Darkness Before the Daylight Blog

鋼の錬金術師、黒子のバスケにまつわる人々、漫画やアニメ、日々の楽しみ、その他つれづれ。

ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(10)

2011-12-31 23:59:52 | 小話

エドワードの弟、アルフォンスの行方は、意外に早くわかりました。

ブレダが持ってきた報告書によると、アルフォンスは、行方知れずになった地点から

いくつか山を越えた、北の小さな雪深い村で、雌のユキヒョウと暮らしているというのです。

「ユキヒョウだと?」

「はい。同じネコ科ですから、身体の大きさは大分違いますけど、一緒に暮らせるんで

しょうね」

「これによれば年齢も同じくらいだ。間違いなさそうだな」

「ええ。金色の目をした猫は、その猫とエドワード君以外には、いないようです」

たぬたんぐ大佐は、その情報をエドワードに伝えました。

エドワードが「アルを助け出す」と息巻くので、大佐は止めました。そういえばエドワードは、

壁に穴を空けたり鎖を切ったりすることが、錬金術で可能かどうか、質問してきたことが

ありました。それは弟を救い出すためだったのです。

しかし、ユキヒョウ相手にそんな物騒な真似をしたら、怒らせてしまいます。それは

返り討ちが恐ろしい。

「あのなエドワード。どうも報告によると、アル君とそのユキヒョウは、仲良く生活している

らしいから、まずは会えるかどうか、私が掛け合ってあげよう。とにかく顔を見てアル君の

無事を確かめて、その後のことはよく相談して決めたらいいと思うが、どうだ」

「大佐、ついてきてくれるのか」

「そうしよう。私も行って、一緒に話をしよう。だから、壁を壊す必要はないんだよ」

「うん、わかった」

エドワードはとても喜びました。そして、その村を訪れることになりました。

それまでと同様に、エドワードが困っている人を見つけ、大佐が助けるということを繰り返し

ながら、二匹は北を目指しました。

秋も深まり、朝晩はかなり冷え込む季節になっていました。北に向かっているのですから、

一日ごとに寒さが厳しくなってきます。初雪が降るのも、そう遠いことではないでしょう。

落ち葉を踏みしめながら歩く道すがら、エドワードはうきうきと言います。

「アル、俺の顔見たらびっくりするかな…何話そうかな。ねえ大佐、おみやげ何持ってけば

いいと思う?」

たぬたんぐ大佐はおみやげを一緒に考えながら、この道が永遠に続けばいいのにと思い

ました。その村に到着すれば、エドワードは弟と暮らすことになるでしょう。

たぬき軍部を通して、そのユキヒョウ-イズミ・カーティスと言うそうです-とは、すでに

連絡を取っていました。彼女は迷い猫のアルフォンスを保護して、自分の子どものように

優しく世話をし、育てているのです。ブレダがエドワードの存在を伝えると、イズミは、

アルフォンスから兄がいるのは聞いている、エドワードさえよければ、兄弟二人を引き取り、

面倒を見たいと答えました。

たぬたんぐ大佐は、実際にイズミに会ってみて、彼女が信頼に足る者であれば、その

申し出通りにすることが、最もエドワードにとって望ましいだろうと判断しました。

しかしそれは、大佐にとってとても辛いことでした。エドワードと出会ってからの年月、

大佐はとても楽しかったのです。

嬉しいと感じる時、それはエドワードが喜んだ時でした。

反対に悲しい時、それはエドワードが悲しんでいる時でした。

大佐の幸せは、エドワードと共にあったのです。

ほんの隣村まで送るつもりで一緒に始めた旅がこんな結果を生むとは、予想もしていま

せんでした。

この短い日々の間にいくらか大人びたように見えるエドワードは、大佐の心を惹きつけて

やみません。

※※※※※※※

いつまでもと願った旅でしたが、どんなものにも終わりはあります。

