かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の一首鑑賞  109

2020-12-21 21:53:20 | 短歌の鑑賞
    ブログ版清見糺の短歌鑑賞 17  酔いどれ船 
                          鎌倉なぎさの会   鹿取 未放
           
109 夜ざくらの並木尽きたる暗がりにくらくあいよる文体の距離
        「かりん」97年6月号

 「文体の距離」が失敗だったかもしれない。冒険のしすぎだったか。この歌、歌友の左海正美が八丈島に赴任するので、フェリーが出る竹島桟橋へ親しい者達が見送りに行った場面である。四月の赴任であるから桜が咲いていた。そしてひそかに赴任者を慕う女性がいたのである。桟橋への道には夜桜見物をあてにした屋台が並んでいた。その賑やかな屋台も尽きたあたりのくらがりで見送られる男と見送る女はひっそりと寄り添った、というのである。「文体の距離」で男女のことだと解釈するのは難しいだろう。
  にょかいよりのがれんとゆく酔いどれ船煙花三月八丈に送る
   左海正美にわれもの申す島にして酒におぼるも海におぼるな
   夜ざくらの並木尽きたる暗がりにくらくあいよる文体の距離
 実はこの「酔いどれ船」と題する一連、上記のように並んでいて、歌どおり解釈すると左海正美は女性から逃れるために八丈へ行くことになっている。ちなみに一首目の下句は李白の絶句「黄鶴楼送孟浩然之広陵」(黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ゆ)くを送る)の三句目「煙花三月揚州に下る」のもじりである。こちらは友人の孟浩然が船で長江を下っていくのを李白が見送る詩である。この引用にも送別の情が込められている。(鹿取)
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清見糺の一首鑑賞  108

2020-12-20 21:11:25 | 短歌の鑑賞
   ブログ版清見糺の短歌鑑賞 17  酔いどれ船 
                           鎌倉なぎさの会   鹿取 未放
           
108 左海正美にわれもの申す島にして酒におぼるも海におぼるな
               「かりん」97年6月号

 歌友、左海正美が八丈島に(司書として)赴任するのを見送る歌であることが一連を読むと分かる。八丈島は昔から流人の島で、当然ながら周囲は海に囲まれている。この歌は「万葉集」の大伴家持の「痩せる人をわらふ歌二首」が本歌である。

  石麿(いはまろ)にわれ物申す夏痩せによしといふものそ鰻(むなぎ)とりめせ
  痩す痩すも生けらば在らむをはたやはた鰻をとると河に流るな

 一首目は石麿という友人に夏痩せにいいから鰻をとって食べるといいよと言い、二首目では、がりがりに痩せこけていても生きているだけましだが、鰻をとろうとしてうっかり河に流されたりするなよ、とからかっている。もちろんからかいは気安い仲ゆえのものである。清見のこの歌は家持の「われ物申す」と「河に流るな」を合成させて、大酒飲みの左海に対して酒におぼれても海におぼれるなよ、海に溺れたら死んでしまうぞ、と言っているのだ。からかいつつも友に対する親しみや暖かい気分が伝わってくる。
 作者はここで「芸」を見せているわけで芸を分かってあげないと気の毒だろう。

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清見糺の一首鑑賞  107

2020-12-19 18:19:05 | 短歌の鑑賞
    ブログ版清見糺の短歌鑑賞 17  酔いどれ船 
                     鎌倉なぎさの会   鹿取 未放
           

107 〈ゆりかもめ〉きしみゆくなり有明の春まださむき地上百尺
                 「かりん」97年6月号

  馬場あき子の『青い夜のことば』にゆりかもめを歌った一連がある。歌集ではなく雑誌に載った時点で、では自分もと反応した一連の中の一首。同じ号の三首目に「設計思想の貧困なるべしゆりかもめの飛行曲線まねたる軌道」と論理で攻めたシニカルな歌もある。
 掲出歌は「春まださむき」季節に「有明」という優美な地名がマッチして清新な情趣をかもしだしている。百尺という古い言い回しも効いているだろう。ゆりかもめという名も活かし、調子の張った弾んだ気持ちのよい歌になっている。(鹿取)
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清見糺の一首鑑賞  106

2020-12-18 18:27:43 | 短歌の鑑賞
   ブログ版 清見糺の短歌鑑賞 16  夜寒坂
                               鎌倉なぎさの会
   
106 桃のはなほほほんのりと咲きいでて密航者Qは故郷を憶う
                 「かりん」97年5月号

 近くに「ただならぬ気配にゆらぐ半島のおんなだまってキムチを漬ける」の歌があるからQは朝鮮半島からの密航者だろうか。レポーターの蓬莱さんが書いているように桃だから中国ということも考えられるし、「阿Q正伝」からの連想かも知れない。私は倉橋由美子の「スミヤキストQの冒険」を思ったのだが。いずれにしろ密航者Qは実在の人物ではなく桃の花と結びつけた空想の産物だろう。「ほほほんのりと」とぜいたくに二句め七音を使いきった平仮名表記の擬態語によって春のゆるやかな気分を伝えているのだろう。
 ちなみに「スミヤキストQの冒険」は、革命党から教化の密命を帯びて絶海の孤島の感化院へ渡ったQの、滑稽で哀れな非日常をシニカルに描いた小説である。スミヤキストからの連想だと歌のメッセージはかなり違ったものになるだろう。 (鹿取)
                          
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清見糺の一首鑑賞  105

2020-12-17 18:33:17 | 短歌の鑑賞
   ブログ版 清見糺の短歌鑑賞 16  夜寒坂
                                  鎌倉なぎさの会

105 護国寺という駅で降りなんとなく歩けばそこは夜寒坂なり
               「かりん」97年4月号

 護国寺には早稲田の創始者大隈重信の墓がある。ぶらぶら散歩することを「なんとなく歩けば」とちょっと逸らしたところが工夫であろうか。蓬莱さんのレポートに夜寒坂は「薬缶坂」とも書いて「やかんさか」と読むとある。何とも興醒めであるが、狐や野犬が出る寂しい場所だったと知れば別の風情もあるようだ。別の説によると、その付近が昔「夜さむの里」と呼ばれていたことによる名称とある。作者は「よさむざか」と詠むことで詩になったと思っていたのだろう。(鹿取)

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