Box of Days

~日々の雑念をつらつらと綴るもの也~ by MIYAI

Rosalita (Come Out Tonight)

2006年01月22日 | diary
 ♪Tonight was young
  Moon was yellow...♪
  Rosie ! I'm home !

 2003年10月、ニューヨーク・シェア・スタジアムでのこと。スプリングスティーンはそう言うと、あの胸躍るイントロのフレーズを弾きはじめた…。

 スプリングスティーンのファンになってすぐ、彼のライヴが気になるようになった。僕の友達のみんながスプリングスティーンの歌を好きだったわけじゃないけど、彼のライヴを悪く言う人は誰もいなかった。「大きな会場でのライヴはコミュニケーションが難しい。いったどうやればブルースのようにできるのだろう?まいっちゃうよ。彼はスタジアムの一番後ろの席のファンとも、しっかりとコミュニケーションをとれるんだから」。U2のボノがインタビューでそんなことを言っていたのを読んだことがある。

 最初の頃は、“Dancing in the Dark”のプロモ・ビデオに興奮していた。でも、(あれはあれでいいのだけど)そのうち微かな違和感を感じるようになった。それはどこか作り物的であり、見せ物的だった。「本物のライヴはきっとこんなもんじゃないはずだ」。そのことは、割とはやい時期にわかっていた気がする。でも、僕がスプリングスティーンのライヴを観る機会は、なかなか巡ってこなかった。

 そんなときに決まった初来日公演。今になってみれば、あれはちょっとしたスプリングスティーン・バブルだったと思う。テレビやラジオの音楽番組では、軒並みスプリングスティーンの特集が組まれ、毎日のように彼の歌やミュージック・ビデオが流れていた。
 
 そんなある日、僕は“Rosalita”のライヴ映像を観ることになる。この曲を聴くのも、体の細いスプリングスティーンを観るのも、そのときが初めてだった。

 曲が良かったのはもちろんだけど、素に近いスプリングスティーンのライヴ映像を観れたことが、当時の僕にとっては、なにものにも変えがたい出来事だった。スプリングスティーンはステージを走り回り、クラレンス・クレモンズとは芝居がかったかけあいを披露。これでもかと客席を煽っては、たくさんの笑顔をふりまいていた。そして、曲の最後には何人もの女性ファンがスプリングスティーンに猛然と飛びかかってキスの嵐。

 あれはほんとにすごかった。そこには“Dancing in the Dark”のビデオとは比べようもないほどの熱っぽさがあり、僕はただ茫然と眺めるしかなかった。すごくショックを受けたとか、多分そういうのじゃなかったと思う。ただ、ブルース・スプリングスティーンという稀代のライヴ・パフォーマーの真髄の一端に触れることができたような、そんな満足感があった。

 正直、今になってみると、これはこれでちょっと違和感があったりもする。やっぱり撮影を意識していたのか、振る舞いがもうひとつナチュラルじゃないのだ。でも、だからと言って、この映像の価値が僕の中で下がることはない。初来日のチケットが取れずに気落ちしていた僕を、あの“Rosalita”がどれだけ慰めてくれたことか。当時、僕は飽きることなくこのライヴ映像を繰り返し観たものだった。そんなことも影響してるのだろう。僕にとって“Rosalita”は、スプリングスティーンのライヴを象徴する曲として、今も心に刻まれている。

 ロザリータ、もっと軽やかに飛んでよ
 セニョリータ、俺の情熱の横に座ってくれよ
 お前の恋人になりたいんだ、嘘じゃない
 ロザリータ、お前こそ俺の求める女なんだ

 シェア・スタジアムで、スプリングスティーンが“Rosalita”を歌った夜。僕が初めてこの曲を聴いてから18年がたっていた。ほんとに嬉しかった。あれは間違いなく、遠くから会いに行って良かったと思えた瞬間のひとつだった。