ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

土を喰らう十二カ月

2023年08月21日 | 映画みたで
監督 中江裕司
出演 沢田研二、松たか子、もも、壇ふみ、火野正平、奈良岡朋子

 黒い土がついた里芋。それを男の手が水であらう。それを焼いて食う。それがどんなにうまいか。どんなに豊かでしわわせなことか。この映画は判らせてくれる。
 作家のツトムは信州の古民家に犬とともに暮らしている。妻は13年前に亡くなった。墓はまだない。そんなツトムのもとにときおり担当編集者の真知子がやってきて原稿を督促し、ツトムが作る料理を食って帰る。彼女の来訪の目的は原稿の督促かごちそうになるのが目的かよく判らぬ。はたまたツトムそのものにも好感を抱いているのかも。
 映画は、立春、啓蟄、晴明、立夏、秋分と日本の七十二侯に則って進む。大きなできごとといえが義理の母の死去と通夜葬儀ぐらい。子供ころ禅寺にいたというツトムは精進料理ができる。信州のきれいな風景を作家ツトムと愛犬サンショの日々をえがいていく。
 土井善晴さんが料理を担当している。映画の料理といえば飯島奈美さんが多かったが、最近一汁一菜といってシンプルな料理をひょうぼうしている土井さんは、この映画のような精進料理とは相性がいいのだろう。
 畑で野菜をとり山できのこをとって、それを食う。あいまに原稿を書く。この映画を観ているときはそういう生活もええなと思った。でも、ワシにはできんと思ったしだい。かような田舎には喜楽館も繁昌亭も甲子園もない。ワシの好きなもんはない。映画でたのしむだけにしよう。