78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎仕事上のコミュニケーションを今更頑張った話(第1話)

2017-11-26 10:14:17 | 東京シャープストーリー

 ブログにも公開していない『プライベート日記』を、2017年10月1日より綴っている。PC・スマホ共に閲覧可能な『ジョルテ』を使用し、隙あらば読み返しているが、大半が仕事の話になっていることに驚かされる。特に悩みとして良く書かれることが2点あり、1点目は「作業スピードの遅さ」である。


【10月16日の日記(抜粋)】
仕事は全体的に上手くいかなかった。POPの仕分けで混乱が発生し、1時間以上の残業になってしまった。


 作業時間の管理が厳しい今の会社で必要以上の残業は許されない。逆を言えば月の残業を20時間以内に抑えられるのだから、それは本来、喜ぶべきことであった。しかし、9年半にも及ぶ仕事人生で作業スピードや効率性を意識してこなかった僕にとって、それは無理難題でもあるのだった。


 その「作業スピード」「効率性」を常に意識し、見習いたいキャリアウーマンが居る。僕と同じグロサリー部門に所属する女性スタッフ・シャープ(仮名)である。


【10月26日の日記(抜粋)】
シャープさんの作業量はいつも多いと感じている。それでも効率的な順序で、かつお客様の為になる作業を優先して行う。その両方をこなせる人を自分はあまり知らない。


【10月30日の日記(抜粋)】
仕事は棚卸だった。シャープさんは9月(の棚卸)の時よりも微妙に作業手順や指示が異なっており、おそらくは頭の中で少しでも効率良く進める方法を考えながら改良している。


 僕が彼女をキャリアウーマンだと思う理由は、効率的な仕事ぶりだけではない。何よりも「目の付け所がシャープ」だということ。


【10月22日の日記(抜粋)】
POP印刷用のプリンターの紙詰まりを起こすトラブルを起こしてしまった。(中略)シャープさんの積極性に驚かされた。自ら機械の中を見てドラムを取り出してみたり、かます紙を差し出したり、「ピンセットはある?」「回しますか?」など進んで提案したり、リスクの高い分解さえもしようとした。しかも女性でこのレベルである。この仕事を何年続けようがどれだけ成長しようが、根本の部分でこの人には敵わないのだろうなと痛感させられた。


 この物語は、尊敬するシャープという女性を通して、31年間逃げ続けてきた“コミュニケーション”を真剣に考え、向き合った男の記録である。


<嫌われたくない>

 ブログを開設した社会人一年目の頃は22歳だった僕も、とうとう31歳というシャレにならない年齢を迎えてしまっていた。freebirdなどの若い女性から見れば僕はもうオッサンであり、常に嫌われる可能性を考えている。だがせめてシャープには嫌われたくない。その為に僕に出来ることは何か。


【10月18日の日記(抜粋)】
16時30分の時点でシャープさんの作業に未処理があり、手伝わずにはいられなかった。笑顔で感謝されたが、自分はまたしても1時間以上の残業、今月の残業時間基準超過の可能性が出てきた


 自分を犠牲にしてでもシャープの助けになること。そう思っていたが、それは正しくもあり間違いでもあった。


<任せるというコミュニケーション>

 10月26日。この日から日記には『コミュニケーション』というもう一つの悩みが頻繁に綴られることになる。きっかけは本部職員のアドバイスだった。

「早く上がるコツは、社員は作業をしない。スタッフに任せちゃえば良い

 つまり、残業しないようにするには、自分の作業の一部をスタッフにお願いすれば良いということ。むしろ、スタッフに指示を出すのも社員の仕事である。しかし、社員といえども入社3ヶ月未満の新人で、時にはスタッフの作業を手伝うことさえしていた僕は、とても悩んだ。あらかじめ部門マネージャーが各スタッフに作業を細かく割り当て、日ごとに異なる『作業スケジュール表』を作成しており、それをもとにスタッフは時間内に作業を完遂しようと必死に頑張っている。そこへ更に僕から作業を依頼することがどれほど難しいことか。

 脳内に浮かび上がるキーワードは『コミュニケーション』だった。日頃からスタッフとの円滑なコミュニケーションを築いていれば、作業の一つや二つ、お願いすることなど造作も無いだろう。それを怠ってきた代償は大きい。


【10月26日の日記(抜粋)】
20年選手(男性スタッフ)には「この作業ならお願いすればやってくれるだろうな」というのが少しずつ分かってきたが、シャープさんにはまだ頼みづらい部分がある。そもそも男性と女性では体力や体格差、考え方などが全くと言って良いほど異なり、仕事上のパートナーとして相互を理解しながら付き合うことは容易ではないと思う。


 そして、ここに来てコンビニ勤務時代の、敵対していたはずの不倫男の言葉さえも頭を過ぎる。

(不倫男)「厳しいっていうのは、ちゃんとコミュニケーションを取った上で厳しくするものでしょ! あなたはコミュニケーションも取らずに厳しく言うから駄目なんですよ」

 当時は不倫男の逆ギレということで片付けていたが、発言自体は的確な部分もあった。そもそも懇親会に参加者が集まらなかったのは僕に人望が無かったから。コミュニケーションから逃げていると、やがて取り返しのつかない事態に発展するかもしれない。それは今のスーパー業界でも例外ではないだろう。


