78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎桜の舞う頃に・・・(最終話)

2009-02-21 19:57:04 | ある少女の物語
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第1話  第2話
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 なんと少女は今朝、実家の自分の部屋で精神安定剤を100錠も服用して倒れていたのだ。その3時間後に発見した母親が慌てて119番と会社にいる父親に電話をかけたのだ。
「お前が自殺に追い込ませたんだろ!? そうなんだろっ!?」
「イヤ、ちょっと待って下さい。そもそも結衣さんは末期のがんで」
「ハァ!? 何を言ってるんだ!」
「イヤ、結衣さん、末期の肝臓がんって言ってましたよ」
「んなわけねーだろボケがあ!」
 そう言うと父親は僕を殴った。もう何がなんだか解らなかった。まさか、がんは嘘だったのか?
「あなた、待って! その男は何も悪くないわ!」
 そこへ少女の母親らしき女性が現れた。
「これを見て! 結衣の部屋から見つかったものよ」
 母親は、父親と僕に一枚の手紙を見せた。



 両親へ

 遺書なんて重々しいものはとても書けないので、手紙という形で書かせていただきます。
 最近、胃の痛みが激しいです。しょっちゅう吐き気もします。食欲もあまり出ません。
 大学の友達もいつからか連絡をくれなくなって寂しいです。
 講義にもついていけず、単位は足りず、卒論も未完成なので留年は確定です。
 何をやっても楽しくないし、頭が常に重いし、生きている実感がありません。
 精神科医に貰った薬は効いていないみたいです。
 そんな絶望的な状況の中、追い討ちをかけたのが元彼です。
「人生で最高の人に出会えた」と言ってくれた元彼が二股をかけていたのです。
 元彼と別れた日、私は全てが嫌になり、1~2ヶ月後には自殺すると決めました。
 環境を変えようと思い、実家を離れて一人暮らしをしようと決めました。
 今更ですが、勝手に家を出てしまってごめんなさい。
 あれからアパートを借りて一人暮らしをしていました。
 隣の部屋に住んでいたのが今の彼・中村雄介さんです。
 中村さんが私に好意を抱いていると気付くのに時間はかかりませんでした。
 こんなダメ人間な私でも、死ぬ前に何か人の役に立ちたいと思い、
 人生の最期は中村さんのために生きようと心に決めました。
 中村さんに告白された時、余命が最短で1ヶ月の肝臓がんだと嘘をついてしまいましたが、
 それでも中村さんが「付き合って欲しい」とお願いしてきたので、それに応えるべくOKしました。
 一緒にいた日々が、中村さんに尽くした日々が、どれも最高に楽しかったのは事実です。
 やっと人の役に立てた。もう現世に思い残すことはありません。
 この手紙を書いた後、薬をたくさん飲んで安らかに眠りにつきます。
 さようなら。そして、ごめんなさい。

 結衣



「なんだよ……死にたいんだったら俺に相談してくれれば良かったのに……」
 僕は涙を流さずにはいられなかった。すると父親がおもむろに口を開いた。
「さっきは殴ってしまってすまなかった。結衣は悩みを人に話さずに、自らの心の内に仕舞い込む娘なんだよ。昔からそうだった。中学、高校といじめられていた時も、先生に言われるまで俺も母さんも知らなかった」
「えっ、いじめにあってたんですか?」
「やはり聞いてなかったか。結衣は昔から救われない娘だった。5日前、結衣が突然家に帰ってきた日に『やっと私に彼氏が出来たの』と喜んで報告していたけど、その笑顔が尚更俺と母さんを不安にさせたよ。本当は上手くいってないんじゃないか、最悪の場合DVに遭ってるんじゃないかって。勝手に疑って申し訳ない。この手紙を読んで解ったよ。君は間違いなく結衣を幸せにしてくれたということがね」
 それを聞いて、僕はさらに号泣した。
「西岡! 目を覚ましてくれよ! まだ一番大事なことが解らないじゃないか! その手紙にも書かれてない大事なことが! 答えてくれよ! 西岡! 西岡~!!」



「……村さん……中村さん……」
 微かに聞こえる少女の声で目を覚ました。僕は3時間も泣き続け、泣き疲れてそのまま寝てしまったようだ。
「西岡! 目を覚ましてくれたんだね!」
「ちょっと、声が大きいよ。恥ずかしいよ、皆見てるじゃない」
「えっ? あ、ここは……」
 そこは何故か川沿いの公園だった。公園を訪れた人たちが皆こっちを見ている。
「約束通り川沿いの公園に来てあげたよ」
「西岡……」
「ホラ、あれを見てよ」
「……あ!!」
 少女の視線の先には、この公園に一本しかないソメイヨシノ。満開の桜が舞っていた。
「……やっと見れたね、中村さん」
「……うん。すごい綺麗だ……」
 僕等はしばらくの間、無言で桜を見ていた。その後、僕から口を開いた。
「……あ、あの、西岡。一つだけ、聞きたいことがあるんだ」
「なーに?」
「俺のこと……本当に好きなの?」
「えっ?」
「だって、俺に尽くそうとして付き合ってただけなんだろ? 無理しなくて良かったのに。俺は本当の気持ちを知りたいんだよ!」
「……なーんだ。そんな簡単なことも解らないの?」
「えっ?」
「中村さんの望む答えで合ってるよ」
「!!!」
「これから辛い時があったら、いつでも私を呼んでね。必ず出てきて励ましてあげるから」
「えっ、どういう意味?」
「じゃあ、最後にキスしようか」
「……うん」
 僕等はゆっくりとお互いの唇を合わせた。その瞬間に目を閉じた。
 世界中の時が一瞬だけ静止したように感じた。



 気がつくと、そこは再び少女のいる病室だった。
 心電図は直線になっていた。
 父親も母親も号泣していた。

 そうか、少女は最後にもう一度、夢を見せてくれたんだ。今までで最高の夢を。



 あれから僕は、少女に出会う前と同じ日々に戻った。
 でも一つだけ違うのは、今の自分に誇りを持つようになったこと。
 少女の分も生きようと心に決めたんだ。それが僕の生きる理由だから。



(Fin.)



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