「あきない世傳(せいでん) 金と銀 源流篇」
高田郁 角川春樹事務所 2016.2.18
高田さんの「高」はハシゴダカ。
変換で出てこなくて、いつも困る。
物がさっぱり売れない享保期に、摂津の津門村に学者の子として生を受けた幸(さち)。
父から「商は詐なり」と教えられて育ったはずが、享保の大飢饉や家族との別離を経て、齢九つで大坂天満にある呉服商・五鈴屋に奉公へ出されることになる。
慣れない商家で「一生、鍋の底を磨いて過ごす」女衆でありながら、番頭・治兵衛に才を認められ、徐々に商いに心を惹かれていく。
果たして、商いは詐なのか。
あるいは、ひとが生涯を賭けて歩むべき道か……
金色も銀色も知らない幸に兄が教えてくれた。
夕陽の耀きが金、それを映す川面が銀だと。
どちらも天から与えられた美しい色だと。
その言葉を聞いた治兵衛は言う。
「天から与えられた美しい色を
欲得づくで汚さんよう、
精進してこその商人だすなぁ」
言いにくいことを笑いでくるんで伝える
大坂の洒落言葉が面白い。
『畑の羅漢さん』で、はたらかん。
つまりは働かん怠け者。
『袖口の火事』で『手が出せぬ』
『赤子の行水』で『盥で泣いてる』、
つまり「(銭が)足ら出で泣いてる」
『饂飩屋の釜』で『湯ぅばっかり』、
つまり「言うばっかり」
「あきない世傳 金と銀 二 早瀬篇」
2016.8.18
14歳の幸に、店主徳兵衛の後添いにとの話が持ち上がった。
店主は放蕩三昧で、五鈴屋は危機に瀕している。
幸は「ご寮さん」となる決意をする。
番頭の治兵衛は言う。
「まずは知識をしっかりと身につけなはれ」
「知恵は、何もないところからは生まれしまへん。知識、いう蓄えがあってこそ、絞りだせるんが知恵だすのや。商いの知恵だけやない。生き抜くためのどんな知恵も、そないして生まれる、と私はここよ思うてます。せやさかい、盛大に知識を身につけなはれ」
「大坂には昔から『縁と月日』という言い回しがおます」
「物事が成るか成らんかは、ひとの想いや働きだけで決まるもんやない。ご神仏の手ぇが差し伸べられるかどうかだす。それに加えて、起こってそもた難事を解決するためには、短期はあかん。決して諦めんと、歳月をかけてゆっくりと時節を待て、いう意味やないか」
「あきない世傳 金と銀 三人 奔流篇」
2017.2.18
カタチだけの夫・徳兵衛を不慮の事故で失い、
幸は5代目・惣次と連れ添う。
惣次は情にとらわれないやり方で
店の発展を目指すが……。
買うての幸い、売っての幸せ。