<謎多き女・シャープ>

 コミュニケーション、即ちスタッフとの会話を増やす。そんなことが僕に出来るのだろうか。それ以前に、業務連絡を人に伝えることすら上手くいかないことが何度もあった。


【10月6日の日記(抜粋)】
午後にはお客様から拾得物に関する連絡があり、マニュアルどおりに対処したつもりが上手くいかなかった。自分の言いたいことを上手く人に伝えられない。


【10月13日の日記(抜粋)】
午後は納品伝票に関するスタッフへの伝達をしなければならなかった。最終的に相手に納得していただいたものの、言葉や配慮が足りない部分もあり、やはり伝達の難しさを感じた。


 そもそも人間は分かり合えない生き物だと思っている。私生活でも失言が多い。この世の会話が全てメールになれば良いのにとさえ思うこともある。
 それでもスタッフと、シャープと会話を交わすことが出来るのか。僕は彼女のことをほとんど知らず、何を考えているのかも分からない。それ故、失言で彼女を傷つけてしまうかもしれない。今までの人生がそうであったように。


【10月22日の日記(抜粋)】
シャープさんのことは地元でスーパーのレジを長年経験してきたことくらいしか知らない。何歳なのか? 家族構成は? どんな社会経験を積み重ねたらそんなに効率的な仕事ぶりが可能になるのか? キャリアウーマンに至る過程や人物像をもっと知りたくなった。


 そもそも“地元”がどこなのかさえも不明。もっとシャープのことを知りたい。このまま謎にしたくない。10月27日、僕は思わず部門マネージャーに相談してしまうのだった。


(僕のLINE・抜粋)『本部職員に「時にはスタッフさんに作業を任せることも大事」との旨を言われました。しかし、例えば20年選手さんには「このタイミングでこの作業をお願いすればやってもらえるだろうな」というのは少しずつ分かってきましたが、シャープさんにはまだそれがありません。何を考え、どんな気持ちでいるのかもほとんど読めません。

 また、勤務能力が異常に高い、社員でない女性にしては勤務時間が長い(日曜もフルタイムで働き年間103万円を超過している)など謎が多すぎます。一体何者なのか……大体の年齢や家族構成、スーパー以外の職歴など、お分かりでしょうか? 自分で聞ければ良いのですが、女性に対しどこまで深く聞いて良いものか分からず、力不足ですみません』


 文章なら言いたいことを正確に伝えられる。これでシャープのことを少しでも知れるかもしれない。もっと早く聞いておけば良かった。そう思っていた。


(マネージャーからのLINE・抜粋)『確かにスタッフさんに仕事をやってもらうことは大切です。それに伴い、相手のことを知ろうとすることも良いことだと思います。女性なので躊躇してしまう気持ちもわかりますが、家族構成や今までやってきたことくらいは聞いても問題ないと思います(年齢はタイミングを見て……笑)。自分から聞くことが、相手とのコミュニケーションの一歩です。教えることも出来ますが、ここは自分で聞いてみましょう』


 現実はこうである。その回答は必然だった。マネージャーがコミュ力を絞り出しやっとこさ聞き出した情報をいとも簡単に得ようとした自分が愚かだった。
 それでもこの文章だけでいくつかのヒントは見えた。家族構成を聞いても問題ないとするなら、離婚経験があるなどの悲しい過去は持っていないということ。既婚で順風満帆な生活を送っているか、そもそも結婚経験の無い独身か、いずれかだろう(独身の可能性を捨てきれない理由として前述の通り年間103万円(扶養の範囲内)を超過していることが挙げられる)。職歴もウォーターのようにやましいことをしてきた過去は無いということだ。


(僕)『早速の返信ありがとうございます。補足すると、少なくともコンビニ時代にここまで能力の高い女性は社員を除き居ませんでした。リソースを仕事と家庭に分散し、勤務能力や時間に限界のある人が多く(※注釈後述)、それゆえ苦労もしてきました……』

(マネージャー)『なるほど、そうでしたか。確かにシャープさんは能力高いと思います。そういった僕さんが素直に思ったことも会話の糸口になると思うので、試してみてください』


 貴重なアドバイスではあったが、そんな簡単にコミュニケーション能力を上げられるものではない。結局僕は、シャープについて知ることを一旦は諦めた。


【10月27日の日記(抜粋)】
謎多きシャープさんは自分がコンビニ時代に見てきた女性スタッフたちとは境遇も乗り越えてきたものも違う、今はそれだけで良いではないか。


 転機はその僅か3日後だった。

(つづく)



※注釈:コンビニ時代、家庭の為に土日、特に日曜を勤務不可、または4時間のみ勤務可能とする女性スタッフが多く、日曜は高確率で社員の長時間勤務が強いられていた。土日にフルタイム(8時間)の勤務が可能なシャープは女性スタッフとしては稀有な存在である。既婚かどうかはさておき、少なくとも子供は居ないだろう。



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