<地デジ>著作権保護技術無効の装置出回る 有効な対策なし
地上波デジタル放送(地デジ)で番組の録画・コピーを規制するため導入されたB-CAS(限定受信)システムを巡り、規制を一切無効にできる受信機「フリーオ」が出回り、波紋を広げている。著作権保護のために政府や業界が鳴り物入りで同システムを導入したものの、フリーオの出現で完全に骨抜きにされ、有効な対策がないまま放置状態が続く。フリーオを販売している業者は「法的に問題ない」とネット上で販売を続ける構えで、混乱の中での地デジ全面移行は消費者に不信感を広げそうだ。【情報社会取材班】
デジタル放送はアナログ放送と異なり、コピーを繰り返しても画質が落ちない。政府と業界は著作権保護のため、一番組の録画回数を制限する同システムを地デジ受像機に組み入れた。フリーオは、パソコンに取り付けるテレビ放送の受信機で、地デジなどの録画規制を一切無効にする。パソコンからDVDなどへ何度もコピー可能で、編集も自由にできるようになり同システムは骨抜きにされる。
地デジ用のフリーオは07年秋からインターネット上で販売。価格は2万円前後。サイトでは代表者名や所在地など一切を明かさず、台湾で製造しているという。サイト上で連絡すると、国際郵便を使った通信販売が可能になる。今年5月下旬には東京の電器店が店頭販売した。
同システムは、放送業界と家電業界の合意で導入されたもので法的根拠はない。国の情報通信審議会の検討会では、フリーオにどう対処するか方針は決まらず、同システム以外の方法も検討中だ。
フリーオの販売業者に毎日新聞がメールで質問を送ったところ、英文のメールで回答があった。「一体どんな法律を破ったと言うのか」とし、「スタッフは2人。本業は別でパート(副業)として働いている」としている。さらに「日本の地デジ放送の規格普及を目指しており達成されつつある」と日本の放送行政を皮肉ったともとれる文言もあった。
フリーオを店頭販売した東京・秋葉原の店長は「地デジを研究している顧客からの要望で試験販売した。他にも店頭販売していた店はあったようだ」と話している。
国の審議会では、録画規制が事実上無意味となったため、莫大(ばくだい)なコストをかけたこの規制を疑問視する声すら上がっている。
2011年7月の地デジ完全移行で、従来のアナログ受信テレビはそのままでは使えなくなる。地デジの録画規制は、「無料放送なのに番組録画に制限がかかるなど使い勝手が悪くなった」などと利用者から不満もある。
また同システムを開発したB-CAS社が、視聴に必要なカードの認証を独占しているなどの問題も指摘されている。フリーオは録画規制を巡る複雑な背景につけ込む形で登場したといえる。
総務省・情報通信作品振興課の話 国の検討会で、技術面と法令などの制度面での規制について審議中。現時点ですぐに法規制を行うという状態ではない。
◇B-CASシステムとは…
日本の地上波デジタル放送にはスクランブル(映像のかく乱)が施されており、これを解除して番組を見るには、放送・家電業界が設立した「B-CAS社」(東京都)発行のB-CASカードが必要。地デジ対応テレビやDVDレコーダーを買えば付いており、放送受信機に挿入するとスクランブルが解除される。録画は当初、1回のみ可能だったが、制限が強すぎるとの批判などから、08年夏に10回までに拡大された。しかしフリーオは、米国に設置したサーバーから送られてくるスクランブル解除用のデータを利用者が取り入れることで、カードが不要になる。
B-CASカードは「ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ」社(B-CAS社・東京都渋谷区)が1社独占して発行している。民間会社だが、筆頭株主はNHK(18.4%)で社長は二代続けて元NHK、ほかにWOWOWや家電メーカー、民法系衛星放送局などが出資している。
奇妙なのは、全ての地デジ対応テレビに必要という公益性の高いカードなのに、発行しているのは一民間会社。
同社の財務内容は昨夏まで公告されておらず、会社法違反との指摘もあった。公共放送NHKから、役員が天下りしている点も気になる。
この点について公正取引委員会は「発行が一社だけということ自体は問題ではないが、新規参入を阻害する行為があれば独占禁止法の問題が生じる「と国会で答弁している。
さらに、カードの発行や運営には総務省系の公益法人が二人三脚で絡む。
カード発行条件となる録画規制の規格を定める社団法人は「電波産業界」(ARIB)の常勤理事は元官僚。
地デジ放送局からのカード代をまとめてB-CAS社に支払うのが社団法人「デジタル放送協会」(Dpa)、常勤理事は総務省OBで、家電メーカーが役員を送り込んでいる。
B-CASカードはテレビの購入者に無料貸与される仕組み。地デジ対応機が一台売れるたび、1枚500円ほどのカード代が放送局からB-CAS社に。家電メーカーからも1枚100円の手数料が入る。読み取り装置代や手数料が機器の価格に上乗せされていることは言うまでも無い。
同社の発行するカードの延べ枚数は4400万枚。売上高は地デジに使う前の2003年度が20億円程度。
それが2007年度には98億円にまで増えた。一時は7億円以上あった累積損益も2006年度に解消している。
積もれば巨額になる集金構造が独占会社のB-CAS社と
社団法人「電波産業界」(ARIB)、社団法人「デジタル放送協会」(Dpa)という天下り法人の間で仕組まれている。
この収益構造を総務省に尋ねると「放送局と家電メーカーとの話し合いで決定。法的根拠は無い」という。
こうした疑問の多いB-CASカードは必要なのか?
驚くべきことにB-CAS社は「著作権保護が目的ならカードは必要ない」という。
さらに総務相の諮問機関「情報通信審議会」内の委員会ではこのカードと並行して、新たな著作権保護策を検討中だ。今夏までに結論を出すが、中間報告では、新たな保護策の発行機関は「非営利で透明性の高い法人であるべきだ」としている。
元NHKディレクターの上武大大学院の池田信夫教授(情報産業論)は「別の法人を充てても今のシステムならまた一つ天下り法人ができるだけ。無料放送の地デジを受信制限すること自体がおかしい。B-CASなしに受信できるようにすれば、従来機器との互換性も問題ない。膨大な個人情報管理を必要とするユーザー登録も不要のはずだ」と批判する。
結局、地デジを利用してB-CASカードの普及を狙ったのか、カードがあったから地デジで使ったのか。完全地上デジタル化を前に不可解な仕組みが出来上がっている。
(以上、6月5日、中日新聞 特報記事参照)
そもそも、電波環境改善のために実地する無料の地デジ化なのに
法的根拠も無く、課金するB-CASカード
今後、100億円以上になる巨額のB-CAS社の利益はどこに隠れていくのか?
天下り官僚の利権構造は、いつも国民をバカにしている。
フリーオは地デジ利権構造に風穴をあけた。
しかし、これも金がいる。
地デジ化は本来、無料サービスなのだ。