かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠  155(ネパール)

2021-04-29 16:57:06 | 短歌の鑑賞
   ブログ版馬場の外国詠⑲(2009年7月)
      【ムスタン】『ゆふがほの家』(2006年刊)91頁~ 
      参加者:泉可奈、T・S、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子 司会とまとめ:鹿取 未放


155 マチャプチャレ鯱鉾のやうに空に跳ね一期を問へば空哄笑す

        (レポート)
 マチャプチャレとはネパール語で魚の尾という意味。そのマチャプチャレが「鯱鉾のやうに空に跳ね」と、今跳ねているので、そこをとらえ作者はこころみにもの申してみた。「一期を問へば」のである。小さな存在の果敢な問いを「空哄笑す」というように、空が呵々と笑ったというのである。マチャプチャレと作者の問答は成立せず、ただ無辺の空に包まれていたのだ。(慧子)

                                    
       (当日意見)
★そんな人間の小さな一生なんて俺の知ったことかよと、空が大笑いした。(T・H)


         (まとめ)
 誰が誰に聞いたのだろう。関連するが誰の一生なのだろう。一応、次のような場合が考えられる。(何か、入試問題のようだが)
 ①マチャプチャレが、自分の一生について空に尋ねた。
 ②作者が、自分の一生について空に尋ねた。
 ③作者が、自分の一生についてマチャプチャレに尋ねた。
④作者が、マチャプチャレの一生について、空に尋ねた。
 ⑤作者が、マチャプチャレの一生について、マチャプチャレに尋ねた。
 ①と考える理由は、直前の「空に跳ね」の部分の主語がマチャプチャレだからだが、悠然と空に跳ねるマチャプチャレが自分の一生について空に尋ねるなどということはしないだろうから×。
 ②は、T・Hさんの意見を反映している。とても魅力的な意見で、かなり加担したい気分だ。
 ③は、①同様マチャプチャレの行為を受けて続く部分だからだが、マチャプチャレに尋ねたのに空が哄笑したのは、やや繋がりが悪い。もちろん、空が問答を耳に挟んだという解釈も捨てがたい。
レポーターは、そういうつもりで書かれているのだろう。
 ④は、①に似ているが、悠然と空に跳ねるマチャプチャレが自分の一生を思い悩むこともなさそうだから、154番歌で「雄々しきマチャプチャレ」「われを閲せり」と讃えている作者がマチャプチャレの一生を尋ねさせることはないだろう。またそれで空が哄笑するのもおかしい。よって×。
 そんな訳で、会員の意見は分裂し、結論は出せなかった。私自身の意見は②。つまり雄々しく悠然と空に跳ねるマチャプチャレを見て、「マチャプチャレのように悠久な山と比べて私の一生はなんなんでしょうか」と思わず空に尋ねてしまった。飛行機に乗っているから空が近いんですね、だからきっと自然にそういう問いが空に向かって出たのでしょう。それを聞いて空は大笑いした。まさに「人間の小さな一生なんて俺の知ったことかよ」というわけである。
 *「カナジーの物見遊山」というサイト(https://cannergy.sakura.ne.jp/theme/mt3.html)で、ヒマラ  ヤの山々の写真を見ています。同じ山でも時刻や場所を変えて撮影されていて、すばらしい写  真です。馬場あき子の歌に出てくるマチャプチャレ、ニルギリ、ダウラギリ、アンナプルナな  どの他にもネパールの有名な山々が満載です。詳しいデータや旅行記も付いていて現地に行っ  た気にさせてくれます。またネパール以外にも世界各国の山々や文化遺産が載っていてすばら  しいサイトです。興味ある方は、どうぞ一度覗いてみてください。(鹿取)

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