見ていただきたい。煙草はカートンの状態で100~200カートン納品される。カートンを保管する棚は売場とバックヤードの2箇所にあり、納品された煙草は(1)まず売場の保管棚に入れ、売場に入りきらないカートンのみバックヤードに運ばれ、それらを(2)バックヤードの棚に入れる。後者(2)の作業は最悪、夕勤の時間でも可能なのだ。ならば前者(1)、売場の保管棚に入れる作業だけでも午後勤のうちに終わらせれば良いのだ。
 そして重要なのはここから。極端な話だが、その売場の保管棚が15時の時点で満杯だとしよう。その場合、(1)の作業はやりたくても出来ない。入れる場所が無いのだから。つまり、同時刻に納品された煙草はそのまま全部バックヤードに持っていくだけ。これほど早い作業は無い。ならばその状態に少しでも近づけるべく、15時までにバックヤードに保管されたカートンを売場の保管棚へ移動し、売場の保管棚を埋めていけば良いのだ。
 その作業をUは当たり前のようにしていたのだ。無論、売場の棚を100%満杯には出来ないが、(1)の作業時間は大幅に削減されていた。これだけでも鳥肌ものであり、3時間もかけて映像を研究した意味は確かにあった。

 だが時すでに朝9時。ある事情により大幅な早出で前日17時からずっと店にいずっぱりの僕の疲労はピークに達していた。それでもまだ帰れない。今度は売場のカートン保管棚に行き、どこにどの銘柄が入るのかをメモする。それは後にパソコンで綺麗に清書される事となる。それを見ながら煙草の品出しをすれば作業効率は更に上がる事は間違いなかった。10時頃にやっと終わり、まさかの17時間拘束の末に僕は退勤した。

 この日はただの明け休みに過ぎず、翌27日には普通に日勤として勤務せざるを得なかった。この日の夕勤は僕を含め3人。3人も居るなら一人ぐらいデータをとっても構わないだろう。僕はお客様の少ない時間帯を見計らってパンと惣菜の売場へ行き、それぞれの配置をメモした。これはセンター便対策である。16時に納品されるセンター便にはおにぎり、弁当、パン、サンドイッチ、パスタ、惣菜等が含まれ、中でも配置が明確に決められているのはパンと惣菜なのだ。

 この日は勤務が終わっても家に帰らず、職場近くの漫画喫茶で一夜を過ごした。そこでエクセルを開き、今度は揚げ物の管理表をコピーしたものを表にまとめる。過去4回の土曜日(6月2日、9日、16日、23日)の午後勤(13時~17時)において、何時にどの揚げ物をいくつ揚げているのか、その平均的なデータを導き出す事に成功した。そして、今まで取ってきた膨大な量のデータを元に、決戦の日に僕とカピバラがどう動くべきか、ワードでスケジュールを作成した。

 出来る限りの準備はした。全てはTへの迷惑を回避する為に。Tとの戦いに勝つ為に。
 そして、運命の6月30日が幕を開ける。


(つづく)

◎カピバラルート攻略物語(第1話)

2012-09-22 04:07:20 | ある少女の物語
「どちらか好きなほうを選んで下さい」
「じゃあこれで」
 勤務に必須とも言えるボールペンすら持っていない女子高生スタッフの為に、僕は様々な店を渡り歩きプーさん、カピバラさん、センチメンタルサーカスのキャラクターが描かれたボールペンを自腹で購入した。人生で異性にプレゼントなんてした記憶はほぼ無いから本当にこのセンスが正しいのか不安だった。まずWに選ばせ、彼女はプーさんを選んだ。残る2本からKが選んだのはカピバラさんだった。
 これは、今や女子高生スタッフ唯一の在籍者であるK改め“カピバラ”を育てる立場になってしまった僕と、ある男子大学生スタッフとの戦いの物語である。



