78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎『ラブライブ!サンシャイン!!』最終話に幻滅……テーマは「町民の温情」のみに絞るべきだった

2016-09-25 22:27:59 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 当方含め多くの人が期待していたアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』は、2016年9月24日、とても良いとは言えない最終話を迎え、カタルシスも得られなかった。脚本の粗を探せばキリが無く、全13話を通して伝えたかったこと、一貫するテーマすら見えなかった。

 もっとも6話までの完成度は高かった。“アイドル”と“町民”が密に繋がることで輝ける「新たなスクールアイドルの形」をテーマとして体現していたからである。例えば3話のファーストライブは「町の人たちの善意があっての成功」であり、その善意は6話のPV撮影において大きく活かされることとなる。

「皆さんに協力してほしいことがあります!」

 高海千歌の台詞にイントロが重なり、PVがスタート。生徒たちや千歌の姉の協力により250個以上のランタンを集め、夜に町民が総出で「Aqours」の人文字を描き、灯したランタンを一斉に飛ばす。この壮大な映像を実現させた町民の力は半端なものではないし、それらを咄嗟の思いつきで纏め上げた千歌のリーダー力は先代の高坂穂乃果にも引けをとらないのではないか。

 しかし、物語前半で積み上げてきたそのテーマは8話で崩れる。東京のアイドルイベントで「観客の支持0票」という初めての挫折。それでも千歌は「ゼロを1に出来るかもしれない」ことを理由に活動存続を決意する。本当はあのPVを完成させた時点で凄いのだが、ラブライブ本選は東京の観客の支持に左右されるので、その意味ではゼロということになる。考えを改めたAqoursは11話の予備予選を町民の助けを借りずに突破し、12話の海岸で「ゼロから1へ、Aqoursサンシャイン!!」と叫ぶ9人はそれだけで輝きに満ちていた。

 この経緯により物語後半のメインテーマとなりつつある「ゼロから1へ」だが、肝心の最終話で矛盾が発生する。東海地区予選では4分以上にも及ぶ過剰な演技の芝居を経て曲を披露するミュージカル形式をとってしまった。しかも劇中「入学希望者はゼロ」と明言したことが同情を誘っているようにも捉えられ、楽曲のパフォーマンスのみで輝こうとしない逃げの姿勢には幻滅した。そして問題は廃校阻止を願う生徒たちと千歌の家族が総出で応援していたこと。

「私たちはこの町とこの学校とこの仲間と一緒に私たちだけの道を歩こう」

 劇中にこの台詞が使われたことで、結局町民の温情なしには輝けないことを認めてしまう。8話から12話まで積み上げてきたものは何だったのか。このままではラブライブ本選に出場できたとしても、東京の観客の支持を得られるかは疑問である。

 全編にわたり「アイドルと町民の密な繋がり」を一貫して描写すれば無印『ラブライブ!』との差別化にも成功したはずなのに、8話以降のブレにより中途半端な感じになってしまったのがとても勿体無い。もし2期が実現できたら町民の温情をより一層強調し名誉挽回していただきたい。

(#15:1195字)

◎『聲の形』は「いじめ問題」の本質に向き合った稀有な作品

2016-09-24 14:15:47 | ほぼ週刊サンマイ新聞
『君の名は。』の感動からまだ一ヶ月も経っていないというのに、当方はまたしてもスクリーンで泣きそうになるほどのカタルシスを得るのだった。京都アニメーションの最新作となるアニメ映画『聲の形』である。まさかの興収100億円を突破し絶賛の声が多い『君の~』に比べ、こちらは賛否両論になると思う。だがそのどちらかを決めるのはあなた自身であり、一部の批判意見に惑わされず一度その目でご覧いただきたい。
 当方は原作未読なのでこの映画を100%理解したとは言い切れないが、それでも大いに感動したことは事実だし、3つの点において正面から向き合ったことを賞賛したい。

(以下ネタバレあり)