二匹はいよいよ、明日にはアルフォンスの暮らす村に着くという場所に来ていました。

「ただいま、エドワード。遅くなったね」

「お帰り、大佐。ご飯買ってきてくれた?」

「ああ、お待たせ」

二匹は小さな小屋に泊まることになりました。ホットドッグが夕ご飯です。

「今日はここで休むとしよう。明日会いに行く約束は取り付けてあるから、心配はいらないよ、

エドワード」

「うん」

食べ終わって、エドワードは言いました。

「なんか、この味なつかしい」

「そうか?」

「大佐に初めて会った時、もらっただろ」

覚えていたのかと、たぬたんぐ大佐は驚きました。

「大佐のおかげでアルにも会えそうだし、ホントに親切にしてくれたよな。ありがと」

大佐は黙って首を振りました。なぜか胸がいっぱいになりました。

「俺、大佐が大好き」

エドワードが小さな前足をひろげて、たぬたんぐ大佐の首に抱きついてきました。

大佐はびっくりしましたが、目を閉じてエドワードを抱き返しました。

「私もだよ」

そう言いました。強く抱きしめてしまいそうになるのを、エドワードが苦しいかもしれないと

思い、やめました。猫の身体はとても温かくて小さく、毛皮はふかふかとやわらかく、

それは初めての感触でした。最初で最後だと、たぬたんぐ大佐は思いました。

寒い夜でした。二人寄り添ううち、エドワードはすうすうと眠り始めました。大佐はエドワードを

横にして、毛布をかけてやりました。

さっきたぬたんぐ大佐は、エドワードには内緒にして、大急ぎでイズミ・カーティスの元を

訪れたのでした。

(明日、エドワードを連れてきます。以前ご相談した通り、その後のことはどうか、よろしく

お願いします)

(私はいいけど、エドワードはそれで納得しているのかい?)

(まだ話してはいませんが、彼にとっては兄弟一緒に、あなたのもとで暮らすのが一番の

幸せでしょう)

(あんたはどうするんだい)

(私はまた旅に出ます。仕事がありますし)

(それでいいのかい)

(はい。いいんです)

これが最善なのです。そう自分に言い聞かせていると、エドワードがうっすらと目を開け

ました。

「早く明日にならないかな。楽しみで、なかなか眠れない」

そうつぶやき、ごろごろと喉を鳴らして、幸せそうにエドワードは目をつぶりました。

いつもなら希望に満ちている明日が、今の大佐にとっては悲しいものでした。

「好きだよ、エドワード」

小さな小さな声で、大佐はもう一度言いました。

その言葉が口から自然にこぼれて初めて、たぬたんぐ大佐はその気持ちを自覚したの

でした。

………続く………

大晦日に更新!なんかたぬたんぐ大佐が切ない…

今年もあと数分、一年間たくさんの方々にご来訪いただき、ありがとうございました!

おかげさまで楽しい一年間でした。来年も頑張ります。

拍手、メッセージありがとうございます!

12/30  メグさま

いらっしゃいませ!クリスマス話、たぬたんぐ読んで下さって嬉しいです!

温かいお言葉ありがとうございます!来年もきっと相変わらずロイエドロイエド言っていると

思いますが、よろしくお付き合いいただけましたら、とっても幸せです。

小説にお褒めの言葉をありがとうございます!(照)一応話の整合性はとれるように

考えてはいるつもりですが…丁寧だと感じて頂けていれば、すごく光栄です。

推敲は思いついたらするので、かなり以前にサイトにあげた話でも、ひっそりと手直ししたり

しています。誤字脱字もよくあったりしまして…(汗)

たぬたんぐ話、笑って頂けて嬉しいです。ウインリィってなんとなく以前から、顔の両脇に

下ろした髪がちょっと犬の耳に似ていると思っていたので、ああしました。

管理人は犬が好きでして、「わふわふ」というHNも大きい犬のイメージなんですよ。

元気の出るお言葉を頂いて、また書きたい!という気持ちがいっぱい湧いてきました。

メグ様もお身体大切に、よいお年をお迎えくださいませ!


ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(9)

2011-12-29 23:51:20 | 小話

泣かせた私が泣かせてしまったなんてことだと、さっきまでパニック寸前だったたぬたんぐ

大佐は、エドワードがおててで涙を拭いたのを見て、どんなにほっとしたことでしょう。

急いでティッシュを出し、はなをかんでやりました。

エドワードはまだすんすんとしゃくり上げていましたが、大佐の真剣さに心をうたれたのか、

歯を食いしばって嗚咽をおさめると、はっきりと言いました。

「大佐、俺、弟に会いたいんだ」

たぬたんぐ大佐にとっては初めて聞く話でした。エドワードは全くの天涯孤独だと思い

込んでいたからです。

「エドワード、君には弟がいたのか」

「…うん」

「今、どこにいるんだ?」

「わかんねえんだ。小さい時に離ればなれになって、ずっと会ってないから」

「そうか。覚えていることを、できるだけ詳しく話してごらん。探す方法があるかもしれない」

たぬたんぐ大佐が優しく言うと、エドワードは頷いて、今まであまりしようとしなかった身の上

話を始めました。

エドワードは二匹兄弟で、同じ毛と目の色をした弟がいたというのです。弟の名は、

アルフォンスといいました。

親はなく気付いた時には二匹だけで、助け合って暮らしていました。

そんなある冬の日、アルフォンスは風邪気味でした。外はひどく冷え込んでいて、雪も

ちらつきはじめています。いつも寝床にしている小屋に早く戻ろうとして、兄弟が急ぎ足で

歩いていると、何か全くかいだことのない、肉食獣らしい匂いを感じました。

異変を察知したエドワードが、風邪で鼻の効かないアルフォンスに、遠回りをしようと

言いかけたその時に、突然目の前に巨大な生き物の影が立ちふさがったのです。

とにかく怖くて、兄弟は震え上がり、必死でその場から逃げ出しました。じきにはぐれて

しまい、エドワードはその大きな生き物の気配がなくなってから、アルフォンスがいそうな

場所を探して廻りましたが、どこにも弟の姿はなかったのです。知り合いの動物たちに

尋ねましたが、全く手がかりはありませんでした。

「それは一体、何だったんだ」

「今でもわからない…でも、前が全然見えなくなるくらいだった。俺、子どもだったから

正確じゃないけど、二メートルじゃきかないと思う」

アルフォンスとはぐれた場所は、たぬたんぐ大佐が以前暮らしていたたぬき軍部のある

村よりも北に位置していて、エドワードはその周辺で生活しながら、弟を探していたのだ

そうです。近場の村にはもう行き尽くし、別な場所にも当たろうと行動範囲を広げて

みたら、道に迷ってしまったのでした。空腹で困っていたところを、大佐に出会ったという

訳なのです。

今まで大佐にこのことを話さなかったのは、エドワードを見て大佐が「初めて見る目の

色だ」と言ったので、大佐はアルフォンスのことは知らないと判断したからだと、エドワード

は話しました。

たぬたんぐ大佐は、先ほどから、まるでどこかの忍びのように気配を消して控えていた

ブレダを手招きしました。

たぬたんぐ大佐は大佐ですから、こういう時にどうしたらいいかはよく知っています。

「エドワードと同じ毛皮と目の色をした雄の猫を探せ。至急だ」

「はっ」

「別の名前になっている可能性もある。似た特徴の猫はすべて、年齢は問わず、

居場所を把握して私に報告しろ。念のため『巨大な生き物』の方の情報も集めるんだ」

