橋本治とナンシー関のいない世界で

「上野駅から夜汽車に乗って」改題
とうとう橋本治までなくなってしまった。
平成終わりの年にさらに改題してリスタート。

祝島へ行った その8 平さんの棚田

2010-07-18 16:33:31 | 祝島へ行った
今日みたいな、気持ちのいい晴れ渡った夏の日は、また祝島に行きたくなるなあ。
というわけで、今日は、祝島の話の続きで、「平さんの棚田」の話から。


棚田は、段々畑の上の方にあるのだが、そのまま自転車で行った。
結果、自転車で行けました。
最初の登り口は斜面の傾斜がきつくてちょっとヘタリそうになったが、しばらく行くと傾斜が緩くなってきて、降りて引くこともあったが、半分くらいは漕いで進むことができた。
 


途中で、徒歩で上っていた集団とすれ違い「徒歩だとあと30~40分くらい先だから自転車だったらもっと速いと思いますよ」と言われ、目標が見えて元気が出る。

景色が開けた場所で、自転車を止めた。

この景色。山に登ってきて本当に良かった~と思った瞬間だ。
ママチャリがまたいい味だしてるでしょ。自転車のって来て良かった~。

というわけで、縦バージョンの写真も載っけちゃお。
こっちには、海の上に、小さく船が写ってます。


日差しは強いんだけど、時々気持ちのいい風が吹きすぎる。
この時はまだ5月だが、懐かしい夏休みの風情だ。

この時の気持ちよさは、その後の私の意識に深―く刻み込まれたようで、もはや私は都会のオフィスのような場所で働けない身体になってしまった。つい3ヶ月前まで、窓も無いオフィスで毎日働いていたのに、もうそういう仕事には足が向かなくなっている自分がいる。それにネクタイした人にもう囲まれたくないしなあ。
あくせくするのがイヤだというのもあるが、
祝島のこの青い海と青い空と、そして、このあと行く平さんの棚田を見て思ったのは、もう、自分に嘘付いてやる仕事はしたくないということだ。



到着した平さんの棚田はでかかった。
幅は50mほど、高さは1段8m~9mと日本でも有数の規模の棚田だ。
なのに、岩を積むのに機械は使っていない。ましてや作業は平さんの一家だけで行ったという。自らの強い意思によって、親子3代で完成させたものだ。平地が少ない祝島では、田んぼを作るにはこうした棚田を作らねばならなかったのだろう。
この辺は掘ると岩がゴロゴロ出るからそれを積んで行ったのだと、どなたかのブログで読んだが、この大きな石を自らの手だけで運んで積む作業は並大抵ではない。
人間これだけのことができるんだと感激すると同時に、その作業を想像すると途方に暮れた。

この棚田は、平さんが、人間の力と自分の力を信じて、作業をやり続けてきた結果だ。この棚田にくる観光客や取材者は、棚田に結晶した「人間・平さんの奇跡」に驚き、感動するのではなかろうか。

棚田作り3代目の平萬次さんはもう70代で、この棚田を守るのももう自分の代で終わりだと語っているらしい(ご本人に取材できてなくて、これもどこかで読んだものです。すいません)。
人間の作り出すものは偉大だが、その大変な作業を継ぐものがなければ、潰えてしまう。人間は基本的に怠け者だから、潰えるのも簡単だ。特にこの棚田のような大変な仕事は、一人の人間の奇跡のような行動力によるところが大きい。そして、誰にでもその奇跡は起こせるものではない。中心人物がいなくなって、消えて行ってしまうものも世の中には多い。

見上げると、ボランティアの若者たちが、石垣の草刈りをやっていた。
小さくて分かりづらいかもしれないが、下の方に小さく写っているのがその人たち(石垣の巨大さが分かりますね)。


彼らは、みな島の外から来た人たちだ。中には、東京から来たという女性もいた。

当事者で無いのに、こうして石垣の草刈りをしたり、また、いっしょに原発に反対し、祝島の自然を守ろうとする人がいる。
それは、そもそも祝島の人たちが、一番一生懸命に自然を守ろうとし、伝統的な暮らしを守ろうとしているからだ。
その賢明さや奇跡のような行動力に感銘を受け、当事者でない人々もこうしてやってくる。

そういえば、数回前に書いた「祝島のスマートグリッド構想」などはそんな事業の典型ではないだろうか。外部の人々が、祝島の人々の志の高さに共鳴し、民間と有志による出資で祝島に原発のいらない社会を現出させようとしているのだ。

一人の人間の奇跡、一つの小さな島の奇跡を、日本の奇跡に広げて行くためには、私たちみんなが、小さくてもいいから奇跡の行動力を発揮せにゃならんのよねえ。

そのために最低限必要なのは、自分に嘘をつかないことなのだろうと思う。
自分に嘘をついていたら、多分いつかは投げ出してしまうから。
投げ出さず、あきらめずに続いている祝島の原発反対運動や、根気よく作られた棚田を見てそう思った。
自分に嘘をついていない証拠に、祝島で出会った人たちの表情は明るい。

山から下りて、浜で出会ったじいちゃんに、「棚田に自転車で行ってきた」と話したら。
「自転車で上ったのはあんたが初めてじゃろ」と言われ、ちょっと嬉しくなった。
いや、ただのアホって思われただけかもしんないけど、そんなことはどっちでもいい。
自転車でのぼってみて良かったと思ってるからな、自分で。
私も自分に嘘付かないでがんばろ!!

というわけで、「祝島へ行った」はもう少しだけ続きそうです。