Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

インスリンの意識科学 ~統合失調症と支配層の遺伝子~

2007-10-02 00:45:31 | 人間行動学:精神医学・心理学・行動科学
ロシアからの報告で統合失調症に断食療法が奏功したとの報告があった。また日本の自然療法の大家である東城百合子先生によると統合失調症では栄養素の過剰が問題とのご指摘であった。特に糖類であると言う。経験医学と自然医学はどちらも核心をついた議論をするのだが、一方の西洋医学では遅々として仕事が進まない。基礎となる病態生理を突き詰めて解明するまでは病因不明となり、基礎研究や臨床研究に莫大な時間と費用が費やされる事になるのだ。

最先端の報告ではインスリン様成長因子が統合失調症の発症機序と関連しているらしいとの話である。IGFと呼ばれるこの因子の血中濃度が低い人は健常者に比べて統合失調症の患者に多いとあり、またIGF濃度の低い患者では幻覚を表すスコアが高かったと言う。またこの値がインスリンと逆相関を示しており、患者群では異常にインスリンレベルが高いようである。インスリンレベルが高値であるのに全体として統合失調症患者のインスリン抵抗性は低いようである。

統合失調症におけるインスリンレベルの異常な高値とは何であろうか?人類史をひもとけばインスリン濃度が高くなる時期は少なかった筈である。現代は栄養過多の時代であるのだが、かつては栄養素に乏しい生活を人類は強いられていた筈である。それが証拠に血中糖レベルを減少させるホルモンはインスリン1つだけであるが、血糖上昇ホルモンとなれば5つもある。口にできるものは何でも入れてとにかく血糖を上げて身体の代謝を何とか保ってきたのが人類史の中で相当の時間を占めているだろう。飢餓の時期の方が長いに違いない。

かつて中井久夫先生は統合失調症が残ってきたのだから、進化史的に意味があるだろうと言う趣旨の事を云われたように思う。これはまさにエソロジー的な視点であるのだが、有史以来インスリンレベルを上げられた人々と言えばおそらく支配層であろう。豊富な食物を得て饗宴まで催すことが出来た社会経済階層のみがインスリンレベルを上げられた筈である。政治家か神官か或いはその両者であっただろう。豊富な穀物から得られる豊富な糖質によって血糖値が高かった筈だ。

一般民衆は少ない穀類等から何とか栄養素、特に糖質を得ようと必死だったに違いない。それが証拠に世界中に粉ものが広まっている。うどん・パスタ・トルティーヤ・ナン・ピタ・ラーメン・ライスペーパー等など。庶民の知恵であろう、世界中の国民に国や洋の東西を問わずに愛されている。コナモノは庶民の食べ物なのだ。水を入れふくらし粉まで入れて膨らませて腹を満たそうとするのである。

豊富な糖質で血糖値を上げられた人々は、頭脳にも豊富な糖質がめぐるのである。神経系はグルコースしか栄養素と出来ないから、糖質の供給度と神経系の活性度とは相関がある筈である。実際に空腹ではものが考えられない。私も極度の低血糖で倒れそうになった経験があるが、脳が急に活動を停止するのである。低血糖では昏睡と相場が決まっているが、同時に発汗も促して代謝を低め、生存率を高めるのである。糖供給量の豊富な社会経済階層では学問も出来るし、政治活動にも参加出来る。また森羅万象の神秘を哲学的に考察して宗教的瞑想的な気分に浸る事も可能である。衣食足りて礼節を知るとは蓋し名言也。

本邦では政治は政事であり、祭事でもあった。まつりごとである。古代王権も同様にしっかりと穀類を食する事で豊富なエネルギーをもって頭脳明晰であったのではないか。現代生活では自動化によって生活習慣病が出る程であるが、むかしの暮らしを考えれば運動量は何人も豊富であった筈。マルクスおじさんを持ち出さなくてもインスリンレベルの高い人々の社会経済階層くらいは察しがつく。

統合失調症が真の意味で内因性であり、遺伝的基礎を持つのであれば獲得形質が遺伝してる事を示唆している。古代の上流階級・支配階層の代謝機構をそのまま受け継いだ人々がもしかしたら統合失調症の素因を持つ人々なのかも知れない。この意味において中井久夫説は非常に興味深い。さて、いろいろと考えたら腹が減ってきたようである。



Insulin and insulin-like growth factor-1 abnormalities in antipsychotic-naive schizophrenia.

Venkatasubramanian G, Chittiprol S, Neelakantachar N, Naveen MN, Thirthall J, Gangadhar BN, Shetty KT.
Department of Psychiatry, National Institute of Mental Health and Neuro Sciences, Bangalore 560029, Karnataka, India. gvs@nimhans.kar.nic.in.

OBJECTIVE: The purpose of this study was to examine the evidence for the insulin-like growth factor-1 (IGF-1) deficiency hypothesis in the pathogenesis of schizophrenia.

METHOD: The authors examined the fasting plasma levels of glucose, insulin, IGF-1, and cortisol in antipsychotic-naive schizophrenia patients (N=44) relative to age- and sex-matched healthy comparison subjects (N=44). Patients and comparison subjects were also matched for anthropometric measures and physical activity.

RESULTS: Schizophrenia patients had a significantly higher mean plasma insulin level as well as a significantly higher mean insulin resistance score relative to healthy comparison subjects. The mean plasma IGF-1 level was significantly lower in patients. IGF-1 levels had a significant negative correlation with plasma insulin levels. The total positive symptoms score as well as the hallucinations subscore had a significant inverse relationship with IGF-1 levels.

CONCLUSIONS: Deficient IGF-1 might underlie insulin resistance in schizophrenia. The IGF-1 deficit in antipsychotic-naive schizophrenia patients and its significant correlation with psychopathology scores suggest that IGF-1 might be potentially involved in the pathogenesis of schizophrenia.
PMID: 17898347 [PubMed - in process]
Am J Psychiatry. 2007 Oct;164(10):1557-60.

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