 1点目は「いじめ問題」である。この手のものを取り扱った作品は『ライフ』など数多くあるが、『聲の形』はその本質に向き合った稀有な作品であると言いたい。中学時代にいじめられていた当方が今になって思うのは、確かに悪いのは加害者だが、被害者もいじめの原因を客観的に考え、改善しないことにはいつまで経っても成長できず、どこへ行ってもいじめられる可能性があるということ。そしてそれを怠ったまま高校生になってしまったのが西宮硝子なのだ。彼女は小学時代、聴覚障害であるが故にコミュニケーションを上手く取れず、石田将也を始めとするクラスメイトからいじめを受けるが、上手く言えないながらも「ごめんなさい」と謝るばかりで、自身のコミュ力という原因に向き合おうとしない。最終的には将也と取っ組み合いの喧嘩になり再び転校することに。補聴器を破損するなど最も過酷ないじめを犯した将也は、今度は自身がいじめられる立場になり、こちらも成長できないまま高校生になってしまう。教室では孤立しクラスメイトの顔を見ない、話を聞かない、あえて耳(心)を塞ぎ“聞こえない”ようにしていたという意味では西宮に似た境遇とも言える。その二人が笑い合い、涙し、時には家族や友人までも巻き込みぶつかり合いながらも心を開いていく物語なのである。

 そして2点目は「手話の描写」と向き合ったこと。元々京アニはクオリティーの高さに定評があったが、リソースを大きく割くと言われているこの難解なシーンを丁寧に描いてくれたことでまた一つ伝説を作った。締切が12回も訪れる1クールのTVアニメではなく、短い尺に多大な準備時間を費やせる劇場版という選択にしたのも正解だった。もちろん他にも喧嘩シーンや背景など作画における見所は細部にわたり数え切れない。3点目は「発音」。聴覚障害という難しい役を指導した方々と、それを受けて見事に演じきった早見沙織に賛辞を送りたい。

 いじめられたトラウマといじめた後悔、それぞれが消せない過去と真剣に向き合いながら成長するという新たな切り口で「いじめ問題」の本質を描いた『聲の形』。いつの時代もいじめが存在するこの国だからこそ、永遠に語り継がれる作品であって欲しい。

(#14:1193字)

◎『ラブライブ!サンシャイン!!』結局曜と梨子どちらが勝ったのか検証

2016-09-14 21:41:44 | ほぼ週刊サンマイ新聞
 11話まで放映され盛り上がりを見せているアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』。ネット上では主人公・高海千歌とその幼馴染・渡辺曜、そして転校生・桜内梨子の三者の関係性についての議論が絶えない。全員が女子とは言え、主人公に想いを寄せる幼馴染と転校生という、学園ラブコメにありがちな三角関係を成立させているのだ。その模様は11話で綺麗なハッピーエンドを迎えたかのように描かれたが、本当にそうなのか。戦いを征したのはどちらかを検証してみた。

<1話>
 千歌は梨子と出会った瞬間(それが全ての始まりだった)とモノローグが入り「一緒にスクールアイドル始めませんか」と明確に誘っている。一方曜は誘われてはいない。梨子一勝。

<2話>
 千歌と梨子は自宅が隣同士であることが判明。そしてピアノを弾ける梨子が作曲、千歌は作詞に挑戦することも決まり、以後曲作りにおいても両者は深く関わることとなる。梨子二勝。

<3話>
 千歌の姉に「飽きっぽいんじゃなくて中途半端が嫌いなんですよ。やる時はちゃんとやらないと気が済まないっていうか」と漏らす曜。身内よりも千歌を知り尽くす幼馴染。初白星だ曜。

<6話>
 千歌は梨子と歩いて帰る。自宅が隣なのだから当然である。一方曜は津島善子とバスで……梨子三勝。

<7話>
 東京の旅館での夜、梨子は千歌だけに自らの過去を話す。梨子四勝。

<8話>
 東京のイベントで惨敗したAqours。曜は「悔しくないの?」と千歌に問いかけるも答えを聞けず。翌朝梨子の前で「悔しいじゃん!」と初めて涙と共に本音を漏らす。そして後ろから優しく抱きしめる梨子。サンシャイン屈指の名シーンで、梨子大きくリード。

<10話>
 千歌に抱きついて「ホント、変な人……大好きだよ」。他でもない梨子だった。

<11話>
「千歌ちゃん、もしかして私と二人は嫌だったのかなって。私、要領良いって思われていることが多くて。だから、そういう子と一緒にってやりにくいのかなって」と、鞠利の前で本音を漏らす曜。「千歌っちのことが大好きなのでしょう?」と、鞠利の口からとは言えこちらも「大好き」であることが明かされる。そして曜はついに千歌に抱きつき、更に絆を深めた。予備予選は曜千歌のダブルセンターによって歌われ、曜の逆転勝利でめでたしめでたし……



