EMIRIO☆REPORT~雑貨ちょび読書たま~

☆日常生活を不定期レポするホニャララブログ☆

鷺と雪

2009-08-09 | 読書小屋
         「鷺と雪」 北村薫著 文藝春秋刊

帝都に忍び寄る不穏な足音。ルンペン、ブッポウソウ、ドッペルゲンガー・・・。令嬢・英子の目に、時代はどう映るのか。昭和十一年二月、雪の朝、運命の響きが耳を撃つー。
                          ー帯解説より

「街の灯」「玻璃の天」に続くシリーズ3作目、ということですが、私はいきなり「鷺と雪」を読みました。既刊シリーズの説明やエピソードもさりげなく登場しているので、私のような途中乗車の読者でも、簡単にシリーズ世界に入れます。大戦前夜の日本、良家の令嬢とその女性運転手が周囲に起こる事件に挑むというお話で、表題作を含む3作(「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」)が収録されております。

事件解決も面白いのですが、やはりどの事件にも共通しているのが、大戦前の暗い符丁。こののちに控える時代が決して明るいものではないという、不安な空気に満ちています。主人公・英子が「良家のお嬢さん」であることから、読者は必然的に身分社会の特権階級側から見た日本社会を覗くことになります。ストーリーとはあまり関係ない(ってこともないが)ささやかな描写からも、この時代のあらゆる不平等や差別、不条理、不自由というものを感じ、あぜんとします。生まれながらに特権を持つ者の立場となって(当時生まれていたら平民だったと確信できる)自分の目を重ねてみると、「こりゃ~、戦争になってもおかしくない時代や~」と思えてきます。

ここで数年前に他界したオットの祖母のエピソードを少し。
当時、東京の奉公先のお屋敷で、お嬢さんを小学校に送り迎えするのがばあちゃんの仕事のひとつでした。その日は朝から大雪で、ものすごく寒かったそうです。お嬢さんと手を繋いで学校へ向かうと、道の角かどに兵隊さんが銃を抱えて立っていました。その、いつもと違う、ものものしい光景を不審に思いながら、小学校に着くと「今日はこのような大雪だから帰りなさい」と言われ、再びお嬢さんの手を引いて屋敷まで戻りました・・・「ちょうどこの日が『2・26事件』やったとよ」。私の聞き違いでなければ、屋敷は首相官邸近くにあったそうです。まさに、「鷺と雪」の現実世界で、ばあちゃんも歴史の目撃者の一人だったわけです。

これは私個人の勝手な解釈ですが、未曾有の不況をきっかけに、様々な立場の人々の、様々な不満や不安や閉塞感がわき起こり、もともと別物だったそれらが時代の空気に融合して、力ある者が選択した道に乗っかった・・・という感じでしょうか。結局戦争しかないと思わせるような絶望が、唯一の希望となって、当時の日本に蔓延していたのだろう・・・とあくまで推測する次第です。

それにしても今の世の中だってそんなに明るい空気じゃないっすよね。もしかしたら、私たちだって知らぬ間に「戦前の空気」に触れているのかも知れませんし(こわ~っ!!)。だからこそ「力」のない人々の冷静な判断力がいかに大切か、ということを感じます。幸いこの『鷺と雪』の時代と違うのは、私たちは戦争が深い傷と代償を伴うものだということを知ってるし、国民には日本社会を選択するささやかな「力」が与えられています。・・・今度の選挙、きちんとマニフェスト確認して行かんとな~・・・とは、この感想書いて至った結論です☆ まる。