EMIRIO☆REPORT~雑貨ちょび読書たま~

☆日常生活を不定期レポするホニャララブログ☆

僕は、そして僕たちはどう生きるか

2011-05-16 | 読書小屋
           
      「僕は、そして僕たちはどう生きるか」 梨木香歩著 理論社刊


ひと言でいって、打ちのめされた作品です。 タイトルからもこの本が、読書小屋で紹介
した、吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」のオマージュ的作品であることは間違いあ
りません。 主人公の名前もそこから由来した「コペル君」ですし。そして、もちろん、
内容も・・・。

ですが、そんなことではなく、私は本当にがく然としたのです。少なくともここ数年、
本関係の仕事にたずさわった人間として、少なくとも「君たちはどう生きるか」に
深い感銘を受けた一人として。 私は吉野源三郎さんが「君たちはどう生きるか」を
通じて伝えたかった本質を、本当には理解できていなかったのだと、自覚しないわけ
にはいきませんでした・・・。偶然にも私は、仕事の企画の一環として「君たちはどう
生きるか」を選んでおりました。けれど、私にそれを偉そうにすすめて、紹介する権利
はなかったように思います。

最初書店で「僕たちは、そして僕たちはどう生きるか」を見かけた時、「なんてタイムリ
ーなんだ♪」と単純に喜び飛びつきました。好きな作品のオマージュを(タイトルを見て
すぐピンときた)、好きな作家が書いている!こういうめぐり合わせにわくわくしながら
本を読み始めました。しかし・・・。

ストーリーがバレてしまうため、詳しいエピソードは控えますが、図書館で見つけた、
信頼厚い出版社の、信頼厚いシリーズの「中高生向けの本」であるはずの一冊が、ある
ひとりの少女をめちゃくちゃにしてしまったのです。その一節を呼んだ瞬間、血が逆流
しました。「え、まさか!?」。小説の中では、もちろんその書名は記されていませんで
したが、私はすぐ思い当たりました。ちょっとドキッとするタイトルがかえって正直な
感じでもあり、開き直った感じでもあり、カッコイイ感じでもあり、イマドキな感じで
もあり、中高生が手に取りやすいカワイイ表紙。少し過激なタイトルかもね、と思いつ
つも、「○○出版社の○○シリーズやけん、大丈夫か~」と盲目的にブランドを信じ、
中身を読まず書架に入れた記憶のある本です。自分は興味ないけど、ここの本なら大丈
夫!などと勝手に太鼓判を押していたのです。けれど、それは危険な行為でした。
私が思った本であろうとなかろうと、確実に、そんな経緯を辿ったと思われる一冊が、
(小説とはいえ)、少女を損ねてしまったのです。「無条件に信頼するあやうさ」に
ついて、梨木さんは、具体的に警鐘を鳴らしているのです。

誤解のないように書きますが、これは「人を信じるな」ということではありません。
「盲目的に信じるな」、ということです。「自分の考えを持て」、ということです。
そのために「自分の判断力を養え」ということです・・・と思います。それは時に勇気の
いる行為だったり、困難をともなう作業かも知れません。ひと手間かかる作業かも知れ
ません。しかし、それをめんどくさがってはいけない、「君たちはどう生きるか」は
そういうことを伝えています。そこに感銘を受けたはずなのに、こんなに簡単に堕落して
全体主義化している自分にがく然とするのです。良書として無条件に信頼していた『事実』、
その方程式を好きな作家から「完全に」否定された『事実』に打ちのめされるのです。

梨木さんの鳴らした警鐘は、架空の話だったかもしれないし、現実の話だったかも
知れないけど、あまりにもつらい指摘でした。周りや過去の評価ではなく、作品
そのものの評価を自分でしなければならない、また、そんな評価をできる判断力を求め
られているのだと感じました。小説に出てくる、少女を壊したその本を悪書として糾弾
するつもりはありません。しかし、私はその本を読むべきでした。そして、自分がそれ
をどう感じたか評価・判断することが重要だったと後悔するのです。今それを読んで
も、たぶん梨木さんに影響を受けすぎた読み方しかできないでしょう。
それでも、読んでみよう、読んでみなければ・・・と思います・・・。

ある本の言葉を思い出します。「戦争は戦争の顔をしてやってこない」。戦争だけで
なく、すべての「邪(よこし)まなもの」「我欲をたくらむもの」はそんな顔をしては
やってはこないのだと。優しい顔して、普通の顔をして、カッコイイ顔して、クール
な顔をして、私たちに近づき、私たちを取り込んでしまう。

人の評価ではなく、自分の評価で物事を見極めねばならないと考えさせれれた一冊
でした。 「自分の判断力」というものを、日々困難にぶつかりながら開発途上中の
子供たちに対し、(これを、「成長」というのか!) 大人がそれを導かねばならない
最低限の責任があるのだ、と(偉そうな意味ではなく)。 そのために、私たち大人は
子供以上に日々の生活、仕事や、友情や、信頼や人間関係を深めて、自分の判断力を
磨いていかねばならないのですね。オススメの一冊、というより、ノックアウトされた
本です。 自分の堕落を自覚するたびに、恐らく、何度も読み返すことになる本だろう
と、思ってます。