橋本治とナンシー関のいない世界で

「上野駅から夜汽車に乗って」改題
とうとう橋本治までなくなってしまった。
平成終わりの年にさらに改題してリスタート。

白い巨塔:追記〜最も印象に残ったシーン〜

2019-06-03 03:18:58 | がん徒然草
白い巨塔最終話でもっとも印象に残ったシーンは満島真之介演じる柳原医師と政略結婚の見合いで出会い付き合うようになった婚約者のキスシーンでした。

政略的に見合いさせられたとはいえ、お互い好意を抱き始め、柳原のアパートに通うようになった令嬢の婚約者。そのアパートに、死亡した患者原告側弁護士の斎藤工が原告側の証人になってくれと訪ねてきます。しかし、身を潜め居留守を使う二人。

柳原は財前からカルテを改ざんさせられ、裁判でも嘘をつき、大学での立場を捨てられない自分に良心の呵責を感じ、原告弁護士の姿を窓の外に見て、布団に潜込んで震えます。そして、斎藤工が諦めて去った後、二人は固く抱き合う。柳原の弱さと辛さの両方を受け止められるのは共犯者になりうる政略結婚の婚約者がゆえでしょう。自らも政略結婚させられるという自由を奪われた境遇であり、それは柳原がこれから抱える自由のない未来と重なる。それが幸せな関係の始まりではないとわかってはいても、そこで生まれる強い繋がりもある。ここで抱き合うことは極限状態に置かれたことによる衝動的なものかもしれませんが、その後、柳原が確信に満ちた表情で控訴審の法廷で嘘をつき続けるようになるのをみると、あの瞬間に彼は覚悟したように見えました。少なくともそういう演出に見えました。

しかし、そんな柳原の確信も、彼にすべての罪を押し付ける思慮浅い財前の法廷での発言で、もろくも崩れ去ります。
この確信から翻心する部分があまりに簡単すぎて、ちょっと拍子抜け感もあるのですが、満島真之介の熱演によって煙に巻かれてしまいました。やっぱり、あのキスシーンは衝動的なもので、二人に絆など生まれていないのだろうか、男と女とはそういうものだろうか・・・。ドラマでは二人のその後は描かれないので、結局わからないままですが、やはり、婚約者の彼女も彼の良心の呵責を理解し、それを表に出せない辛さに共感したからこそ抱き合ったわけで、その共感の底には、やはり彼の本音を採掘する何かがあったのでしょう。

アパートの小さなキッチンで慣れない手つきで食事の準備をしようとする嬉しそうな令嬢の姿は、籠の中であろうが、新しい世界を手に入れられるかもしれないというはかない希望そのものでした。そして、それこそが、彼女の側の本音の世界だったのかもしれません。

そして、その二人の本音と本音が重なった瞬間だからこそ、そのシーンは印象に残ったんだと思います。そんなこと滅多にないですから。

幸せとはなんだろうと問われたら、ひとつ「理解者がいること」と答えます(それが妄想だったとしても)。それが悪の道につながることであったとしても、その人の悲しみを共有した上での共感に支えられることもある。その共感に支えられ、理解者がいることで強さを得て、彼ら二人が悪の道を清算する勇気を持てれば、そのときこそ本当に幸せを感じられるのかもしれない。

ドラマでは、彼らのその後は描かれませんでした。田宮二郎のテレビドラマシリーズでは、どういう描かれ方だったかは覚えていませんが、youtubeで見た断片では、一方的に婚約者の親から破談の手紙が届いていました。LINEとかで連絡簡単に取れる今は、また違う展開なんだろうなって気もしますけどね。あの令嬢がかけおちでもして、一緒に無医村に赴いてくれてたりすると面白いのですが、、。意外に先祖返りして、また政争の道具に使われちゃうのか、、。わかりません。

ほんと、幸せな人間関係ってどんなもんなんでしょうね?
依存ではない信頼関係とはお互いが自立して初めて成り立つとはよく言われることだけれど、しんどい時に分かり合える人がいて欲しいのも確か。それが勇気となって自立の道を歩み出せることもあると思うのだけど、それはまだ私が自立できていないからそう思うのか・・・?

また、無差別殺人の犯人の話になっちゃいますが、しんどい時にどうやって人に頼れるかは、その人の未来を分ける気がします。それは秋葉原事件の加藤の時にも思いました。
今の時代、これこそが、いろんな問題の根底にあると思います。そのへんはまた別のところで書きたいと思います。

白い巨塔最終話(公開期限6月9日)
https://tver.jp/corner/f0035076

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