かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の歌の鑑賞 215,216

2022-09-27 13:55:47 | 短歌の鑑賞
     ブログ版 清見糺の短歌鑑賞    
                  鎌倉なぎさの会  鹿取 未放


215 食道のカラーしゃしんをさししめし切りましょうかと医師は告(の)らす
                2003年5月作

    「かりん」2003年8月号・前月号鑑賞・中津昌子
 「深刻な場面をかるく歌いながら、そんな風に歌う姿勢そのものに気持ちを滲ませている。『切りましょうか』という医師のいいようには、手術など医者の側には日常のことというより、もう少し深い気持ちがこもっているように思われる。結局、病気はひとりで向きあわなければならない。その病者だけの、ぎりぎりの孤独が感じられると思う。『告らすも』という滑稽めかした言い方も、そこに繋がってこんな風にでもしてかわす他ないじゃないか、という声が聞こえるようだ。「しゃしん」とひらがなにひらいたのも、同じく重みを避ける配慮だと思うが、ここは漢字でよかったのではないか。かわす他ない気持ち、そこを見つめつづけると、どんな歌が生まれてくるのだろう。

 「告らすも」は、ことさらな敬語を使うことで、むしろ慇懃無礼というふうにも読める。医師の気持ちは中津さんの類推どおり心の深い部分から出たことばだったかもしれないが、作者はそれを理解した上でなお、「『切りましょうか』と簡単におっしゃいますが、私の体なんですよ。そう簡単にメスなど入れられたくないんですよ。」と抗いたい気分でもあったのだろう。「も」にもその気分が滲んでいる。

216 ラムズフェルドのごとき悪相しらじらとわが胃の腑への道せばむ見ゆ
                2003年5月作

 ラムズフェルドはタカ派で知られるアメリカの国防長官。ブッシュのもとで、穏健派の国務長官パウエルと常に競り合ってきた。2003年4はイラクのフセイン政権を転覆させた功績で71パーセントという高支持率を誇っていた。
 5月の作歌当時は頻繁にテレビ等で彼の顔写真が出て来たのであろう。その神経質で意地悪そうなラムズフェルドの人相と、自分の癌の映像の相似を言っている。ルゴールで染めると癌細胞だけが黒く染まらず、白っぽく見えるので「しらじら」と言っているのだが、ラムズフェルドの政治姿勢と癌細胞と、どちらに対しても、腹立たしく、いまいましい気分なのだろう。


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