 否、ちょっと待て。曜はピアノコンクールに出ることとなった梨子の代役でしかない。ということは、本来は千歌梨子のダブルセンターとして作られた曲だった。



曜「千歌ちゃんにとって輝くということは自分一人じゃなくて誰かと手を取り合い皆で一緒に輝くことなんだよね」

梨子「私や曜ちゃんや普通の皆が集まって、一人じゃとても作れない大きな輝きを作る」



 それが千歌の出した答え。千歌にとってはどちらも大好きで、そもそもAqoursの皆が大好きで、一人を選ぶことなんて出来るわけがなかったのだ。

 こうして千歌を巡る熱き戦いは引き分けで幕を閉じた。

(#13:1199字)

◎『君の名は。』上映中残念なリアクションをする観客

2016-09-13 19:19:40 | ほぼ週刊サンマイ新聞
『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などで知られるアニメーション監督・新海誠がまたしても名作を生み出した。2016年8月27日に公開されてから3週間未満にして既に興行収入62億円を突破してしまったアニメ映画『君の名は。』である。オタクはもちろん普段アニメを観ない一般人・芸能人、更には秋元康やジブリの鈴木敏夫など業界人までもが絶賛する異例の作品を、当方は9月12日のレイトショーにてようやく鑑賞することが出来た。しかし、そこでの一部女性客のあるリアクションに幻滅してしまったのだ。

 これは東京で暮らす男子高校生・立花瀧と、飛騨の山奥の糸守町に住む女子高生・宮水三葉の身体が入れ替わり、お互い会うことは出来ないながらもその生活を何とか乗り越えていく物語。当方はこの作品のレビューをするつもりは無い。とにかく観ろ、観れば分かるとしか言いようが無いので、内容が気になる方はここから先を読まず、予告編や他者のレビューなど他の予備知識も一切入れずに真っ白な状態で今すぐ最寄りの劇場に足を運んでいただきたい。



 問題の女性客のリアクションとは、後半のとても真面目かつ感動できるシーンで笑い声が聞こえたことである。
 この物語の主軸は瀧の奮闘にある。まず入れ替わりが出来なくなった数週間後に三葉に会いに行こうと思い立ち、三葉になっている時の記憶をもとに糸守の風景を鮮明に描き、その絵を頼りに三葉の所在をバイト仲間と共に捜索する。そこで無慈悲な現実を知ることになるが、それでも三葉のことが諦めきれずに山上の神社の御神体へ向かい、三葉の口噛み酒を飲む。そこからである。瀧の目前に三葉の生い立ちの数々が走馬灯のように現れ、目を覚ますと三葉の部屋で彼女の身体になっていたのだ。
 自身のおっぱいを触り、入れ替わりが出来たことを確信した瀧は涙を流し、妹に呆れられる訳だが、ここで女性客の笑いが起きていたのだ。それも一人のみならず、おそらく10人以上は居たのではないか。確かに物語の前半で三葉と入れ替わった瀧が興味深くおっぱいを触るシーンがギャグとなり、以後数回に渡り天丼もされてはいたが、後半のこのシーンは、このあと三葉の身体の瀧が彗星の墜落から住民を、そして三葉を守る盛大な作戦を遂行し興奮不可避のクライマックスに向かう為の大事な“キッカケ”の場面であり、笑える訳が無いのだ。例えるなら『クレヨンしんちゃん』の映画『嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』で、野原ひろしが自身の靴下の臭いを嗅ぐことで自らの過去を思い出す感動の名シーンで「靴下を嗅ぐ」行為のみを切り取って爆笑する人が果たして居るだろうか。

 前述の場面で笑った全ての女性にお願いがある。この作品をSNSで褒めたり周囲の人に勧めるのはむしろ積極的に行うべきだが、その際は是非とも考察サイトを熟読し正しい解釈をした上で得た誠実な感想を正しい日本語で正確に伝えていただきたい。

(#12:1197字)