【放射能漏れ】
放水焦る官邸 効果考えず場当たり的指示
19日午後に開かれた「各党・政府震災対策合同会議」の第1回実務者会合。公明党の石田祝稔政調副会長は、民間のドイツ製コンクリートポンプ車について、「国土交通省は存在を知っていたはずだ」と官邸と省庁との連携不足を指摘した。
公明党の説明では、ポンプ車の活用を官邸側に提言し、19日朝に「使う」と回答があったという。官邸はそれまで、自衛隊と警察、消防に半ば強引ともとれる放水要請を繰り返しており、注水に最も効果的なポンプ車の存在を知らなかったとみられる。
核燃料プールへの注水が急浮上したのは震災4日後の15日早朝。定期点検のため運転を停止していた4号機で水素爆発と火災が発生し、注水による冷却が急務になった
複数の政府関係者の話を総合すると、官邸側はすぐに自衛隊にヘリコプターによる散水を要請。しかし、「完全に吹き飛んでいない建屋に上空から水を放水するのは危険」と、性急な実行は見合わされた。自衛隊関係者によると、自衛隊は当時、前日に起きた3号機の水素爆発での隊員負傷の対応をめぐり、経済産業省に不信感を抱いていたという。
放水を焦り、自衛隊の対応に不満を募らせる官邸は翌16日朝、今度は経産省を通じ、すでに高圧放水車を東電に貸し出していた警視庁機動隊の出動を警察庁に要請。警察庁は「一刻も早く」という指示に、急(きゅう)遽(きょ)派遣した。
一方、午後には防衛相の放水指示を受けた陸自のヘリが出動したが、放射線量が高く断念した。しかし、警察の出動が報じられた夜には、ヘリからの放水再挑戦と消防車による地上からの放水を決断。17日午前にヘリからの放水を決行した。
夜には機動隊に続き、自衛隊も地上からの放水を実施。派遣要請を受けた東京消防庁も出動し、19日未明に放水を成功させた。その後、準備に時間がかかった東京消防庁に海江田万里経産相が「言う通りやらないと処分する」と恫(どう)喝(かつ)まがいの発言をしたことも発覚。海江田氏は謝罪している。
政府関係者は「官邸が省庁間の調整も満足にできなかったため、結果的に冷却効果の小さいものから順番に現場に投入された」と指摘する。実際にポンプ車が稼働したのは22日になってからだ。
放水能力や技術などの検討もないまま、場当たり的に出動を命じた官邸の判断に、政府内からも批判の声が上がる。別の政府関係者は「官民挙げて投入できるものをテーブルに並べ、最優先の投入を決めるという判断がまったくできていない。情報力もなく、まさに政治主導という虚像の弊害だ」と憤る。
現場レベルでも不信感は根強い。ある関係者は「官邸は『やれ』の一点張り。現地に赴く人の命や安全を本当に考えているのか」と訴える。21日に東京消防庁の活動報告会に参加した隊員の一人は、「(石原慎太郎都)知事は涙を流して礼を言ってくれた。上からものを言うだけの官邸と違う」と吐露した。