「わかりました。たぬき軍部の総力を挙げて調査します」

「そうだな、この際だからあなぐま軍部とあらいぐま軍部と、いたち軍部にも協力を要請

しろ。必要なら私の名前を出すんだ」

「フェレット軍部にも頼みますか」

「あの新興勢力か…いいだろう。とにかく情報が必要だからな」

「了解です」

ブレダは走り去りました。他ならぬエドワードのためですから、大佐は可能な限りの人脈、

ではなくてたぬき脈を、ここぞとばかりに奥の手として使いました。結果的にエドワードを

だますことになってしまったおわびの意味合いもありましたが、てきぱきと部下に指示する

たぬたんぐ大佐の姿を、エドワードが感嘆して見つめているので、はりきりまくったのです。

「大佐ってすごいんだな」

「なに、このくらいは大したことではないさ」

「ありがとう、大佐」

「礼を言うのはまだ早いぞ、エドワード。それよりも」

たぬたんぐ大佐は改まって、エドワードの前に跪きました。ふさふさしっぽを横に従える

ようにして、黒い目に力をこめて見上げます。

「エドワード、君を傷つけるのがつらくて、今まで本当のことを言わなくてすまなかった。

君の弟を探し出すために努力すると約束する。だから、許してくれるか」

「うん」

エドワードが元気よく頷いたので、大佐はほっとしました。

あのピナコ・ミー・ロックベルの言っていた『チャームの魔法』の効き目なのでしょうか、

エドワードは機嫌を直し、たぬたんぐ大佐と前足をつないできました。

大佐はとても嬉しかったのです。

そして大佐は、アルフォンスがどこかで元気でいることをひたすら願いました。エドワードを

不安にさせるのを避けるため、口には出しませんでしたが、寒い冬の夜、子猫が一匹で

生き抜くのはなかなかに厳しいものがあります。それに大きな動物がうろうろしていたの

なら、襲われた可能性も否定できません。誰かに拾われていればいいのですが…

「エドワード、弟のアルフォンスくんが」

「アルでいいよ」

「そうか。では、アルくんがもしも見つかったら、エドワードはどうしたいんだ?」

そう尋ねると、エドワードはちょっと口ごもりました。

「…俺、アルと暮らしたい」

その言葉を聞いて、たぬたんぐ大佐は少しだけですが、寂しい気持ちになりました。

兄弟がもしも一緒に暮らせる日が来たら、大佐とエドワードの二匹の旅は、終わることに

なるからです。

………続く………

明日のコミケで、先日小説を寄稿させて頂いた新刊が初売りになります。

サイトのHOMEから情報をご覧になれますので、よろしかったらどうぞ。

管理人はコミケには行けないので、皆さんにとって楽しいイベントでありますように

お祈りしております。暖かいといいですね。

たぬたんぐ話も佳境(第一部の)に入ってきました。ハクビシン軍部も出そうかと思ったん

ですが、マイナー過ぎるかな?と思って止めておきました。

ご来訪、拍手ありがとうございます!


リゼンブール小学校のお話を

2011-12-27 00:26:04 | 更新しました

ほんのちょっぴり加筆して、とりあえず4月分をサイトに転載しました。

ブログの方の話は削除してもいいのですが、日記部分や拍手お返事も含まれているので

そのままにしておきます。また思いつき次第、続きも書いていきます。

たぬたんぐ話も区切りがついたら、サイトにまとめたいと思います。

ご来訪、拍手ありがとうございます!


ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(8)