 事の始まりは2012年6月16日まで遡る。この日は土曜日で、カピバラは“午後勤”と呼ばれる13時から17時までの勤務だった。僕は13時から22までで、17時までは5月に入ったばかりのカピバラと2人のみで乗り越えなければならない。しかも、社員である僕は午後勤の仕事と並行して精算作業を15時までに終わらせる義務があった。12時30分に出勤するや否や、2台のレジを1台ずつ締める作業に入る。12時50分にカピバラも出勤し、まずはトイレ清掃と店の外の清掃をやって貰う。レジ締めを終えた僕はバックヤードのPCを使って精算作業に入り、その間カピバラはレジ応対の傍らで前日納品された競馬新聞の返品作業をする。僕は防犯ビデオを見つつお客様が込んできたら売場に出てもう1台のレジで応対に入る。つまり、ただでさえ時間のかかる精算を何度も中断させなければならないのだ。カピバラも慣れていない上にレジをやりつつなので返品作業に多大な時間を要しており、通常なら5分もあれば終わる作業を40分以上もかかっていた。
 やっとの思いで精算作業を終えると時すでに14時半。レジ横のホッターの揚げ物商品がほとんど無くなっていた。カピバラに指示を出しチキンやフライドポテトを揚げてもらうも、お客様もそれなりに訪れる為上手く進まない。短針は3の方向を差し、夕刊及び競馬新聞と煙草がほぼ同時に納品される。新聞の品出しはカピバラに任せ、僕は150カートンもの煙草をレジの真後ろ、単品売場の上にあるカートン保管棚に置いていく。これが地味に時間を要する。半分も終わらないまま15時半にレジ点検を始める必要があった。これは2台あるレジを2人同時に行う。15時45分に廃棄商品の撤去、16時にはセンター便が納品され息つく暇もない。夕方に向けてお客様も増えていく為、カピバラはレジ応対優先で、大量にあるセンター便の品出しは僕一人で行う。といっても精算時と同様、混雑時は僕もレジフォローに入らざるを得なくなり、品出しは思うように進まない。全ての作業がお客様の為に存在するのに、そのお客様を優先する事でいかなる作業も中断されるパラドックスに悩まされ、気が付くと17時を回ってしまった。

 ESを維持する為にも無駄な残業をさせないのが僕のスタンス。すぐにカピバラを退勤させ、入れ替わりで2人の男性スタッフが顔を出す。そのうちの一人が、後に宿命のライバルと化す大学生のTだった。
 17時の時点では悲惨な状況だった。センター便の品出しがほとんど終わっていない上に、煙草の品出しもほとんど手付かず状態。それは僕とカピバラ、新規スタッフ同士の2人では止むを得ない事だと思っていた。しかし、
「T君がアンタに怒っていたよ」
 それはマネージャーの言葉だった。
「センター便が終わっていない、煙草も手をつけていない、揚げ物もすっからかん、割り箸やストローの補充も出来ていない。何一つ出来ていないから最初からやる気を無くしていたって」
 Tは僕に直接怒れば済む事を、わざわざマネージャーに報告していた。故にTの感情にすら気付かなかった。
「アンタもう入社して2ヶ月以上、この店に来てからも2ヶ月近くいるんでしょ? もう新人だからじゃ済まされないんだからね」
 カピバラはともかく、僕はいつまでも新人気分で居る訳にはいかなかった。仕事を完璧に覚えるまで3年はかかる業種もたくさんある中で、コンビニは僅か数ヶ月でマスターしなければならないのだと悟った。現に何人かの社員は入社2~3ヶ月で店長やマネージャーに昇進している。大器晩成型の僕には辛い現実だった。もう少し待ってくれ。今の僕にはキャパオーバーだ。



 そんな弱音を吐いている場合でも無い事に気付かされたのは1週間後の事だった。6月23日、僕は夜勤の明け休みとはいえお休みを頂いた。接客業で土曜に休めるなんて奇跡に等しかったが、僕を絶望の淵へ突き落とす奇跡も同時に起きてしまった。この日の午後勤はカピバラと、僕の代打としてUという大学生スタッフが勤めていた。
 翌日、24日の朝に僕が出勤すると、またしてもマネージャーの怒号が飛んだ。
「Uから聞いたけど、カピバラが仕事何も出来ていなかったって。宅急便も検品も揚げ物も。アンタ今まで彼女に何を教えてきたの?」
 ちょ待てよ。宅急便は何度も教えてきたし、検品も一回は教えている。揚げ物なんて先週の土日にやらせまくったはず。だが、問題はそこではなかった。
「で、それを聞いたTがカンカンに怒っていたよ」
 何故Tまで怒るのだ。13時から17時までカピバラと一緒に組んでいたのはUであり、Tは17時から21時までの夕勤で、マネージャーは21時から。この3人が同じ日にその場に居ない人間に対して怒りを露にしたのだ。一体どういう事なのか。
「今のアンタ、Tからの信頼はゼロよ、ゼロ。俺にいくら迷惑かけてもアルバイトだけは困らせるなよ」
 冷静に考えると簡単な話だった。UとTは仲が良く、両者は共にマネージャーのお気に入り。Uの怒りはTの怒りに繋がり、その現状をマネージャーは許せなかったのだ。
「で、来週の土曜だけど」
 この業界に限らずだと思うが、一週間は月曜から始まる。故に“来週の土曜”とは6日後の30日を差す。
「午後勤がアンタとカピバラ、夕勤がアンタとT。先週みたいに17時の時点でやるべき作業が終わっていなければTは何もせず帰るって。そうなったら夕勤はアンタ一人だけになるよ。いいか、本当に帰るって言っていたからな」
 この日から、僕の壮絶な戦いは始まった。


