ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

ボタニカ

2023年11月21日 | 本を読んだで

朝井まかて                 祥文社

 牧野富太郎の伝記である。なんかちょっと前までテレビでドラマになってたらしいけど、ワシはかようなもんは興味がないから見てへんけど、牧野富太郎といえば日本の植物学の父ともいうべき人。牧野がいなければ近代の学問としての日本の植物学はなかったであろう。
 困った天才という人たちがいる。手塚治虫は漫画の神様といわれるが、金銭的事務能力のない人だった。ただただ漫画を描く人だった。自由律俳句の種田山頭火とか尾崎放哉といった人たちは、とんでもないろくでなしであった。将棋の天才小池重明なんて人はたいへんな困ったちゃんである。天才漫才師横山やすしもそうだろう。
 牧野富太郎もその困った天才の仲間だ。植物を採集し標本にし分類して学名を特定する。植物の本を購入し、植物の雑誌を刊行する。それだけ。それしかしない。植物植物植物。ただただそれ。あとのことは知らん。もちろんこれらのことはタダではできん。金が要る。その金はどこからでる。牧野は打出の小槌をもっていたわけではない。土佐の実家は酒屋。そこには忠義な番頭と前妻がいる。植物の雑誌を出したい。金送れ。土佐から送金されて来る。土佐の実家も無尽蔵に金があるわけではない。ついに底をつく。あとに残ったのは借金の山。そんなことは気にしない。なんとかなる。ともかく植物だ。あとは知らん。まったくもって牧野富太郎、困った人だ。