2011-12-25 11:19:50 | 小話

「エドワード!!」

たぬたんぐ大佐は駆け寄りました。こんなにうろたえたのは記憶にありませんでした。

「大丈夫か!?」

エドワードを抱き起こすと、赤い顔をしてはあはあと浅い息をしています。明らかに

相当な熱が出ています。

「なんてことだ…」

エドワードの身体はとても熱く、大佐はどうしていいかわかりません。病気の猫の世話など

したことがないのです。何よりずっと元気だったエドワードのぐったりした姿が、

心配で心配でたまりません。

「しっかりしろ」

エドワードを抱えたまま途方に暮れる大佐に、ピナコが言いました。

「あんたの家はどっちなんだい」

「旅の途中なので、家はないんです」

うつむいて答えると、ピナコが親切な言葉をかけてくれました。

「よかったら、家はこの近くだから、休んでいかないかい。薬草も揃ってるよ」

「助かりますが…いいんですか!?」

「勿論さ、最初に世話になったのはこっちだ」

「そうよ、困った時はお互い様だもの」

ウインリィもしっぽを一振りして、先に立って案内してくれました。

エドワードを抱いたまま、大佐は後に付いていきました。エドワードは小さく軽くて、

苦しそうなのが可哀相でなりませんでした。

木で出来た小さな小屋の中の、清潔な藁が敷かれている所にエドワードを寝かせました。

熱に良く効くという薬草をピナコが煎じてくれ、蜂蜜で甘くしたものを大佐が口元に持って

行くと、エドワードは半分寝ながらそれを飲み、むにゃむにゃとまた横になりました。

「疲れたんだろうね。風邪をひきやすい季節だし。二、三日ここで寝ていくといいよ」

「本当に、ありがとうございます」

たぬたんぐ大佐は深く頭を下げました。

しばらくすると薬草が効いたらしく、エドワードは肉球に汗をかきはじめました。大佐は

それをこまめに拭き、時々水を飲ませ、果物をむいてやり、合間にはうちわでそよそよと

風を送ってあげました。

「さっき拾ったんだけど、これはこの子のものかな」

ピナコが差し出した手帳は、以前大佐がエドワードにあげた物でした。

「そうです、すみません」

受け取ろうとした時、ページの間から紙切れが何枚か落ちました。

拾ってたぬたんぐ大佐は驚きました。それには、小さな錬成陣が描かれていたのです。

エドワードが考えたもののようでした。

「…」

大佐はその紙と、エドワードの寝顔を見比べて、困り果てました。

猫には、いくら勉強しても、たぬきの錬金術は使えないと思われるからです。それを知らず、

未来を夢見て描いたのでしょう。

自分のしたことが、残酷な結果を生んでしまいそうで、大佐はまたうつむきました。

「この子も錬金術師なのかい?」

「いえ」

大佐は、小声で打ち明けました。ひょんなことから一緒に旅をすることになって、無理と

知りつつ、錬金術を教える約束をしてしまったと。

「…それは、この子を傷つけたくないなら、むしろなるべく早めに打ち明けた方がいいね」

「そうですね」

「でも、辛いところだね」

「はい」

昏々と眠るエドワードを見守りながら、妖精とたぬきは悲しい気持ちになりました。

大佐は、一緒に旅をして一ヶ月、自分がこれほどエドワードを大切に思っているとは、

今まで自覚していなかったのです。そしてピナコは大佐の献身的な看病ぶりに、ただただ

感心していたのでした。

「でも、この子には不思議な力があるね」

「…はい」

口に出しませんでしたが、エドワードが困っている人を見つけられることを指していると、

お互いわかりました。