(つづく)

◎北乃きい

2012-09-18 09:56:28 | 思ったことそのまま
今までの努力を無駄にしたくない

ただそれだけだった。



一つの大きな絶望が、当方をここまで動かした。

絶望のままで終わらせたくなかったから。





人の心を散々掻き回しておいて

簡単に突き落とす



今年だけで何人目だよ……




近々詳しくお伝えできる日が来ると思う。

◎佐々木希

2012-09-17 06:33:22 | 思ったことそのまま
先日の記事、なんか間違ってました。


努力が何の為にあるのかを考える前に、まずは努力をしなければならない。


認められるまで、せめて怒られなくなるまで、大きなミスがなくなるまで努力が出来れば、
努力の意味は見えてくると信じるしかない。



何をしても褒められないのは辛いけど、
大きなミスがそれを掻き消しているからであり、
仕方ないといえば仕方ない。



「大人の事情」で味わった絶望を希望に変えるべく、
明日の朝、大勝負に出ます。

◎大島優子

2012-09-15 10:15:18 | 思ったことそのまま
「大人の事情」ほど嫌な響きは無い。

大人の事情に振り回されて嫌な事ばかり起きる。

微かな希望さえも失われる。

努力は報われないと思い知らされる。

そりゃそうだ。努力と大人の事情に相関関係など無いのだから。



昨日の努力も
今日の努力も
明日の努力も
何の為にするのだろうか。



◎期待を越えたい物語(後編)

2012-09-06 09:19:37 | ある少女の物語
 8月29日、僕は21時半にはT店に出勤していた。24時までに来れば良いものを普段は23時に早出していたが、この日は更に早く出向いた。防犯ビデオに記録された前週金曜の夜勤の映像を観る為である。
『月・水が僕さんと一緒で、金曜だけK君と一緒ですね』
 そう、毎週金曜はKSMとKの2人で夜勤。その2人がどんな感じで動いているのかをこの目で確認したかったのだ。
 週2ペースで2年は勤務しているという大学院生のアルバイトKもベテランの内に入るだろう。ならば辛いほうの「品出し担当」を選択しているはずだと思ったが、なんとここでもKSMが「品出し」をしておりKは「洗い物担当」になっていた。しかも雑誌の品出しはKSMが行っていた。僕と違い24時ギリギリに出勤するKに雑誌を処理する余裕は残されていなかったのだ。
『本来は私の仕事なんですから』
 その言葉は本当だった。とは言え、面倒なカップ麺の品出しは愚か、極寒のウォークイン作業までやらせておいて雑誌の処理まで女性に投げるとは、Kは給料泥棒以前に男としてどうなのか。
 映像の研究を程々に済ませた僕は22時前には仕事に取り掛かった。雑誌が納品される22時半より前に返品する雑誌を下げる作業を先に行いたかったのだ。そして下げた雑誌をマットと呼ばれる機会で返品処理をし、段ボールに詰めた。本来なら明け方の終了間際に行う作業である。極め付けは22時半に雑誌が納品されるや否や即品出し。2日前は2時半にKSMに手伝わせてしまった作業をこの時点で済ませた。これで前回の悪夢を繰り返す心配は無いし、雑誌の処理をしているだけでも僕はKに勝っている、そう自負したかった。しかし、
「お疲れ様でーす」
 24時半、ある2人組の男が来店。一人は紛れも無く映像に出ていたKだった。KSMは作業をしつつもKと雑談をしていた。彼女の満面の笑顔を見た僕は愕然となった。
「ああ、あの2人とはプライベートで良く飲んだりしているんですよ」
 僕がどんなにKSMの負担を減らす事を考えて仕事をしても、彼女と仲が良いのはそんな事を微塵も考えていないKのほうである現実。
(何だよ……あんなに仲が良いなら付き合っちゃえば良いのに)
 しかも僕は頑張っているというよりはただ早出をしてその分多く仕事をしているだけ。早出とは月給完全固定で時間外手当も出ない社員の僕にしか出来ない技であり(人件費に変動が無いので会社への迷惑も皆無)、実は1分単位で給料が発生する時給制のアルバイトに1時間や2時間の早出は当然許されていない。その時点でアンフェアであり、それで本当に勝っていると言えるのだろうか。プライベートで負けているのだから、せめて仕事ではKに圧勝したい。早出のハンデを差し引いても僕のほうが役に立っていると思われたい。KSMの期待を遥かに越える仕事をしたい。その為には今日のように雑誌を処理するだけでは駄目だと悟った。では何をすれば良いのか。どこまで頑張れば仕事に“取り組んだ”事になるのか。



