この頃、私のところに世界中から安否を確かめる電話とメール、そしてメディアの取材依頼が洪水のように来ている。いうまでもなく今回の地震と原発事故のためだ。
一番多いのが安否を確認するものだったが、原発問題がクローズアップされてからは、中国への退避を促す電話とメールが激増している。子どもを日本に留学させている親たちからの電話やメールの相談もひっきりなしに来る。
さらに、「中国に退避したいがエアチケットが入手できず困っている。何とかエアチケットを入手してもらえないか」といった相談も毎日、何件か来ている。女性からの依頼なら、アドバイスをしたり、旅行会社の窓口や幹部を紹介するなどしてできるだけのことはするが、男性に対しては、日本は私たちの第二の故郷で、男である以上はこういう時期にこそ私たちが負うべき社会的責任を果たすべきだと叱咤している。出張の相談も来ているが、こういう時期に日本を離れることに抵抗を覚えている、出張時期を変えてもらえないかと私の飾らぬ心境を打ち明け、幸い先方も快く応じてくれた。
非常に感動することもある。中国のメディアからの取材要請だ。被災地現場を取材したいという複数のメディアから、通訳や車両の手配を頼まれた。いずれも緊急を要する案件だけに、在日中国人社会の関係者も快く応じてくれた。なかには深夜10時半に私のところに駆けつけて出発前の打ち合わせ会議に参加してくれた人もいた。
福島原発のニュースがテレビで繰り返し放送されるなか、みんなが動揺せずに被災地に出発した。なかには私の娘とそう変わらない年齢の女性もいる。記者とはいえ、仕事とはいえ、生身の人間であることには変わらない。しかし、車に乗り込み、とまどいもなく被災地へ走っていく彼女たちに大きな勇気を得た思いがした。車の到着場所を知らせるメールが送られてくる度に、私はこみ上げるものがあった。彼女らの見えない後ろ姿に、国境、人種を超えたある種の共通のものを感じたからだ。
私のところに取材に来た中国のメディアも米国のメディアも、危機的な状態にある日本社会が見せた落ち着きと保たれている治安状態に驚いている。中国のメディアに、こうした日本に学ぶべきだと主張する報道記事が非常に多いのもそのためだと思う。
もちろん、日本政府の対応に疑問を呈した声もあった。最初の時点から自衛隊をもっと大規模に救援に投入すれば救出できる人ももっと増えたのではないか、戦後最大級の危機と主張しているのに、救援活動が繰り広げられる現場になぜ首相や主要閣僚が乗り込まないのか、ヘリコプターによる空中の視察は確かにあったが、被災地の現場には降りようとはしなかったのはなぜか。米国のメディア関係者からは、2005年8月末に大型のハリケーンカトリーナがアメリカ合衆国南東部を襲った時、アメリカ国民が災害の対応に遅れたブッシュ大統領(当時)の失政をかんかんと怒った実例を取り上げながら、今度の地震に対する日本の政治家のこの対応で大丈夫なのかと聞かれた。それにどう答えたらいいのか私にはわからない。
さらに、個人的に感じた課題もいくつかあった。
まず今度の地震と原発事故で輪番停電に追い込まれたことだが、地震の影響を受けていない関西電力や中部電力などは、関東への電力支援には周波数変換という制限を受け、融通できる最大電力は120万Kwしかないそうだ。一方、東京電力で予想されている電力の不足分は1000万Kwにのぼる。確かに明治時代から残された遺産と言えばそこまでだが、なぜ長い間この「一国二制度」的な電力インフラを温存させてきたのか、素朴な疑問を覚えた。なぜ電力インフラを統一しておかなかったのかと聞きたい。
電力支援に絡んでくる電力の周波数の問題が明治時代から残された問題だとすれば、技術が進む今日にも壁を作り続ける問題もあった。地震発生時に、私はちょうど講演で山口県にいた。東京の家族や事務所のスタッフの安否を心配して、固定電話や携帯電話にいくらかけて通じなかった。幸いインターネットを通してメールのやり取りができたので必要な情報を交換することができた。
しかし、安否を確認したいところがもっとあるにもかかわらず、確認する手段はなかった。中国では携帯電話の契約先が違っても各キャリア間の携帯電話はショートメッセージを送ることができる。だが、こんな簡単な通信手段が日本では利用できない。ショートメッセージは同じキャリアと契約した携帯電話同士の間でしか交わすことができない。キャリアが違うとEメールによる通信手段しかない。ところが、友人たちや仕事先の関係者の携帯電話のメールアドレスはそれほどたくさんはもっていない。結局、安否の確認は数日間かかってしまった。なぜ中国のように各キャリア間で携帯電話によるショートメッセージを通信できるような環境を作れないのか。日本の主管官庁と携帯電話の関連会社に聞きたい。
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