「それから、あんたにもね」

「はい?」

たぬたんぐ大佐はきょとんとしました。

「我々妖精の世界では『チャームの魔法』というけれど、その気になって見つめれば、

相手の心を惹きつけることができるのさ」

これは、大佐が雌の動物にやたらともてることを意味しているのでしょうか。軍部でも

雌たぬきに人気はありましたが、このごろではさらにその傾向が強いので、大佐自身も

ちょっと不思議だったのです。

「いや、以前黒豹のグループに出会った時に、似た力を持っている豹がいたんだよ」

「はあ」

「あんたは大佐だったね。その豹は確か、少佐だったよ。知り合いではないかい」

確かバンコランとかいったよ、とピナコは言いました。大佐にとっては初耳でした。

………

三日後にはエドワードの熱も下がり、食欲も戻ってきて、また旅に出ることができるように

なりました。時折エドワードはウインリィとも遊び、友達ができて嬉しそうでした。大佐は

お礼にと、家の中の用事を引き受けたり、力仕事を手伝ったりしました。

情けは他たぬきのためならず。

「近くに来ることがあったら、また寄っていってね」

「ありがとうございました」

エドワードと大佐は前足を振って、また歩き始めました。

「親切な人たちだったな、エドワード」

「…ん」

「まだ本調子ではないだろう。時々休もうな」

「ん」

大佐は、こちらを見ようとしないエドワードの方を、じっとうかがいました。エドワードはもう

健康体のはずなのですが、態度がちょっと変なのです。

たぬたんぐ大佐はここ三日、たいへん熱心にエドワードの看病をしていました。

それなのに、大佐に対してだけ、どうも拗ねた様子なのです。当然、大佐はちょっと面白く

ありませんでした。

「それからなエドワード。具合が悪いときはちゃんと言うんだ。でないと余計にひどくなる

から、本当のことを話さないといけないぞ」

そう言った時です。突然、エドワードがキッと睨んできました。

「大佐の方こそ、俺に嘘ついてるじゃないか!」

涙のたまった金色の目に、大佐は内心ぎくりとしました。

「…何だ」

「俺、猫だから大佐の錬金術使えないんだろ。だったら最初に教えてくれよ。ひどいじゃ

ないか」

そう叫んで、エドワードはぽろぽろと涙をこぼしました。

エドワードが完全に眠っていると思い込んで、近くでピナコと話した内容を、実は聞かれて

しまっていたのです。

これにはもう、弁解のしようがありません。大佐はエドワードに謝りました。

「すまない。だますつもりではなかった」

「…俺には不思議な力があるって、何の話なんだよ」

大佐は説明しました。しかし、それはエドワードを元気づける話ではありませんでした。

エドワードは顔を両前足で覆い、しくしくと泣きました。

「困ってる人を探せるのはいいけど…俺が欲しかったのは、そんな力じゃないんだ」

あとはなかなか言葉になりませんでしたが、良く聞くと、それじゃだめなんだと繰り返して

います。

たぬたんぐ大佐は尋ねました。

「エドワード、君は何か、したいことがあるのか」

エドワードはしゃくり上げながら、首を縦に振りました。

「なら、それを話してくれないか。私が何か役に立てるかもしれない」

これまでのエドワードの熱心な修行ぶりを思い起こすと、何らかの大切な目的があり、

それが原動力だったとしか考えられません。

「大佐、俺の話聞いてくれる?」

「当たり前だ、エドワード。私でできることなら何でもする」

………続く………

ご来訪、拍手ありがとうございます!


ロイ・たぬたんぐ大佐とエドにゃんのお話(7)