 考えれば考えるほど、思考回路が原点へと戻っていく。大学を卒業してからの4年半は、仕事とは何かを悩み、職場の人間関係に苦しむ葛藤の歴史だった。建設業、新聞配達、鳶職、倉庫内作業。何をやっても駄目な僕が最後に行き着いた先が接客業だった。前職となる漫画喫茶の姉妹店舗でその接客さえも良い評価を貰える事は無かった。それでもお客様に褒められる事も片手で数える程度はあり、接客を好きになっていく自分がいた。しかし、今は本当に好きなのかと疑問符を投げている。猛暑や極寒の外で仕事をしたくない、豪雨の中バイクを走らせたくない、危険の多い場所で上司の暴力まで存在する仕事は嫌だし、かといってFラン大卒の僕に学歴が絡む職業は不可能、となると消去法で接客しか残されていなかった、ただそれだけなのではないか。今の段階でその疑問に答えは見出せない。K店で毎日のように怒られている現実が更に迷わせる。怒られる度に僕は接客に向いていないのではないかと思ってしまうし、Wの件も含め既に職場の何人かに嫌われている可能性も否定できない。しかし、ここまで職を転々としておいて簡単に辞める訳にもいかない。
 答えを出せないのなら、せめて……。

――笑顔――

 その2文字が僕の脳裏をよぎった。前職で27歳のマネージャーを好きになった理由は彼女の笑顔だった。僕がヘタレでいるだけで彼女は笑ってくれたが、今KSMを笑わせているのはKのコミュニケーション能力。彼に勝つには、今回ばかりはヘタレキャラで笑わせる訳にはいかない。他の方法で、かつ僕の力でKSMを笑顔にする事、それが期待を越える事なのではないか。確証は持てないが、どうせやってみないと解らないのだ。
 次こそ見せてやる、ちっぽけな僕にできることのすべてを。



 9月5日、24時。
「おはようございまーす」
「おはようございます。今、直前にカップ麺とカップ味噌汁と無印良品の在庫の品出しをしておいたので」
「おーー、ありがとうございます(笑)」
「納品されてきたら在庫を気にせずどんどん品出しして下さい」

 その、ほんの一瞬の、ささやかな笑顔を見るだけの為に、僕は21時半に早出して色々と準備を進めてきた。まずは前回同様雑誌の処理をし、それを終えてからKSMが出勤する24時までに、これも本来はKSMの役目であるカップ麺の在庫の品出しを僕が代わりに行ったのだ。
「いつもありがとうございます、何でもやってくれて」
 何でもやってくれる人――自店では怒られてばかりの屑社員をこんな風に思ってくれるだけで救われる。それがKSMの期待を越えているのかどうかは解らない。ただ、彼女を笑顔にした事実だけは確かに残った。



 Iのリハビリが順調に進んでいるという情報が入った。彼が職場に復帰すればT店における僕の役目は終わる。近いうちにKSMとの別れも訪れるだろう。あと何回会えるかさえ不明だが、残りの回数を、KSMと居られる限られた時間を大事にしたい。僕は顔が格好良い訳ではないし、根暗で見た目も暗いし、笑顔も作れないし、コミュニケーション能力も乏しい。だからこそ動いて、汗をかいて動き回って相手の期待を越えるしかない。
 それが、誰かの笑顔に繋がる事を信じて。


(Fin.)