ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

天下一の軽口男

2019年11月14日 | 本を読んだで


 木下昌輝           幻冬舎

 上方落語の祖米沢彦八の一代記である。毎年9月に大阪は生國魂神社で、上方落語協会主催で彦八まつりが行われるが、その彦八師匠が本書の主人公である。
 難波村の漬物屋の息子彦八はできの悪い子供であった。ぼんくらで、勉強きらい、手習いの寺子屋を何度もほうり出される。算盤ダメ読み書きダメ。家業の漬物作りも半人前、でも彦八はだれにも負けないことがある。人を笑わすこと。ま、ようするにいちびりでうかれだったわけ。
 そんな彦八は人を笑わすことで生きていこうと思う。特に幼なじみのガールフレンド里乃を笑わせたい。
 彦八は辻に立っておもろいことをゆうて銭を投げてもらうプロの笑話の芸人になる。難波村では難波村一のお伽衆といわれるようになった。彦八はそんなことでは満足せん。天下一のお伽衆になるべく江戸へ。江戸では大名や大店のお座敷に呼ばれて笑話をするのがステイタスであった。
 彦八は江戸で陰謀に巻きこまれ江戸に居られなくなり、上方へ戻る。生國魂神社の境内で小屋掛けして芸を披露。大人気となる。彦八は大名や大店のお座敷相手ではなく、侍から百姓町人だれにでも笑いを届ける笑話芸人となった。
 江戸落語はお座敷芸、上方落語は大道芸である。その上方落語の祖が米沢彦八なのである。
 米沢彦八没後300年。大阪の天満宮の境内に上方落語の定席ができた。天満天神繁昌亭である。さらにそれから12年後楠公さんの湊川神社のほど近く神戸新開地に上方落語二つ目の定席新開地喜楽館ができた。
 そして、ここは、冥土の興行街めいど筋にある上方落語定席めいどええとこ亭である。ここに4人の男が集まっている。
「ワシはあいつをば推薦したい」
 こわい顔だが愛嬌のある男がいった。大きな声である。
「ワシもおんなじや」
 二人目の男がねにょうとした声でいった。
「あいつ以外におらんやろ」
 三人目はしゅっとした男でぼそぼそと小さい声でいいながら、来ていた羽織を脱いだ。シュッと一気に脱ぐかっこいい羽織の脱ぎ方である。
「二代目はこの本にもでてるけど、三代目四代目はおったらしいけど、よう判らん。そやから五代目ちゅうことやな」
 四人目の学究肌の男がいった。
「ではそういうことで、よろしいな初代」
「ま、あいつやったらええやろ」
「ほな、現世に連絡しよ。今の会長はだれや」
「仁智や」
「あんたの孫弟子や。あんた電話してな」
「仁智かワシや。五代目米沢彦八が決まったで」

 202X年。11月吉日。〇〇〇〇〇改メ五代目米沢彦八襲名披露公演が天満天神繁昌亭からスタート全国を巡回することとなった。