2011-12-24 14:35:46 | 小話

それから二匹は行く先々で、なぜか困っている動物に出くわし、それを大佐が錬金術で

助けたり、持っていた物を役立てて解決したりするということが続きました。

不思議なことに、エドワードが指さした方向にいる誰かが、見ただけではそれとわから

ないのに、尋ねてみると困りごとを抱えているということがよくありました。実際に、

手の届かない場所にある落とし物を拾ったり、壊れた物を修理したり、たき火に火を

付けてあげたりするのは、大抵はたぬたんぐ大佐でしたが。

そうすると、助けた動物からお礼を何度も言われ、場合によっては「ほんの気持ちです」

と、持っていた食べ物を分けてもらうことも、一度や二度ではありませんでした。大佐は、

エドワードを連れているにもかかわらず、予想していたよりも財布の中のお金が減って

いかないのが少し意外でした。

何より大佐にとって、錬金術をはじめとする自分の力で、人助けをして感謝されると

いうのは、とても心が安まりました。腹黒いたぬきの習性として動物界で悪役を演じて

きましたが、大佐にとってそれは心の負担で、神経がすり減るのです。それにひきかえ、

心からありがとうと言われ、こちらは化かしていないのでそれを言葉通りに受け取れるのは、

気楽で充実感がありました。

この猫と二匹でこうやって暮らしていくのも、いいかもしれない。

大佐はいつしか、そんな考えまでが浮かんでくるのに驚いて、あわてて思い直しました。

何のための旅なのか、エドワードと二匹で過ごしているために、忘れそうになったのです。

それにしてもと、たぬたんぐ大佐は考えました。

エドワードには、困っている人の存在を感じ取る、特別な能力があるようなのです。

この世にそんな力を持つ者がいる。そんな話は全く聞いたことがありませんが、

エドワードが視線を向ける方向に、まるであらかじめ計画していたかのように、ピンチに

陥っている動物が出現するのです。その頻度に、大佐は消防か警察にでもなったような

気がしました。

「ねえねえ、大佐大佐。あそこで誰か困ってる」

「よしきた、行くぞエドワード。それぴーぽーぴーぽー」

かつてはクールで鳴らした大佐なのに、このごろではこんなのにまですっかり慣れて

しまいました。試しに一度ふざけてみたらエドワードにバカ受けしたため、大佐はそれから

毎回、サイレンの口まねをするようになったのです。これではほとんど救急車の出動か、

全国を漫遊した水戸黄門です。世直しはしちゃいませんが。

困っている人を見つけるのはエドワードですが、その相手の異常なまでの雌率の高さは、

いったいどうした訳でしょう。

そっと近寄っていって「お嬢さん。もしや何かお困りですか」と声をかけるのは、これでも

雌たぬきに絶大な人気を誇った甘いマスクの持ち主、たぬたんぐ大佐ですから得意中の

得意、思わず腰の砕ける美声にも隙なし。相手がぽっと顔を赤らめ、熱のこもった目で

見つめてくることも決してまれではありません。幼い子どもからよぼよぼのおばあちゃん

まで、守備範囲も万全です。いや、もちろん雄の動物も助けるけどさ。

今日もまた、ベビーカーの車輪が片方壊れてしまい立ち往生していた若い母親アライグマと

赤ちゃん(これがまた女の子だったりする)を道ばたで助け、お礼にお菓子と尊敬の

まなざしを貰ったのでした。

「どうして、困っている人がいるのがわかるんだ?」

大佐はまた尋ねましたが、エドワードの返事はいつもと同じでした。

「なんか、そんな気がしたから」

ふうんと、大佐は腕組みをしました。

「おや」

見ると、エドワードの様子が、少し変でした。最近は整っていた毛並みが良くなく、

いつものつやを失っています。金色の目も潤んで、とろんとしています。普段なら

エドワードはすぐに貰ったお菓子を食べたがるのに、前足を出そうとしません。そういえば、

朝も起きるのがいつもより遅かったようです。

「疲れたのか?」

「…ううん、大丈夫」

「具合は悪くないか?」

「うん」

「ならいいが。元気がないような気がして」

エドワードは歩きながら、また進行方向を指さしました。

「ねえ大佐」

「どうした、またぴーぽーか」

ずっと遠くで、困ったように橋から下を見下ろしている生き物の影が見えます。

ぽてぽてぽてと大佐は足を速め、そちらへと近寄っていきました。

………

小柄な女の子のようでした。どこかで見覚えがあります。

「どうしましたか」

紳士らしく尋ねると、振り向いたのはおばあちゃんでした。

「連れが、登って来られなくなってしまって」

一緒に見下ろすと、犬が崖下の川岸でもがいています。

怪我はないようですが、土が崩れやすく、登ろうとしても滑り落ちてしまうのでした。

「では、お待ちください」

大佐が錬金術で、手早く土を固めて階段状にしてあげると、犬はそばにあったなにやら

光る物をくわえて、すぐに上がって来ました。

見るとそれはスパナで、下に降りたのはこれを落としたためだったようです。

「ありがとうございました、助かりました」

犬は金色の長毛種で、まん丸のきれいな目と、顔の両脇の長い垂れ耳が特徴でした。

名前を聞くと、ウインリィ・ダックスフント・ロックベルと名乗りました。機械いじりが好きで、

スパナは宝物なんだそうです。どうやって握るんだ。

変わってるなあと大佐は率直に思いましたが、そんなことはおくびにも出しゃしません。

一緒にいた老女は、珍しい妖精の、ピナコ・ミー・ロックベルという名前でした。

伝説のムーミン谷から特別出演、種族が全然違うのになぜ同じ名字なのかは謎でした。

「錬金術師なのかい」

「そうです」

大佐は名前と階級を名乗ろうとしました。

「あっ、大変!どうしたの!?」

ウインリィが叫びました。何事かと振り向くと、エドワードがそこに倒れていたのです。

………続く………

ご来訪、拍手ありがとうございます!

買い物に行って、家に在庫があるのを忘れて買ってしまうことがあるのですが

今日ついにケチャップ三本目をやらかし、動揺を隠しきれません。おバカじゃのう。